―― 「メモリー・ソリューション・カンパニーを目指す」という方針を打ち出しました。
TSV技術を核に、DRAMとフラッシュメモリー、プロセッサ、ロジックLSIを1パッケージに収める。低電力で高速に動作するこのパッケージを携帯電話からデジタルカメラ、ネットブックに至るあらゆる機器へ提供する。
TSVで集積するチップを供給する多くのメーカーとの提携関係のもとで、こうしたソリューションを提供する企業を目指します。我々がTSVを重視するのは、3つの背景によります。
第1に、DRAMやフラッシュの微細化限界が近づいていること。TSVは微細化に代わる高集積化の手法となります。
第2に、DRAMのビット成長が今後はおそらく鈍化すること。ロジックLSIなどを取り込んだ製品を成長エンジンとする必要が出てきます。
第3に、デジタル機器の生産拠点が中国へ移っていくこと。TSVですべてのデバイスを1パッケージ化できれば、それを載せるボードの設計を単純化でき、しかも品質を保証しやすくなる。
新興国の機器メーカには大きなメリットと映ります。
―― TSVでは、接続の仕様を異なるデバイス間で統一する必要があります。
接続仕様の標準化を我々が先導していきます。TSV関連でパートナーとなるロジックLSIメーカーは基本的にファブレスであり、製造能力を持ちません。
彼らはTSVの開発を主導できないわけです。業界でいち早く我々がTSVの標準仕様を確立し、それにファブレスやフラッシュメーカーが付いてくる。このような構図を目指します。
そのために,デバイス間接続のカギを握るインタポーザの開発に注力しています。TSVによるソリューションを実際にどのような形で機器メーカーへ提供するのか。
ここはもう一つ別の問題となります。つまり、DRAMメーカーである我々がTSVを使うパッケージ製造にどの範囲までかかわるかです。
ファブレスやフラッシュメーカーが我々にTSV対応のデバイスを供給してくれるかといえば、なかなか難しいと思います。彼らと競合しない中立な立場でパッケージを製造できるメーカーが必要になるでしょう。
まずは、国内で我々がTSVの製造技術を固めますが、将来的には台湾のアセンブリ企業に生産を委託する形態を考えていく必要があると思っています。
―― TSVによるソリューションが主流になると、業界での競争関係が大きく変わりそうです。その場合、競合はどこになるのでしょうか。
やはり、韓国サムスン電子です。フラッシュやロジックLSIのメーカーを含めても、TSV技術で最も先行しているのが我々とサムスン電子ですから。
TSVで勝っていくには、技術開発で先行して業界標準を握り、ファブレスやフラッシュメーカーとの提携関係をいち早く確立することが重要です。
我々は、2010年初頭にまずはDRAMだけをTSV接続したパッケージを製品化します。2011年には、ロジックLSIなどを含めたパッケージを実現する計画です。
―― 汎用DRAM事業では台湾勢との関係を強化しています。以前から提携していた力晶半導体、合弁の瑞晶電子に加えて、茂徳科技と華邦電子への生産委託を決めました。
ようやく台湾4社と我々が一緒になれました。アセンブリでは、既に台湾企業とのパートナー関係があります。
TSV関連事業の展開を含めて、このように台湾に事業の足場を築いたことは、ボリュームゾーンである中国市場を獲るための重要な足掛かりとなります。
これで、世界のDRAMメーカーは4グループに絞られました。
エルピーダ、サムスン電子、ハイニックス半導体,米マイクロン・テクノロジーと台湾2社(ナンヤテクノロジとイノテラメモリーズ)の連合です。
これが3~2グループへ収束するかどうかが今後の焦点ですが、我々は台湾4社との連合で戦うつうもりです。シェア世界一への勝算は、十分にある。
ただし、我々と一緒になりたいというDRAMメーカーが他に出てくれば話は別です。台湾勢と組んだのは、シェア拡大とは別にDRAM価格を安定させる狙いがあります。
DRAM価格は最近2年半で1/15に下落しましたが、これはどう考えても異常です。我々が価格決定への影響力を強め,常軌を逸しない範囲で価格競争が起こる方向へ業界を動かしたいと思っています。
―― ソリューション事業へ軸足を移す中、汎用DRAM事業は今後も継続していくのでしょうか。また、DRAMの微細化はどこまで維持できますか。
長期的には、汎用DRAMを単品として売る事業は必要がなくなるかもしれません。汎用DRAMを載せている機器にも、やがてTSVによるソリューションが入ってくるでしょう。
TSVは、そうした形でコモディティ化すると思います。
微細化については35nmまでは見えていますが、30nm以降はかなり難しい。世代交代が3年に1回といった具合に、業界全体でスローダウンするでしょう。
【記事引用】 「日経マイクロデバイス/2009年12月号/日経BP社」