レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

リリー・マルレーン

2007-07-03 05:46:52 | ドイツ
 一言で説明すれば、戦時中のドイツの流行歌。
 無名の詩人ハンス・ライプの詞、ノルベルト・シュルツェ作曲。

 戦前に、カバレット歌手のラーレ・アンダーゼン(注)が歌ったときにはさっぱり受けなかったけど、戦争中にたまたまとある隊の間でこのレコードが愛聴された。その中の一人カール・ハインツ・ライントゲンがベオグラード放送局に転任になり、アフリカ戦線へ行った当時の仲間たちのためにこの歌をラジオで流したところ大評判になり、対峙する英国軍でも人気をよんで各国のヒット曲となった。
 これは、パウル・カレル『砂漠の狐』にも描かれたエピソードである。
 
 「兵営の前、大きな門の前に街灯が立っていた いまでもそこにあるならまた会おう 街灯のもとに二人で立とう、かつてのように、リリー・マルレーン」
 たわいないセンチメンタルな歌詞であり、これは士気に悪いとして宣伝相ゲッベルスににらまれたことさえある。
 私は、『ヨーロッパの森から』に載っていた伝説を連想する。
 かつて、アイフェル地方のヒメロートの森には多くのナイチンゲールがおり、その歌声は近くの修道院の僧たちの耳にも届いていた。魅惑的な歌声は現世の喜びを思い出させたので、ここを訪れた聖ベルンハルトは、修行の邪魔だと小鳥たちを追い出した。小鳥たちは遠くラインのホンネフの森へと移った。
 しかしヒメロートでは、臨終間近い僧のもとにはナイチンゲールが飛んできて、歌声で慰めたという。
 修道僧と兵士を一緒にしては罰当たりだけど、ある種のストイックさを要求されるということは共通だということで、私の頭の中では重なってくる話である。

 ノルベルト・シュルツェはのちに戦時歌謡を手がけ、御用作曲家としての非難も浴びることにもなる。私がほかに知っているのは『戦車は進むアフリカを Panzer rollen in Afrika vor』。勇壮で上手い。

 注 名前のスペルはLale Andersen、自伝の邦訳では「ララ・アンデルセン」となっているが、ふつうのドイツ語の規則でよめば「ラーレ・アンダーゼン」。本名はリゼロッテ・ヴィルケ、北ドイツ出身。
 
 ドイツからアメリカへ渡った女優マレーネ・ディートリッヒが歌ったことも有名であるが、『リリー・マルレーン』が第一にだれの歌かといえば、どうしても私はラーレ・アンダーゼンの名を挙げたい。だいたい、ディートリッヒは大女優でほかにも有名作品がいくらでもあるのだから、この歌くらいはアンダーゼンのものにしておいていいだろうと思うのだ。
 オリジナルの歌で、ラストのコーラスのリフレイン部分がなんともしみじみして好きだ。
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