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Brugge Style
ポール・モーリアの思い出
大学受験の模擬試験前や、大学在学中レポート作成時など、父が大阪梅田の某ホテルをよく取ってくれた。
「気が散るもののない環境で勉強がはかどるように」との父の計らいは裏目に出たが、ズルはせず正直に1人で泊まった。
男の子と遊ぶよりも「一人きりの夜を楽しむ大人のわたくし」に酔っている方がずっとずっと楽しかったので。
単にもてなかった、というのもあるけど(何を言わせる)。
勉強をしているというのが建前だから、夕方、当時のソニー・プラザや阪急百貨店や、ホテルテナントなどをウロウロしたとしても、夕食にはきっちり部屋に戻った。
ルームサービスを頼み、飲み物を片手に大きな窓から梅田の夜景を何時間も飽きずに眺め、様々な大人の、様々な夜の生態をあれやこれや想像しては楽しんだものだ。
大人に関する想像力が貧困だったため、かっこいい生態しか想像できなかったのは幸福だった。
バックグラウンドミュージックは、ベッド横のステレオで選べる、ポール・モーリアが主なイージーリスニングを流し続ける局。
エーゲ海の真珠、オリーブの首飾り、恋はみずいろ、涙のトッカータ、黒いオルフェやら...
普段は全く興味もない音楽ジャンルなのだが、ホテルの部屋の読書灯の暖かい色と、シーツの白さと手触り、備え付けの石けんの匂い、ベージュのカーペット、そしてわが愛する都会の夜景にはこの局から静かに流れるポール・モーリアしか合わなかった。
わたしは幼稚な想像力を駆使して、「非現実的な」大人の女になる夢を見ていた(だから結果が今。もっと現実的な大人像を理想とすべきだった・笑)。
そうか、わたしの大衆的情緒はポール・モーリアというおっさんに調教されたわけか...
わたしはラテン風の男が苦手なので、あまり気持ちのよい想像ではないけど、大人になった今、彼に敬意を表そう。
それからわたしを信用してくれた父にも。
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