goo

悪魔とロマン主義



堕天使といえばこの方、ミルトン『失楽園』のルシファー。
彼は「神に最も愛されたもの」だった。



今夜はロンドンのバービカンでDaniil Trifonovのピアノ・リサイタルだ!

...が、今朝10時になって公演キャンセルになってしまった。
楽しみにしていたプログラムだったのに。


プログラムを見た時、「秀逸だなあ」と思った。
悪魔的にスタイリッシュ。

トリフォノフは演奏中汗だくになると、悪魔のような表情(演奏ではなくて顔の表情)を見せることがあり、今までのリサイタルのプログラムも鑑みて、彼自身、そういうのが好みなのでは...
わたしの推測は明後日の方向を向いているかもしれない(笑)。

ラヴェルの『夜のガスパール』(<わたしは大好き)が後半に置かれ、これがもしオープニングだったら、もっとこのリサイタルの趣旨がはっきりしたのかも...と。一方で、わざと中間に入れたのがさりげない悪魔らしさなのかな。

このリサイタルのタイトルをつけるとしたら、『夜のガスパール』とか『悪魔とロマン主義』がいいかもしれない。

うん、全部わたしも思い込み、わたしだけの素っ頓狂な解釈だ。



悪魔のイメージ。こちらは素の悪魔だが、当然彼はどんな魅力的な姿にもなれるのだろう。


悪魔とロマン主義。

ロマン主義は18世紀から19世紀に盛んになった芸術運動だ。

それまでの伝統的な社会・文化的な規範や権威に対する反動的な精神は、個人、自由、創造性、情熱、欲望、夢、愛や旅...などを重視した。

これらを象徴し、個人としての存在意義や、既存の秩序に対する問いを提示する存在が「悪魔」として具現化。
「悪魔」は自由な自己実現へといざなう、非常に魅力的な案内役として作品にしばしば登場するようになる。

おもしろいですよね!

幻想的で超自然的な要素を取り入れ、神秘的な世界や、非現実感を醸し出しだしたり、人間の複雑さ、二面性、光と闇、善と悪、聖と俗などのせめぎ合い、あるいは人間の欲望を説明するのに、この世とあの世の間で出会う悪魔は絶好のキャラだったのだ。



ウェルギリウスがダンテを煉獄に案内するシーン。


『夜のガスパール』Gaspard de la nuit)は、19世紀フランスの詩人ルイ・ベルトランによる詩集である。
モーリス・ラヴェルが作曲した組曲は、この詩集に収められた3篇の詩(青空文庫で読めます。ビバ青空文庫!)を題材としている。

夜のガスパールというキャラクターは、わたしにはどうしてもウェルギリウスを想起させる。
文学上のキャラクターとして異なる時代や文脈で登場するものの、類似点があると思う。

彼らは悪魔ではないが、物語の主人公に対して、理性、知性、知識のガイド役、案内役として登場する。

ウェルギリウスは古代ローマの詩人で、ダンテの『神曲』において、主人公を地獄と煉獄に誘い、世界の秘密や意味を開陳する役として。

同様に、夜のガスパールも、読者を幻想的で奇妙、暗く不気味な情景、非現実的な世界に導き、詩の世界に没入させる役割を果たす。

また、両者とも、詩的な表現や修辞的な手法を駆使し、言葉の選び方やリズム、イメージの織り上げ方など、美学や文学的な価値を追求している。


彼らは、暗黒で奇妙なイメージを通じて、伝統的な美学や文学の枠組みからの解放を試みる。その反逆的な性格は、悪魔メフィストフェレス的...
かと思うが、そこまで言うと言い過ぎかな...

そこが今回のリサイタルの趣旨かな、と思ったの!!




でもまあ、メフィストフェレスも本来は大天使だったのだからして、ウェルギリウスー夜のガスパール的な光の部分と、メフィストフェレス的闇の部分の両面を持っていてもおかしくはなかろう。

メフィストフェレスは、神の秘密につながる知恵と力を持ち、邪悪な存在ながらも、魅力的な悪魔として描かれ、主人公や他の登場人物と対峙するのである。

トリフォノフが対峙する場面、バービカンで聴きたかったです。また次回。


耽美的なイラストは全て手元にあった本、こちらから借用しました。




Daniil Trifonov piano

Pyotr Ilyich Tchaikovsky Children's Album
Robert Schumann Fantasie
Wolfgang Amadeus Mozart Fantasia in C minor
Maurice Ravel Gaspard de la Nuit
Alexander Scriabin Sonata No 5
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 6月は薔薇色... 旅行前の夜に... »