レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

将軍たちの夜 説教師 ロマンス小説の七日間

2010-08-05 09:50:18 | 
 相互の関連はないけど、先月読んだ本の感想で書きためた3本ぶん。

『将軍たちの夜』ハンス・キルスト

 20年以上まえに私が読んだときにはハヤカワで出ていた。いま角川文庫で新訳で出た。「瑞々しい新訳で蘇る」という表現は、小説の内容を考えるとどうもヘンな気がする、訳に文句を言うのではない、背景がゆがみまくった世界だから。安彦良和のカバー絵がほどほどブキミで合っている。

 1942年、ワルシャワで起きた娼婦に対する変質者じみた殺人事件、目撃者の証言から、犯人はドイツ軍の将官の人間らしい。追求しようとする国防軍防諜部(アプヴェール)のグラウ少佐は、意図的に転任させられる。しかし44年、パリで再び同様の事件が起きる。この時は「7月20日事件」が背景にあるのでいっそう緊迫感がある。
 娘を「英雄」のタンツ将軍と結婚させようと画策する将軍夫人の姿は、『白い巨塔』の東教授夫人(俗悪さを体現したキャラ)を連想させた。娘のほうでは親に逆らってマトモな道選んでくれたけど。
 ピーター・オトゥールやオマー・シャリフで映画化もされた。見たいような見たくないような。
 
 同じ作家の『長いナイフの夜』は集英社文庫で出ていたな。あれも復活したら喜んで買う。


カミラ・レックバリ『説教師』
 スウェーデンの作家によるミステリーのヒット作、集英社文庫の夏の100冊にも入っている『氷姫』に続く、「エリカ&パトリックの事件簿」第二弾。
 ドイツ人の若い女性観光客が行方不明になり、その遺体は白骨化した2体と共に発見される。その2体は20数年前に失踪した若い娘たちのものと判断された。その事件には、「カリスマ説教師」の一族が関わっていた。
 作家のエリカと刑事のパトリックはいつのまにか進展して、この話ではエリカは身重の身。前作で暴力夫から逃れたエリカの妹アンナは今回またも・・・ああイライラする。
 観光地に家があるせいで、夏になるとエリカの家には、日ごろ親しくもない知人や親戚がタダで泊めてもらおうとしてやってくるので彼女たちはうんざりしているという設定。この話では、従兄が妻子と共にやってくるが、実にしつけの悪いクソガキども。食事に文句つけることを叱りもせず、子供に押し付けてはいけないとかなんとか偉そうなことぬかす母親に我慢ならなくなったエリカが、文句つけられた料理を彼女の頭上でぶちまけるのは、かまわんやってやれ!の気持ちだった。
 明かされる過去の真相は二転三転。諸悪の根源は貴様だ~~!と言ってやりたいのは(略)。
 ろくでなしのわりに人に好かれるやつ、まともだけどそれが報われてないやつ、作中ではカインとアベルの名前が出てきたけど、私は放蕩息子が頭に浮かんだ。(聖書のあの話、兄の側にももう少しフォローしてやれよ親父、と思う。)


三浦しをん『ロマンス小説の七日間』 角川文庫の100冊に入っているので再読。
 海外ロマンス小説の翻訳をしている(ハーレクインの類だろう)あかりの日常と、小説の内容が交互に出てくる。「中世」と言ってるけど中世のいつだかはっきりしないとか、ヒロインに主体性がないとかツッコミをいれまくり、さらに、突拍子もない恋人の行動へのイライラが募って、翻訳を外れて暴走、勝手に男主人公を殺してしまった。ーー最終的には、締め切りを延ばしてもらってちゃんと翻訳をやり直すようだけど。改変バージョンを原作にして誰かマンガにしてみればいいのに。
 しをんさんはエッセイで、「ハーレクインヒストリカル」について、「大嫌いな古典的男女観の世界だけど、疲れてるとそういうものが読みたくなる」と書いていたことがあるので、あかりのツッコミは作者の実感なのだろうな。

 角川の夏フェア100冊に、この3年で順ぐりに三浦しをん作品を入れていると記憶する(思い違いかも)。これでもう3冊全部まわったぞ、来年はどうするんだろう。
コメント (2)
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