レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

セーラーム-ン論⑤女性性の優位

2006-05-18 15:28:02 | 月にかわって:少女マンガ論文要約
5 女性性の優位

 『セーラームーン』における女性性の優位は、次の点にも現れている。
第3部の終わりで、ほたる=サターンは、うさぎたちよりも少し年上の3人の戦士(はるか、みちる、せつな)に引き取られて、第4部に再登場する。「はるかパパ」「みちるママ」「せつなママ」の間でほたるは急成長している。ここには血縁も婚姻もなく、そして4人の暮らしはユートピアのように幸せである。これは、保守的な家族観に対して挑発的なほどの設定である。
 うさぎ&衛の関係は、過去においては姫と王子の定形を成しているが、未来においてネオ・クイーン・セレニティはもはや戦士ではなくとも、危機の際には力を発揮する。そしてミレニアムの女王は代々第一王女しか産まないことになっていて、つまり、この王国は「女王国」なのである。
ラストシーンは二人の結婚式で、うさぎは衛に「もうすぐあたしたちの娘が あたらしいセーラー戦士は生まれてくる予感」を告げる。「戦士」とは、とことん女の役割である。
 作者武内直子は、「女の子を描くほうがずっと好き」と公言している。2001年の読みきり『ときめか』で、天才少女科学者を登場させて、自分の友だちとして女の子型ロボットを発明する話を作っている。これまでの物語では、ロボット、アンドロイド、サイボーグ、ホムンクルスなどの発明者は専ら男だった:『ファウスト』『フランケンシュタイン』『ピノキオ』、『Drスランプ』『鉄腕アトム』『ブラックジャック』。発明や科学が男の領分と思われていたこと、女は自然に産むことができることが理由として考えられる。『とキめか』の設定は、女もまた科学者たりうることをさりげなく主張して少女たちを応援している。
この物語が表現しているのは、すべてを欲しいという貪欲な願いである。すなわち、美も力も、恋も友情も、安らかな日常もわくわくする冒険も。過去の働く女性たちは、家庭かキャリアかの選択を迫られていたが、もうそういう二者択一ではない。一見たわいのない恋と戦いの物語である『セーラームーン』は、――プリンセスが最高の位置にいる、少女たちが戦いの主役である、太陽が月に救われる、女二人がカップルとなっている、結婚もしない他人の娘たちが家族を構成しているーー様々な価値観の転倒を含んでいる、挑発的、革命的な世界だったのである。

原題 Im Namen des Mondes oder Von der Umkehrung des gesellschaftlichen Geschlechterrollenverstaendnisses in Sailor Moon. Ein Blick auf den japanischen Maedchencomic
所収 Zwischen Flucht und Herrschaft. Phantastische Frauenliteratur. edfc
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2 コメント

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良い香りがしたので・・・ (D.S)
2006-05-18 16:43:53
月にかわって少女マンガ論文要約読ませていただきました~。

セーラームーンを何の考え無しにただ見ていた小生のような凡夫からすると、新説ともいえる面白い解釈で、フクロウのように唸りながら一気に読ませていただきました~。

読めば読むほど、もっともっとと読みたくなる魔力の有る文章で、ほんとうに面白い!

原作、アニメを論ずるに止まらず、このままミュージカル、実写へと展開していただけましたら嬉しゅうございますm(__)m

今後とも執筆活動頑張ってくださいませ~m(__)m
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ありがとうございます (レーヌス)
2006-05-19 06:32:30
『セーラームーン』好きの方の目にとまって嬉しいです。

 ミュージカルと実写は、論じられるほど気合いれて見てはいなかったのですが、好きな歌についてなどは書いてみたいと思います。
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