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先輩マダムの話




ジンバブエとザンビアを旅行した時、ホテルが同じだったマダムと親しくなった。
彼女がブラッセルに滞在中というので会いに行って来た。


フランス人医師の夫を亡くしてからもパリに住み続け、完全にパリ化した、わたしよりも20歳は年上のアムステルダム出身の女性だ。

近寄り難い雰囲気にもかかわらず実は人なつこい。
長身でスタイルがよく、(俗悪なたとえを承知で)ディートリッヒをもっと普通っぽくした容貌、シックな色でまとめた有名ブランドの服、めいっぱい付けた宝石、チェーンスモーカーであり、そしていつもわたしと同年代のボーイフレンドがいる。ずっと同じ子を連れているのか時々変わるのか、印象が薄くてわたしには覚えられない(笑)。
わたしはかっこいい若い子より、かっこいいおっさんのほうが好きなのだ。


2人乗りカヌーを使い、カバやワニが当たり前にいる河を下ってジンバブエからザンビアに渡った時、急流を避けようと奮闘する同乗のボーイフレンドの後ろでリップグロスを塗っていた、彼女はそんな人である。



何を考えているのか不明なところも、パリの豪華なアパートの値段も、興味をそそられるところはたくさんあるのだが、わたしが一番惹かれるのは彼女が幅の狭い声で話す冒険譚。
そのパターンはこうである。


「この間ね、○○が食べたくなって○○に行ったのよ。(そしてここに多くの登場人物との珍奇なやりとりの描写が続く)でもね、結局○○を食べるのは忘れて帰ってきたのよ。」


「この間ね、女友だちと○○に○○を見に行こうということになったのよ。(そしてここに珍道中の説明が入る)でもね、結局○○は見つからなかったのよ。」



ええわあ。
事実人生はこういう感じで移ろいゆくのだ。
彼女は特にそれを悲しむわけでもおもしろがるわけでもなく、普通に話す。
わたしはコテコテの関西人なのでオチのない話や会話は許せないのだが、彼女の話はオチがないのとはまた違っている。

わたしも立派な中年になった今、先輩にこういう女がいると妙に嬉しく思う。


上手く説明できなくてもどかしいのだが、分かって下さる人、いるだろうか。



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