国内の半導体大手が、工場や設備をなるべく持たないファブライトへの転換を図っている。
経営統合で合意しているルネサステクノロジとNECエレクトロニクスは、前工程の製造ラインを合わせて4割弱削減する予定。富士通マイクロエレクトロニクスも先端品生産を台湾TSMCに委託する。
需要激減で経営環境が一変したためだが、事業モデル転換で対応できるのか。課題は山積している。
●固定費削減で生き残り
「身軽にならないと固定費だけで倒れてしまう」。6月下旬に社長に就任するNECエレの山口純史取締役執行役員常務は、こう強調する。
NECエレとルネサスは、統合までに合計で9000億円近い総固定費を7000億円程度に減らす計画。08年3月末に25あった前工程の製造ラインも、16に削減する。
05年に三重県桑名市に直径300mmのウエハーを使う先端工場を建設した富士通マイクロエレクトロニクスも、「今後はファブライトでいく」と話す。(野副州旦富士通社長)。
先端品の製造をファウンドリー最大手のTSMCに委託、次世代のプロセス技術開発も同社と連携していく方向。
●水平分業時代に突入
国内各社はこれまで、設計から製造までを自社で網羅する垂直統合モデルを採ってきた。
代表的なメモリーのDRAMで世界を引っ張った80年代に設立したエ場に先端装置を追加、地域の雇用の受け皿の役割も果たしてきた。ただ、この10年で環境は急変。
01年を境に生産効率の良い直径300mmのウエハーが市場に出回ると、3000億円規模とされる製造ラインヘの投資を嫌って、生産の外部委託が本格化した。
その設備を利用する形で、携帯電話チップなど用途を絞り込んだファブレスメーカーも成長してきた。
欧米の非メモリー大手も、先端投資を諦めてファブライトに方針転換。欧州のSTマイクロエレクトロニクスは、04年に23.4%あった売上高に占める設備投資額の割合を、08年に10%に縮減。
米テキサス・インスツルメンツも、07年にファブライトヘの移行を明言し、世界は水平分業の時代に突入した。
●ぬるい環境と決別
これまで違う時間軸で生きていた日本企業も、08年秋以降の世界不況で状況は一変。NECエレとルネサスの統合交渉も、日立製作所、三菱電機、NECが出資比率を下げたいことから始まった。
親会社である総合電機メーカーの保護の下、国内中心に商売してきたぬるい環境と決別せざるをえない。
既に競争力を失った直径125mm、150mmウエハーなど旧型ラインの整理、それに伴う人件費の削減など対策は必須だが、資産を軽減すれば勝てるというほど単純なものではない。
マイコンなどの中核となるCPUコアを設計するファブレス、英アームのウォリン・イーストCEOは、「我々は他社との協業の中で最適な解決策を市場に供給できる」と話す。
同社は、世界の約200社とライセンス契約を結んでおり、収入の半分が特許料。08年の売上高は前年比15%増、純利益は同29%増だった。
●厳しさ増す経営環境
日本の半導体各社が対戦するのは、激戦を勝ち抜き、商品力で世界市場に浸透してきたメーカー。
世界半導体市場統計(WSTS)によると、09年の半導体市場は、前年比21.6%減とITバブルが崩壊した01年に次ぐ下落幅となる見通し。
各社を取り巻く経営環境は、ますます厳しくなっている。
【記事引用】 「日経産業新聞/2009年6月5日(金)/5面」