Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/21(土)/女神との出逢い/萩原麻未ピアノ・リサイタル/煌めく音の粒と瑞々しい感性

2014年06月24日 00時36分50秒 | クラシックコンサート
土曜ソワレシリーズ/女神たちとの出逢い
萩原麻未 ピアノ・リサイタル


2014年6月21日(土)17:00~ フィリアホール S席 1階 1列 12番 3,200円(シリーズセット券)
ピアノ: 萩原麻未
【曲目】
フォーレ: ノクターン 第1番 変ホ短調 作品33-1
フォーレ: ノクターン 第4番 変ホ長調 作品36
ドビュッシー: ベルガマスク組曲
       1.ブレリュード 2.メヌエット 3.月の光 4.パスピエ
ドビュッシー: 喜びの島
ラヴェル: 高貴で感傷的なワルツ
ラヴェル: ラ・ヴァルス
ジェフスキ:「ノース・アメリカン・バラッズ」より「ウィンズボロ・コットン・ミル・ブルース」
《アンコール》
 ドビュッシー:「前奏曲集 第1巻」より「亜麻色の髪の乙女」

 フィリアホールが主催する「土曜ソワレシリーズ/女神たちとの出逢い」の今季第2回は、萩原麻未さんのピアノ・リサイタル。リサイタルを聴くのは2011年11月以来。実に久しぶりである。
 ご承知のように、1位をなかなか出さないことで有名な(?)ジュネーヴ国際音楽コンクールのピアノ部門で、萩原さんが優勝したのが2010年のこと。翌年の11月に凱旋(?)リサイタル(東京での本格的なリサイタルは初めてだった)が紀尾井ホールで開かれた。それ以来、日本の色々なオーケストラに呼ばれたり、海外のオーケストラの日本ツアーに同行したり、「ラ・フォル・ジュルネ」に出演したりと、聴く機会はかなり多かったと思う。とくにオーケストラとの共演では、コンクールでも本選で弾いた、ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調を演奏することが多く、いまや萩原さん=ラヴェルの協奏曲というイメージが定着してしまっている。他にはグリーグの協奏曲を聴いたことがあるくらいだ。一方、室内楽分野での活躍も目覚ましく、ヴァイオリンの小林美恵さんと共演したコンサートはNHK-BSで放送されている。テレビには、他にも「らららクラシック」や「題名のない音楽会」等に出演している。また、高等学校を卒業後にフランスに留学しているため、国内でのコンクール歴には名が残っていないが、より高次な音楽賞として、第13回ホテルオークラ音楽賞、第22回新日鉄音楽賞 フレッシュアーティスト賞、第22回出光音楽賞、文化庁長官表彰(国際芸術部門)など多数受賞している。現在はパリを拠点に、ヨーロッパと日本で演奏活動を行っている。経歴を見るとスゴイものだが、1986年生まれというから、まだ27歳という若さなのである。

 さて久しぶりの今回のリサイタルは、ここフィリアホールだけではなく、明日6/22、埼玉の「彩の国さいたま芸術劇場」で、6/27には東京の紀尾井ホールで、同プログラムのリサイタルが予定されている。本来なら紀尾井ホールの方がメイン・イベントのような気がするのでソチラに行こうかとも考えたのだが、フィリアホールの「女神との出逢い」シリーズの最前列センターをセット券で入手できていたので、これ以上の条件はまず考えられないから、ちょっと距離は離れていても、ここまでやって来たという次第であった。
 プログラムを見れば分かるように、今回は最後のジェフスキを除けばフランスものばかり。事実上のオール・フレンチ・プログラムである。やはり萩原さんの最大の魅力はフランス音楽にある。少々イメージが固定化し過ぎてしまっているキライはあるが、どうしても キラキラ系の近現代フランス音楽がアタマに思い浮かぶし、実際にそいうい曲ばかり聴いているのだから仕方ないだろう。

 最初の2曲はフォーレの「ノクターン」第1番と第4番。消え入るような弱音から始まると、会場の聴衆が耳を澄ませて聴き入る。淡々と語られていく夜想のイメージは、弱音の続く中にも、細やかなニュアンスが与えられ、繊細な造形で旋律を歌わせている。単調に聞こえるのに、非常に豊かさを湛えた音楽になっているのである。それにしてもこの透明な音色はどうだろう。透き通っているのに、音が鮮やかな光の色を纏っているようだ。とくに第4番の美しさは特筆もの。千変万化する光の粒が果てしなく無数の、すべてが異なる色彩を放っているかのようである。うーん、素晴らしい!!
 3曲目はドビュッシーの「ベルガマスク組曲」。プレリュードの和音の鳴らせ方から、複雑な和声を美しく響かせる、天性といえるかもしれない、瑞々しい感性を発揮する。ドビュッシーの曲がエライのか、弾いている萩原さんがスゴイのか。本来の不協和音を美しく響かせるドビュッシー特有の和声に耳を奪われがちだが、メヌエットなどではサラリとながしているような自然なリズム感が素敵だ。萩原さん独特の弾みがちなタッチが、美しい和声に瑞々しさを与えている。「月の光」は「間」の取り方がいわば絵画で言うところの構図に当たる。ドビュッシーは「絵画的な曲」を書いたが、萩原さんは「演奏によって絵を画いた」ようである。
 前半最後はドビュッシーの「喜びの島」。強い音はほとんど出さないが、弱音~中音域の中で広いダイナミックレンジを感じさせる奥ゆくの広い演奏だ。ひとつひとつの音、一つ一つのフレーズに、同じモノがひとつもない。色彩感も輝きも、無限のバリエーションを繰り出してくる。実に多彩で豊かな表現力である。

 後半はラヴェルの「高貴で感傷的なワルツ」から。冒頭のModéréでは、前半のような音量を控えて繊細優美な響きを出しているのとはガラリと変わって、強い打鍵による強烈な不協和音を押し出し、音の塊で旋律を描き出す。そして音量を落として「高貴で感傷的な」ワルツが踊り出せば、やはり萩原さん特有のキラキラと輝く音の粒が跳ね回る。連続する不協和音が回転するようなリズム感で流れ出すと、ラヴェルの天才が見えてくるようだ。得も言われぬ美しさ。本来は響き合わないはずの音が、濁らずに美しく響いているかのように聞こえてくる。萩原さんのピアノは、とくに弱音が美しく、自身の音が極めて澄んでいるためか、空虚な重音や不協和な和音に独特の透明感が漂う。他の誰とも違う彼女の素晴らしさがそこにあるような気がする。
 続いてもラヴェルの「ラ・ヴァルス」。管弦楽版で聴いても派手な不協和音が特徴的な曲だが、ピアノ独奏版では、基本的なすべての音色が同じ1代の楽器だけに、序奏からより不協和音が強調される。そしてその中から、隙間から抜け出してくるように現れる和音の響きの新鮮さ、これが素晴らしい。萩原さんのピアノは、不協和音をそのまま押し出してくる強音と、弱音時の美しい響かせ方を鮮やかに対比させる。それがいわゆる色彩感と表現される、視覚的にすら感じさせられる鮮やかな表現力なのである。しかし、次々と果てしなく繰り出されてくる多彩な音楽には、圧倒される。その音楽に身を委ねていると、この世界がいつまでも続いて欲しい、終わって欲しくない・・・・と感じるのである。終盤に訪れるクライマックスは、むしろ管弦楽版より以上の多彩な音色が溢れかえっていて、萩原さんの無限に湧き出てくるような感性の泉に、ただただ感服するばかりであった。
 最後は、ジェフスキ:「ノース・アメリカン・バラッズ」より「ウィンズボロ・コットン・ミル・ブルース」という曲。ジェフスキは1938年、マサチューセッツ州生まれのポーランド系アメリカ人。楽曲は、速いテンポの2拍子で一定のリズムを重低音が刻み続ける上に、ブルースのような旋律というか、動機のようなモノが被さっていく。強烈なエネルギーを持つ現代音楽である。フォーレ、ドビュッシー、ラヴェルと来て、ここでこの曲が出てくるのはとても不思議なイメージを生み出す。曲の中間部(あるいは後半部)には強烈なリズムの支配から逃れたブルース風の緩徐部分があり、そこの曲想は今日の全体的なイメージとは共通する要素を持っていた・・・・。最後にアクロバティックに超絶技巧を見せてくれた萩原さんであった。
 アンコールはドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」。やはりこの手の曲を弾くと、若い女性ならではの瑞々しい感性が表れて、癒される思いであった。

 萩原さんのピアノは、一見してヒラメキに溢れた即興的な演奏に聞こえる。同じ曲を毎回同じように弾いているとは思えないほどの、刹那的な輝きを放っている。そこが最大の魅力だ。だからこそフランス音楽なんだと思う。しかし実際には、気ままに、自由に弾いているわけではないと思う。緻密な構成力も、音の配分による響きの効果も、楽譜から読み取って彼女自身が創り出しているのだ。その感性の豊かさ、瑞々しさ。彼女は既に自分の世界観を描くことのできるピアニストである。
 すべてに共通して言えることは、この極めて具象的な美しさに溢れかえった演奏を可能にしているのは、かなりの超絶的な技巧なのであると思う。もちろん、「ピアノの技巧」を感じさせるような演奏は一切なく、極めて自然な音楽の流れの中に埋没させてしまっている。そして作品全体を萩原麻未流に塗り替えてしまう。そんな印象であった。大きなホールで、大きな音を出さなければならない協奏曲の時とは違って、小さなホールで心ゆくまで自身の音楽を描く時こそ、彼女の本当の姿が見えるような気がした。久しぶりのリサイタルに、Braaava!!

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【お勧めDVDのご紹介】
 今日はリサイタルだったので、本来ならピアノ・ソロのCDなどを紹介したいところですが、萩原さんはまだソロのCDを出していません。そこで、今日の演奏とは直接関係はありませんが、彼女が音楽界の注目を一斉に集めるきっかけとなった、2010年の「ジュネーブ国際音楽コンクール」のライブDVDをご紹介します。ファイナリスト3名の協奏曲が収録されています。萩原さんが弾くのはもちろん、彼女の代名詞となったラヴェルのピアノ協奏曲ト長調。第2楽章の長いピアののソロ、弱音の美しさは感涙ものです。

萩原麻未 優勝 ≪ジュネーブ国際音楽コンクール2010ライヴ≫ [DVD]
萩原麻未,マリア・マシチェワ,イ・ヒョジュ,パスカル・ロフェ
有限会社エリア・ビー

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1 コメント

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私は紀尾井ホールで聴きました (shun)
2014-07-04 00:43:20
私は6/27の紀尾井ホールに行きました。どの曲も良かったですが、ラヴェルのラ・ヴァルスには圧倒されました。ピアノソロとは思えない色彩感あふれる演奏でしたね。まだ若いので今後が楽しみです。
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