現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

津村記久子「エヴリシング・フロウズ」

2017-01-31 13:25:57 | 参考文献
 「ウェストウイング」(その記事を参照してください)という作品で小学校六年生だった少年の三年後を描いた作品です。
 一般書という体裁で出ていますし、文章や描写も現在の中学生には難しいと思いますが、1980年代だったら児童文学として出版されていてもおかしくない作品です。
 作品世界の雰囲気をうまくとらえた内巻敦子のイラスト風の挿絵がかなりふんだんについているので、あるいはヤングアダルト向けに出版されたのかもしれませんが、出版社が文芸春秋ということもあって、流通的には一般書扱いです。
 1980年代には大きなテーマになり得た離婚がここではありふれた事柄(主な登場人物である少年少女七人のうち少なくとも三人は離婚家庭です)になっていて、いじめ(これ自体も日常的な事柄でしょう)がエスカレートした壮絶なリンチや義父による妹への性的虐待などの今日的なテーマがクローズアップされて描かれています。
 それと並行して、中三の彼らの日常的モチーフである、塾、文化祭、高校受験、将来の進路、卒業、別れなども、うまく絡めて描かれています。
 こういった作品は、現在の児童文学でも書かなければならないと思いますが、現状ではほとんど出版されていません、
 同じく一般書で、中脇初枝の「きみはいい子」(その記事を参照してください)のような作品はありますが、あれは大人のしかも上から目線で書かれていて、しかも学校や行政に対する批判精神を著しく欠いた反動的なものです。
 この作品では、あくまでも中学三年生の視点で描かれ、無力な大人や学校や行政に対する暗黙の批判になっています。
 この作品は児童文学としても評価されるべきだと思いますが、閉鎖的な既存の児童文学界からは津村の外の作品と同様に黙殺されることでしょう。
 スマホ、デジカメ、ロードレーサー、コンビニ、イケアなどの現在の中学生を取り巻く風俗はうまく描かれていますが、頻出する美術や音楽や映画や本などの情報は、現在の中学生のものというよりは、作者自身の趣味が色濃く感じられます。
 同じ作者の「ミュージック・ブレス・ユー」ではそのギャップをあまり感じなかった(もっとも、その作品の登場人物は高校三年生でしたが)ので、津村も年を取って、現実の中学生の風俗を描くのは苦しくなっているのかなあと思いました。
 もっとも、これは児童文学作家の共通の悩みで、私自身も三十代になってからはかなり苦しくなりました。

エヴリシング・フロウズ
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