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Brugge Style
オカサーファー
わたしが住むサリー州は、緑が多く、治安環境がよく、よい学校があり、ロンドンからも交通の至便がよく...などという理由から裕福な中流家庭が多く住んでいると言われる地域だ。
うん、この文章はあまり正確ではない。
「裕福な中流家庭が多いから、緑が多く、治安環境がよく、いい学校があり...」と言い変えることができるから。原因と結果はしばしば混同されるものなのである。
そんな街でよく見かけるのが
乗馬スタイルで決めた若奥さん、だ。
白いポロシャツの上にラベンハムのキルティングジャケットやモンクレールのベスト型ダウンを羽織り、細身のジョッパーズをはき、乗馬ブーツ。
髪を無造作にまとめ、サングラスを頭上に押し上げ、すっぴん。そしてレンジローバーから颯爽と降りてくる。
うちには馬がいるの
たった今まで時間を忘れて愛馬で駆けていたのよ
「広大な領地と潤沢な財産を所有しているんですのよ」という非言語メッセージを託したファッションである。
実際、娘の通う超お嬢様学校にはそういうスタイルでお迎えにやってくる母親が少なくない。
英国初心なわたしは、さすがこの地域にはそういうアクティブで裕福な奥様がたくさん住んでいるのだな、と思っていたのである。
が、しかし、わたしの英国ライフの師匠である友人の話すところによると、彼女達は「オカサーファー」なのだ!!
(ということはさしずめ「オカライダー」、いやもともと乗馬はオカでするものだから「リビングルームライダー」?)。
若い方はご存じないかもしれないが、数十年前の日本で、オカ(丘、陸)サーファーというファッションが流行ったことがあった。
オカサーファー。
彼らはサーフィンをしないにもかかわらず、
サーフィンが日常の一部です
今も海からあがって来たばっかりです
波を追いかけてます(男のロマンを忘れない)
さわやかなスポーツマンです
をアッピールしたファションに身をやつしていたのである。
一種の様式美だろうか。それとも単なるコスプレ。
あるいはハロー効果でも狙っているのだろうか、さぞかし本物のサーファーがもてまくるという時代背景があったのだろう。
当時の神戸にもそんな人がいたような気がするが、ほとんど記憶にない。でも、焼けた肌と日差しと塩分で色の抜けた髪、サーフィンブランドの服や小物をまとってボードを抱えた笑顔がきれいな男、を想像するのは難しくない。
つまりサリー州の乗馬スタイル奥様は「馬が飼えるほどの敷地と財産を持ち、時間にも余裕のある生活をしている」ことをアピールするがため(かどうかは知らないが)にそういう服装をしているのである。
たとえ家には庭がなくとも。
馬と言えば自分が午年(<これはないか・笑)なくらいしか縁がなくとも。
友人曰く、カントリーライフ雑誌ではファッションページにモデルさんがこの種の服装で登場するそうだ。
また、乗馬スタイルの彼女達にとってはその服装が「正装」であり、その証拠にディナーパーティにさえその服装で来る人がいるそうだ。
まあわたしもパーティーに行くわけでもないのに「いつもパーティーに行くみたいな格好」をしていると言われた時代があるから(笑)お互いさまだけど。
ファッションは自己アピールであると言われるゆえんが、身にしみてよく分かった。
そしてファッションは自分に欠乏しているものを埋め合わせるためであったり、コンプレックスがにじみ出たものだったりすることもあるのだ。
発信する意味が何もない服装ができる心境に達したい...
あたりにランディングする文章にしたかったのだが、これはあり得ない。最もシンプルな白シャツジーンズでも、究極は裸でも、仏陀の袈裟でさえ、すべては記号になるのだ。なぜならわれわれは言語を使用し、言語を使用するから人間になったのだから(人間だから言語を使用するのではない。原因と結果を混同しない)。
ならやっぱりどんどんおしゃれをするかな。
今日、わたしはステラ・マッカートニーのワンピースに、カーディガンは19ユーロのザラですの。おほほほ。
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