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モスクワはグレイの雨




英国のスパイ小説家、John le Carréが今月12日に亡くなった。

彼原作の最近のシリーズには『ナイト・マネージャー』『リトル・ドラマー・ガール』、映画は『われらが背きし者』などがあり、ご覧になれらた方も多いのでは。


その夜、わたしはお菓子を焼いていて遅くまで起きており、BBCニュースの追悼を聞きながら手を動かし、ル・カレのスパイものと、70年代と、ペレストロイカまでの80年代にまつわるあれこれを思い出していたのだった。


アンカレッジ経由の飛行機、モスクワの物理的にも心理的にも遠い異国を象徴したような街角、スパイの巣窟だったヨーロッパのとある首都、MI6のスパイ(ル・カレの描くスパイは、ボンドやバンコランのようではなく、くたびれて目立たない中年の男性だった)というミステリアスなイメージ、やたらとタバコを吸い、強い酒を飲む人々、暗号、心理的な駆け引き、二重スパイというヤバい仕事、ベルリンの壁、黒電話、現地連絡員との接触、隠れ家、ハニー・トラップ...

今の欧米に憧れはないが、当時はもう、憧れだった。

わたしの世界への憧れは、スパイもの映画と『ベルサイユのばら』、船医をしながら世界中を旅していた大叔父、神戸の街、ロシア・バレエや音楽などで熟成されたのではと思う。


自分個人が生きられる範囲は時間的にも空間的にも小さいが、映画や読書を通すと、それを少し広げることができる。
東西冷戦時代の、オックスフォード卒の、イングリッシュの、妻に不倫され、陰謀に巻き込まれて引退した男性のスパイ、という人物とわたしの間には巨大な径庭があるにもかかわらず、だ。


何年か前に見た映画やシリーズを最近になってまた見たが、やはりとてもよっかった。
全部見てしまった後は中毒症状が出て、次に新しい作品が出るのはいつか、とにかく長生きしていただきたい、と思っていたのだった。


(上の写真は冬の雨のモスクワではなく、2年前の冬のワルシャワ。モスクワ、行ったことありますん。行ってみたい!)
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