goo blog サービス終了のお知らせ 
goo

短編小説「桜島」




私の祖母は少しずついろいろなことを思い出せなくなっているのですが
最近はずっと彼女のふるさとである鹿児島ー市内のどこからも桜島が見えるーに住んでいると思っているようです。
お嫁にきてからもう60年以上、家業が忙しくてほとんど実家に帰ることもなく、
人生のほとんどは鹿児島を離れているというのに、です。
話をするたびに、今日の桜島、門を曲がったところから見える桜島…いつも桜島の話をしています。

私にとって、そんな風景って何かしら?と考えてしまいます。




東京のMさんから頂戴したメールの中の数行に一撃され、このところずっと「桜島の乙女」のことを考えている(「乙女」という言語センスが自分でも許せずいろいろ考えてみたが、他にふさわしい名詞が見つからない...)。

美人でしっかり者の若い女性が、日常の作業中にちょっと立ち止まったところが目に浮かぶ。
こちらからはお顔のはっきり見えない角度で、背中が黒く影になり、向こうには雄大な桜島が輝く青い空にもくもくと煙を吐いている。

サンクチュアリ。
アナザー・カントリー。

...わたしの稚拙な解説などないほうがましなのである。


この数行を読むと、神様の目(この場合は桜島そのもの)から見た人間の可憐さが切なくも美しく胸に広がりはしまいか。

そして、心が落ち着くべきところに落ち着いた人間は幸せなのである、とも思う。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )