現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

松浦梨英子「奇貨」奇貨所収

2017-01-30 09:30:12 | 参考文献
 「奇貨」とは、広辞苑によると、「珍しい財貨」から転じて、「利用すれば意外の利を得る見込みのある物事や機会」のことだそうです。
 男社会からはぐれた45歳の男性作家(しかも糖尿病なので男性としての機能にも自信がない)が主人公で、会社の後輩で35歳のレズビアンの女性との奇妙な同居生活を描いています。
 この小説での「奇貨」は、主人公にとって性的対象ではなく年の離れた妹のように思えるこの女性のことです。
 あまりに貴重な存在なので、その女性に親しい同性の友だち(ただし性的関係ではない)ができた時に、不思議な嫉妬心が起きて彼女の部屋を盗聴して、その友達とのPC電話での会話を聞いてしまいます。
 盗聴が発覚して、女性が彼の元を去ることになった時、主人公は改めて彼女が自分にとっての「奇貨」であったことを思い知らされます。
 あえて極端な設定を取った中で、生きていくことの孤独や人と人との関係について浮かび上がらせる腕前はさすがなものがあります。
 児童文学でも、同性や異性の友情についてこのように考えさせる作品は、人と人のリアルな関係(ネットやスマホを通してではなく)が希薄になった現代においては重要なテーマだと思います。
 それにしても、松浦は女性なのに、(性的な意味での)風俗や同性愛の世界に詳しいのには驚かされます。
 性(異性間でも同性間でも)は、松浦にとって一貫して重要なテーマなので、身銭をきって十分に体験や取材をしているのでしょう。
 やはりそういった裏付けが、作品世界を豊かにするのだなと思いました。


奇貨
クリエーター情報なし
新潮社
『本』 ジャンルのランキング
コメント   この記事についてブログを書く
« 内田百閒「彼ハ猫デアル」ノ... | トップ | 鳥越信・長谷川潮編著「はじ... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

参考文献」カテゴリの最新記事