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Brugge Style
nomina nuda tenemus
ベルギーは世界でも珍しい「夫婦別姓」の国である。
別姓を選択する自由と権利があるとかいうレベルの制度ではなく、「生まれ持った姓は一生変わらない」制度なのである。
結婚しても夫婦は元の姓を名乗り、父系であるから生まれてくる子どもは特別な事情がない限り父親の姓を名乗る。
例えば Jan Brugge さんという男性とMarie Kobe さんという女性が結婚した場合、ヤンさんの姓もマリーさんの姓も変わらず、子が生まれたらその子は父親の 「Bruggeさん」を名乗ることになる。Pieter Brugge くん、Louise Brugge ちゃんという具合に。
だからカップルの連名を見ただけでは彼らが結婚しているのかどうか分からない。事実婚も多く(たしか5割位)、それで何ら権利も損なわれず社会的支障は全くない。実際わたしたちの友人カップルにも事実婚は半分より多い。
わたしと夫とは法律婚をしていて、ベルギーの慣習にのっとり別の姓を名乗っている。夫と娘は同じ姓、わたしのは違う。
家族内だと、義理の父、夫、娘は同じ姓、義理の母とわたしの2人は違う姓だ。わたしから見た一親等家族内に3つの姓があることになる。
当然パスポートや身分証明書の記載もそのとおりであり、旅行の時など姓の異なる子どもを連れていてパスポートコントロールに時間がかかったり誤解されたりすることがあるのではないか?と不安に思ったりもしたものの、日本を始めアジア諸国、米国でもアラブ諸国でも問題にされたことは一度もない。
実はわたしは今も前夫の姓を名乗っている。
離婚したときにすでにこの姓で社会活動をしていたので変えるのが面倒だったことと、再婚する気も満々だった(笑)ので、「もう一回結婚したらまた変わるし2回も変えるのはわずらわしい」と判断したからだった。
それでなんという確率か、再婚相手がベルギー人。
初めは前の夫の姓を名乗ったままというのはどうかとも思ったが、現夫本人は全く気にしていないし、わたし自身もこの姓が気に入ってもいるしで問題ない。
そういうわけでベルギー時代、われわれは常に、Mijnheer Brugge とMevrouw Kobe だった(Mijnheer、Mevrouw は蘭語の敬称で、仏語のムッシュー、マダムの意)。
わたしがおもしろいと思うのは、例えば仏語蘭語の女性の敬称「マダム」には現在では既婚未婚の意味合いが失われている。例えば1920年代を舞台にしたアガサ・クリスティーが原作のTVシリーズ「ポワロ」では、ポワロは女性を見ると恭しくマダモアゼルを連発している。しかし現代では既婚未婚にかかわらず、妙齢の女にはマダムを使用するのが失礼がなく無難だ。
たとえばわたしの友人がパリで、マダモアゼルと呼ばれた、若く見られたと喜んでいたが、それは喜ぶところではなく、ちょっと軽く見られたということである。
一方、別の友人がロンドンでマダムと呼びかけられ「貴婦人」と思われた?と喜んでいたが、マダムは単なる「敬称」で、うちの12歳の娘でさえマダムと呼ばれる(笑)。
そしてMijnheer Brugge とMevrouw Kobe が一年前に引っ越して来たのが英国だ。
わたしは英国の慣習を考えることもせず、Ms Kobe と名乗った。Msというのは周知の通り、既婚未婚の区別無く使用できる敬称である。
入学手続きの書類を書いた時も、わたしは何の躊躇もなくMs Kobe と記入した。
ところがしばらくして配布された名簿や書類を見て驚く。
そこには1人のMsもおらず母親である女は皆Mrs.であり、夫婦別姓の人などひとりもいないという事実だった。Mr. Brown とMrs. Brown、 Mr. Smith とMrs. Smith...
そういえば先生方も女性は必ずMrs. か Miss である。
わたし自身、夫と事実婚では?と思われたとしても全然かまわない。
参考のため、「法律婚ではない」という印象をある階層グループの英国人(英国はわたしが今まで暮らしたどの国よりもすさまじき階層社会である。出身校、居住地、職業、財産、地位が交わることはほとんどない)に与えるのはどうなのかと質問してみたら、あなたたちの場合は外国人だからさほど問題にはならないかもしれないが、一方で外国人故の何か事情があると思われるかもしれない、という回答が返って来た。
英国は別姓の自由もあるにはあるとは言え、結婚前の名前を残したい場合、Mrs. Kobe-Brugge と名乗る方が圧倒的に多いとも教えてくれた。
正式な法律婚をしていることが社会的信用であり、次世代に伝えるステイタス(財産や名誉)の有無を匂わせる、そんな社会集団もあるのですね...
わたしは守るべき信条もポリシーも何もない人間なので、機会があったら名前を全部 Mrs. Kobe-Brugge に変えようかと思っている。
わたしは外国に住む限り「郷に入っては郷に従え」の教えに従いたい人間だ。
納豆を食うなとか、レストランで日本語で盛り上がるなとか、最近イラクからのニュースであったように「女性の処女検査」などと言われたら断然戦う気持ちで一杯だが、その国の穏便平和な慣習に限りリスペクトしていることは示したい(<そう、示したいだけである)と思っている。
それは自由な国においてであってもだ。真の自由というのは自分の好き勝手100パーセントやり放題が許されているということではなく、自分の自由の中から何割かを公共に差し出し、他の人達とお互いの自由を少しずつ譲り合い、少しずつ不自由を甘受することだからだ。
敬称の話はそんな大したことではないか。ま、学校の名簿で悪目立ちしたくないとか結局セコいそういうことなんです...
高等学校の時の英語の先生(マルレーネ・デイトリッヒの大ファンのモダンなマダムだった)が「Mrs というのは、男性の敬称 Mr. に所有格のS がついたもので、田中さんのものである女性という意味なのよ」と言っていたのを思い出す。
今となってはこの辺りの国々で、もし旦那さんが妻は所有物だなどと思っていたとしたら、彼は明晩にも...以下略。
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