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熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

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マンダレイ

2006-12-31 | 映画
アメリカ3部作の第1弾『ドッグヴィル』同様、一切の虚飾は剥ぎ取られ、人間の営みは遮蔽物(壁・扉など)なしの素通しの空間に放り出される。
8章から成る挿話は、今回もブレヒト流にナレーションでシニカルに綴られてゆく。 
グレース(ブライス・ダラス・ハワード)がたどり着いた『マンダレイ』の農園は、ママ=女主人(ローレン・バコール)の「法律」によって管理される黒人奴隷が存在するコミュニティである。
黒人たちは「お喋り黒人」「誇り高き黒人」など、各人の性格によって7つのカテゴリーに分類されている。この分類が、後でグレースに敗北感をもたらすキーのひとつとなる。
グレースは、「奴隷制度を作ったのは私たち白人」だから「彼らに対して責任を取らなくては」との独善的使命感から、予言的な反対論を唱えるギャングの父親(ウイレム・デフォー)に逆らってマンダレイに居残り、理想の実現化を目指すのだが…。

ママの死後、白人と黒人の双方への民主主義押し付け教育がスタートし、グレースの傲慢さと未熟さは徐々に露呈してゆく辺りが最大の見どころである。
思惑がことごとく裏切られ、その戸惑いを負のエネルギーへと転化させ、最後には憎悪の爆発に至るグレースの幼児性は、ニコール・キッドマンでは成熟しすぎて不自然に思えるが、若いブライス・ダラス・ハワードに代わってより効果的となった。
後で皮肉な結果になるが、時間までも多数決で決めてしまったり、白人に黒塗りさせて黒人の給仕をさせる幼児的な罰則まで繰り出し、グレースはその愚挙には気づきもしないのである。ここでも一見無垢のグレースとして、ハワード起用は有効であった。

グレースのマンダレイ民主化は、容易にアメリカがイラクでしたことを思いださせるし、しかもギャングの父親が残していった、子分たちの武器の後ろ盾があってのことである。アメリカ=ジョージ・ブッシュ一派の力の行使を、グレースのそれに照らし合わせれば、シンプルなブレヒト流の寓話劇が成立する。
しかし、ラース・フォン・トリアー監督の『マンダレイ』が、もっとアイロニーに満ちているのは、人間が奴隷であり続けることに、異議申し立てをしていないことである。
ラスト(第8章)における秘密の用意は、その意味で「悪意」に満ちており、トリアー監督が一番言いたかったのは、このことだったのかと考えると心底ゾっとする。
前作同様、俯瞰の映像がドキっとするくらい美しい。なかでも第7章の「ハーベスト」の俯瞰は舞踊のワンシーンのようである。

アメリカ3部作の第3弾『ワシントン』では、どんな更なる「悪意」が用意されるのか、今からワクワクする。

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5 コメント

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TBありがとうございました! (Ken)
2006-04-03 00:04:05
こんにちは!

>「ハーベスト」の俯瞰は舞踊のワンシーンのようである。

『ドッグヴィル』を観たときのような新鮮な驚きは無いわけですが、シンプルな舞台装置によって観客の想像力を喚起する作り、今作でも成功していましたね。

仰られるように「ハーベスト」の章、僕もその美しさに息をのみました。秋の日差しの雰囲気がすごく趣があったです。

直喩>隠喩 (butler)
2006-04-03 11:24:40
>kenさん、



TB&コメント、どうもありがとうございます。

この作品は、映画ファンよりも演劇ファンに、取り分けブレヒト・ファンに喜ばれそうですね。

人気スターに頼らなかった点も評価したいです。

『ドッグヴィル』に続いて出演のローレン・バコール、偉いです!
皮肉 (マダムクニコ)
2006-05-18 00:41:15
>もっとアイロニーに満ちているのは、人間が奴隷であり続けることに、異議申し立てをしていないことである。



自作自演なんですね。

グレースも、結局男性の虜になり、自分の首を縛ることになるのですから・・・。



次作に期待しています。



コメントに感謝!
自作自演 (butler)
2006-05-19 12:51:45
>マダムクニコさん、



自作自演→マッチポンプの構図で、世界におけるアメリカの状況が見えてきますね。中東然り・・・。

マダムのコメントで、靄っていた視界が開けた気がします。



こちらこそ感謝!
監督 (kimion20002000)
2006-08-29 01:42:38
tbありがとう。

ニコールが降りたんでしょうねぇ。

で、監督は、ハワードのために、シナリオをいくつか変更したのかもしれませんね。僕は、この人、「ビレッジ」でも不思議な魅力のある人だなあ、と思っていて・・・。こんなセレブ一家とは、思いませんでしたが。

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