Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/15(土)Orchestra AfiA/瑞々しく躍動する“悲劇的”ニ短調/ブラームスとシューマンはBravissimo!

2016年10月15日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
村中大祐指揮 Orchestra AfiA「自然と音楽」演奏会シリーズVol.11
“DIE GEBURT DER TRAGÖDIE”「Reの悲劇」


2016年10月125日(土)18:00~ 紀尾井ホール A席 1階 1列 10番 7,000円
指 揮:村中大祐
ピアノ:イリーナ・メジューエワ*
管弦楽:Orchestra AfiA
コンサートマスター:渡辺美穂
【曲目】
ブラームス:悲劇的序曲 ニ短調 作品81
ブラームス:ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 作品15*
《アンコール》
 ブラームス:幻想曲集 作品116より 第4番 間奏曲 ホ短調*
シューマン:交響曲 第4番 ニ短調 作品120
《アンコール》
 ホルスト:セントポール組曲 作品29-2より 第2曲 オスティナート

 Orchestra AfiAの「自然と音楽」演奏会シリーズ第11回は、“DIE GEBURT DER TRAGÖDIE”「Reの悲劇」というタイトルが付けられている。“Re”はドレミの“レ”のことで、本日のプログラム3曲はすべてニ短調で書かれている。しかしこれらの曲は本当にニ短調なのか。また、そこに描かれている悲劇性とは? 指揮者の村中大祐さんがその辺りの解釈に新風を吹き込むのが本日のコンサートなのである。例えば、ブラームスの「ピアノ協奏曲 第1番」は、調整はもちろんニ短調として書かれているが、冒頭のオーケストラだけによる主題提示部分は実際の調整は曖昧で、変ロ長調に近いという。作曲たちのちょっとした工夫が作品の中に微妙な光と影を作り出し、生々しい情感を描いていく。瑞々しいと言っても良いかもしれない。今日のコンサートは、ブラームスとシューマンの作品の中に描かれているこのような情景や情感を人間味豊かに描き出して行こうとする試みでもあるようだ。

 村中さんの指揮するOrchestra AfiAの演奏を聴くのも、今回で4回目となる。既成の枠組みとは若干異なる生い立ちと雰囲気を持っているOrchestra AfiAは、聴くたびに新鮮な驚きと喜びをもたらしてくれるオーケストラだ。在京の常設プロ・オーケストラ9団体の内、私は現在5団体の何らかの定期シリーズの会員になっている。もちろんすべてのコンサートを聴きに行っているわけではないが、それでも毎回毎回、素直に感動できるような演奏に出会えるわけではない。しばしば感じるのは、それぞれのオーケストラでも、コンサートによって、あるいは指揮者によって、出来不出来があるということ。まあ、人間がやっていることだからいつでも完璧というわけにもいかないだろうが、演奏自体のクオリティにもけっこうブレがあることは確かだ。その点で、村中さんとOrchestra AfiAの演奏にはブレがない。これまで聴かせていただいた3回の公演では、メンデルスゾーン、マーラー、シューマン、シューベルトなど、ドイツ・ロマン派の楽曲中心に、武満徹、ラヴェル、バーバー、グリーグ、モーツァルトなどもあった。村中さんがそれぞれのコンサートに与えたテーマに沿っての選曲であり、当然、得意としている楽曲なのであろうが、オーケストラ側にもブレない音がある。もちろん曲によって色彩感は異なるし、リズム感もハーモニー感も変わるが、それでもこのオーケストラには特有の「個性」が感じられるのだ。だからブレない感じがするのであろう。


 ここであらためて、Orchestra AfiAについて、簡単に紹介しておこう。ウィーンに学び、主にヨーロッパ各地でオペラとコンサートの指揮者として活動してきた村中さんが、横浜開港150周年記念事業「横浜オペラ未来プロジェクト」を企画・立案し、その芸術監督として2006年、「横浜OMPオーケストラ」を創設した。自らオーディションをして選んだ精鋭たちのオーケストラを母体に、2013年からは「Orchestra AfiA」として活動を開始、年に3回のペースで「自然と音楽」シリーズのコンサートを開催している。“AfiA”とは、“Academia Filarmonica International Association”の略である。従って常設のオーケストラとは違うが、メンバーは皆さんプロの演奏家であり、他のオーケストラのメンバーやフリーの演奏家達によって構成されている。編成は室内オーケストラの規模であり、フルート2、ピッコロ1、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ1という2管編成にパーカッション1。弦楽5部は、第1ヴァイオリン8、第2ヴァイオリン6、ヴィオラ5、チェロ4、コントラバス3という微妙なバランスを考えた編成だ。常設ではなくても、10年の時を経て村中さんとメンバーとの信頼関係は厚い。とくに現在コンサートマスターを務めている渡辺美穂さんは、東京フィルの第2ヴァイオリン・フォアシュピーラーや大阪フィルのコンサートマスターを務めている間もOrchestra AfiAと深く関わり続け、いまでは村中さんが最も信頼するコンサートマスターであるという。

 1曲目はブラームスの「悲劇的序曲 ニ短調 作品81」。楽曲のタイトルからは本日のテーマである「Reの悲劇」が想起されるが、曲自体は必ずしも悲劇的なイメージばかりに彩られている曲ではない。作曲家はしばしば、相反する性格の曲を同時期に並行して作ることがある。陰と陽、善と悪など、かえって異なる性格にメリハリを付けて表現しやすくなるのかも知れない。ベートーヴェンの交響曲「運命 作品67」と「田園 作品68」が同時並行して作曲されたことはよく知られている。ブラームスの場合も、ことの詳細な経緯は省かせていただくが、1880年頃に、性格の異なる「大学祝典序曲 作品80」と「悲劇的序曲 作品81」を同時に作曲しているのである。前者が明快で陽性の音楽であったことに対して、対比上「悲劇的序曲」と名付けられたようで、実際にはそれほど深刻な音楽ではない。ニ短調で書かれているとはいえ、曲の流れの中では短調と長調の間を揺れ動き、それがいかにもロマン的な雰囲気を生み出しているのである。
 今日の演奏は、村中さんの中でその辺りの意識が濃厚に現れているというか、「悲劇的」という言葉から想起される悲しい、暗いといった深刻なイメージを払拭して、曖昧な調性の中から長調の陽性なロマンティシズムを浮き彫りにしているようにも思えた。Orchestra AfiAから引き出される音はあくまで瑞々しく生気に満ちている。その鮮やかなサウンドが悲劇性よりもロマン性を感じさせてくれるのである。弦楽のアンサンブルは引き締まって澄んだ音色を出しているが、小編成にもかかわらず豊かな音量とダイナミズムがある。しかし硬質になることはなく流れるように旋律を歌わせるところが上手い。木管群は暖色系の穏やかな色彩感があり、金管は艶やかで柔らかい。ティンパニのリズム感は絶品。こうして生み出される音楽は、室内オーケストラとは思えない程の豊潤な響きを持ち、引き締まっているけれども尖ってはいない。これこそがOrchestra AfiAが生み出す「村中ワールド」なのである。

 2曲目はブラームスの「ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 作品15」。この曲においても新たな試みがある。ご存じのことと思うが、何しろこの曲は演奏時間が50分以上に及ぶ大曲。1856年の作、つまりブラームスの若い頃の作品で、オーケストラ作品としては2曲目に当たる。従って、激情的であったり抒情性が豊かであったりと、若さゆえの生命力を強く感じさせるところがある。そしてその規模の大きさから「ピアノ付き交響曲」などと呼ばれることもあり、演奏も大編成のオーケストラでシンフォニックな、スケールの大きな演奏であることが一般的なのである。
 ところが今日のOrchestra AfiAは小規模な室内オーケストラであるし、会場のブラームスのピアノ協奏曲を演奏するにはちょっとイメージの湧かない紀尾井ホール(800席の中規模ホール)。私自身もこの曲を小編成のオーケストラで聴いた経験はない。おそらくは多くの人がそうなのではないだろうか。だから、この壮大なピアノ協奏曲を敢えて選び、室内楽的なアンサンブルで演奏するという試みは、これまでにはない何か新しいものを生み出そうとする試みでもあるのだ。
 ピアノ独奏はイリーナ・メジューエワさん。Orchestra AfiAには2度目の登場である。前回は2014年6月の公演で、シューマンのピアノ協奏曲が演奏された(私は録音で聴かせていただいた)。そして今回は、メジューエワさんの演奏したブラームスの最近の録音を聴いて、村中さんが小編成オーケストラとの室内楽的なアンサンブルに最適だと考えてオファーしたとのことである。
 メジューエワさんについては説明は不要であろう。ロシア出身だが日本に活動拠点を移してから20年に及ぶ。全国各地でのリサイタルを始め、日本の有力なオーケストラとはほとんど共演しているし、リリースされたCDも数多い。トップ・プレーヤーのひとりである。現在は京都にお住まいとのことだ。

 演奏は、やはりというか、ナルホドというか、非常に新鮮な響きを持っていた。
 第1楽章は協奏風ソナタ形式ではあるが、古典的な造形のように見せかけていて、実際には主題提示部はオーケストラのみで始まり、第1主題はニ短調なのに実際には下属調平行調の変ロ長調になっていて曖昧な印象を創り出していく。経過句や副主題など固有な旋律も次々と現れる、これが独奏ピアノにとっては長い序奏のような位置づけになっていて、ようやくピアノが思い入れを込めるように入って来るがそれに続くオーケストラはシンフォニックに展開し、ピアノは伴奏のように絡みつく。そしてようやくヘ長調の第2主題がピアノに現れると、オーケストラと絡み合いながらロマンティックに展開していく。冒頭の第1主題が再び現れるところからが展開部。比較的短く、盛り上がりの中から第1主題が転調して現れるのが再現部。経過句や副主題、ピアノの導入部などが再現され、紆余曲折を経てピアノで再現される第2主題が帰ってくると、ホッとする思いになる。カデンツァはなく、カデンツァ風(?)の技巧的なパッセージを伴うコーダに突入する。
 なぜくどくどと曲の成り立ちを説明しているのかというと、それぞれの部分で、これまでにはあまり聴いたことのない印象の演奏が展開していたからだ。予期していたことだか、やはり室内オーケストラの規模だとかなりイメージが変わる。ピリッと引き締まった弦楽のアンサンブルとくっきりと鮮やかに聞こえる木管、質感の高い音色でリズムを後押しする金管、そしてキレの良いティンパニ。いつものように最前列で聴いているせいもあるかもしれないが、オーケストラ自体はタイトな音を出していて、各パートの音が明瞭に分離している。だから響きの豊かなホールで聴いている普通のオーケストラの大きなイメージではなく、室内楽の延長線上にあるような感じにまとまっている。そこに絡みつくメジューエワさんのピアノは、音量は抑制的であり繊細で美しい音色を響かせると同時に、ひとつひとつの音が明瞭で端正に印象だ。最前列のピアノの真下で聴いているのに、音に雑味がなく、細やかなニュアンスの表現が伝わって来るのである。
 第2楽章は緩徐楽章。この楽章はシューマンの死後、その悲しみを癒すためにクララに向けて書かれたというような経緯があり、音楽は哀しげであると同時に慈愛に満ち、優しさに溢れている。これはブラームスによって描かれたクララの肖像なのである。
 弦楽が草原を吹き抜ける穏やかなそよ風のようにざわめき、そこに佇む美しい女性像をオーボエが描き出す。自然で優しい音色と演奏。対するピアノはややロマンティックな主張が強く、こちらはブラームス自身であろうか。目の前で展開していく演奏を聴いていると、美しい風景の中に佇むクララとそれを優しく見守るブラームス、といった情景が目に浮かぶような演奏であった。この描写的な雰囲気も大編成オーケストラだと大袈裟になってしまうようで、今日の演奏で初めてこのような絵画的な印象を得たのである。
 第3楽章はロンド。一転して純音楽的、器楽的な、協奏曲風な曲想となり、弾むようなリズムと疾走感のある主題がピアノによって鮮やかな叩き出されていく。ロンド故に次々と現れる主題に対して、ピアノもオーケストラも描き方に鮮やかな対比を見せ、非常にバリエーションに富んだ演奏、という印象であった。メジューエワさんのビアノも、ここに来て殻を打ち破るように力感を増して、端正な中にも熱情の炎をチラチラと垣間見せる。カデンツァでは技巧的なイメージではなく、ロマンティックな情感を前面に押し出していた。第2楽章はオーケストラの良さが、第3楽章はピアノの良さが光る演奏だったと思う。
 いずれにしても、室内楽的なタイトな音の造形による壮大でシンフォニックなピアノ協奏曲というのは非常に新鮮であった。小編成によるためにオーケストラ側の造形がクッキリ鮮やかになり、そのことでピアノも抑制的で無駄な力みが取れることになる。そして随所に散りばめられた美しい旋律が、まさにこれぞロマン派というように抒情性豊かに描き出されることになったようである。とても素晴らしい演奏であった。

 メジューエワさんのソロ・アンコールは、同じブラームスの「間奏曲 ホ短調」。こちらはねっとりと濃厚なロマンティシズムを押し出した演奏で協奏曲とはまったく違った表情を見せる。ブラームスも晩年の作ともなれば、達観したところもあり、自身を見つめ直しているところのあり、それでもロマン的な憧れは失ってはいない。そんな雰囲気がよく出ている演奏であった。

 後半はシューマンの「交響曲 第4番 ニ短調 作品120」。これは結論を先に言ってしまうが、演奏自体がとても素晴らしかった。これまでに聴いたこの曲の演奏の中では最も刺激的で、これほど素敵な曲だったのかと感心させられたくらい。もっともシューマンの交響曲にはあまり関心がなかったこともあるが・・・。また同時に、これまで聴いたOrchestra AfiAの演奏の中でも、今日のシューマンがもっとも感動的であったといえる。今回はいろいろな機会があって、この曲に関しては随分と予習をしていた。さらに、実は今回もゲネプロから聴かせていただき、曲が固まっていく様子もしっかりと聴いている。その上で、本番の演奏における爆発的なエネルギー(音楽的な情熱の、という意味)を肌で感じ取り、痺れるような快感に包まれたのである。
 この曲にも「Reの悲劇」というテーマに相応しい経緯がある。まず、シューマンが残した完成された交響曲は4曲あるが、第1番の「春」が大成功を収めたにも関わらず、2番目に書かれたこの曲は初演が失敗に終わったために出版されず、長らくお蔵入りとなってしまう。失敗した理由は色々だろうが、その演奏会には当時人気ピアニストであったクララだけでなく、フランツ・リストが友情出演したために、聴衆の関心がそちらの方ばかりに向いてしまったということがある。初めて聴く交響曲よりは人気演奏家の派手なパフォーマンスを聴きたい、という聴衆の心理はよくわかる。私も協奏曲が大好きなので、メインの交響曲そっちのけでコンサートを選んだり聴きに行くことも多いから、他人のことはとやかく言えないだろう。そして10年ほどの後、改訂された第2稿が成功を収め、ようやく出版されることになった時には既に第2番と第3番「ライン」が発表された後だったために、本作が「第4番 作品120」として出版されたのである。
 悲劇はまだまだ続く。第2稿初演の年にシューマンによって世に紹介されたブラームスは、どうしたわけかシューマンやクララの意に反して第2稿よりも初稿の方がすぐれていると確信し、シューマンの死後、クララに無許可で初稿を出版してしまう。このことによりクララとブラームスの関係にかなり深い亀裂が生じてしまう。未亡人クララに深く思いを寄せていたブラームスとしては、その関係修復のために、曲を贈ったりしてかなり苦労させられることになってしまうのであった。
 このようにシューマンの「交響曲第4番」は、シューマンの生前も死後も悲劇的(ちょっと大袈裟かも)な要素のある問題作になってしまった。「Reの悲劇」として本日演奏されるのは第2稿の方である。最大の特徴は4つの楽章が続けて演奏されるようになっていることだ。
 第1楽章は序奏付きのソナタ形式。とはいっても構造の自由度は高く、古典派のソナタ形式のようなハッキリしたルールからはかなり逸脱している。この楽章が同じような音型の繰り返しが続くように感じられるのは、明確な第2主題がないからである。基本的に来第1主題の展開で提示部も展開部も再現部も構成されていく。再現部で第1主題が再現された後に美しく新しい主題が出て来て繰り返されるので、考えようによってはこれが第2主題であり、提示部には第2主題が省かれている(?)という解釈のできないことはない。このように交響曲の第1楽章のソナタ形式を自由に変形させ、自由な感情を表していくあたりが、ロマン派ならではということだろう。
 長めの序奏は短調で悲劇的な匂いを振りまくが、ふと長調に揺れ動き、どこかに期待感を感じさせる曲想になっている。演奏も最初かに気合いが入った感じで、高い緊張と豊潤な質感で押し出して来る。
 ソナタ形式主部に入ると、第1主題はいかにもロマン派の短調の交響曲に相応しい(というのも変な言い方だが)秘めたるエネルギーが感じられる力強いもの。演奏はやや遅めのテンポで、それでもリズム感良く提示される。小編成のオーケストラならもっと速いテンポでキビキビ来るかと思っていたら意外な展開だ。実際には遅めのテンポにしたことで、主題やそれが展開していく旋律を明瞭に歌わせることに成功していて、必ずしもインテンポを守らずに大きくフレーズを創っている。オーケストラ側のダイナミックレンジも意外なくらいに大きく、かなりメリハリを効かせている。そのために遅めのテンポでもキレ味を鋭く感じさせることができ、結果的には躍動的でダイナミックでありながら、旋律を豊かに歌わせるという、相反する要素を見事に融合させた演奏になっていた。再現部以降に登場する第2主題(?)の流れに乗った流麗な演奏は、聴く者にワクワクするような高揚感をもたらしてくれる。瑞々しい音色と躍動的なリズムが生み出す音楽は、無機質な音の集積ではなく、人間的な生命力でいっぱいに感じられた。
 第2楽章は緩徐楽章。今までのイメージでは葬送行進曲とまではいわないが、悲しみを秘めた人たちの、重荷を背負ったような足を引きずるようなゆったりとした歩みが思い浮かぶ曲想である。ところが村中さんは、かなり遅めのテンポで主題を歌わせる。歩く速さよりは相当遅い。しかも縦の線を揃えるのではなくて、横の線を穏やかに流す演奏であろうか。私が感じ取ったのは、歩むイメージではなく、立ち止まって思索するイメージであった。基本的に明瞭な色彩感を持つOrchestra AfiAの音からは、「悲しさ」よりも「悩み」という観念に近かったような気がする。立ち止まって思い悩む情念がそこにはあった。
 そして中間部に登場するヴァイオリンのソロによる甘美な下降系の主題は、どう見てもシューマンの心に火を点すクララそのもの。渡辺さんの糸を引くような繊細で優しい音色が美しく愛らしい女性像を描いていく。しかも最初は小さめに登場し、2度目、3度目になるとオーケストラから明瞭に浮き出して来る。曖昧な女性像がハッキリとした姿になって見えてくるようであった。
 アタッカで演奏される第3楽章はスケルツォ。諧謔性はなく、悲劇的で激情的な主題が力強く打ち出される。テンポはやや遅めだが、リズム感は鈍重できなく生命力がある。苦悩・懊悩に苦しめられるような旋律をしっかりとした造形で描いたいる。中間部は、第2楽章のヴァイオリン・ソロと同じ音型で弦楽が受け持つ。クララの主題がここでは増幅されていて、スケルツォ主題の悲劇性を打ち消していく。弦楽のアンサンブルが優しげな調和を見せ、クララの存在がもはや確定的な存在になっている。
 そしてアタッカで第4楽章に流れていく。ここも序奏付きの自由なソナタ形式である。荘厳な金管のファンファーレに続いて主部に入るとテンポがグンと上がって登場する第1主題は、第1楽章の展開部に挿入されている主題が躍動的に現れるもの。第2主題はやや穏やかになって抒情的だがテンポは落とさない。なお、主題提示部はリピートされる。展開部は第1主題のフガートから盛り上がっていき、再現部では第2主題のみが推進力を加えて再現され、テンポがさらに上がるコーダではストレッタを聴かせて華々しく歓喜のフィナーレとなる。第3楽章までが遅めのテンポ感で進んで来たため、ここに来てエネルギーの奔流が一気に押し寄せてくるイメージ。極めて躍動的で推進力が漲り、小編成でありながら、圧倒的な音量とダイナミックレンジで、瑞々しく生気に満ちた演奏。これはもう素最高に晴らしい演奏といか言いようがない。Bravissimo!! 会場からも盛んにBravo!!が飛んでいた。

 アンコールは、ちょっと珍しい、ホルストの「セントポール組曲」より 「第2曲 オスティナート」。コンサートをレストランのディナーに例えると、アンコールはデザートになる。食前酒(ブラームス:悲劇的序曲)、肉料理(ブラームス:ピアノ協奏曲第1番)、魚料理(シューマン:交響曲第4番)と、重いメニューが続いたので、デザートはイタリア料理風に消化を促進するお酒とのこと。弦楽合奏による軽やかで清涼感のある演奏が印象に残る。心が洗われるような音楽が、胃の腑に染みわたるようであった。

 終演後は、出演者との歓談の一時があった。村中さんはいつものようにロビーに出てこられて、知り合いやら、先生やら、ファンの方々や、初めて聴いたという方たちからも次々と挨拶を受けていた。またメジューエワさんは急遽サイン会を開き、CDを購入された人たちと交流を深めていた。私はといえば、コンサートマスターの渡辺さんとお会いすることができたので初めて記念写真を撮らせていただいた。それにメジューエワさんも(本文中の写真)。気が付いてみれば、村中さんに写真を撮らせていただくのを忘れてしまい、今回も本日の写真はなしとなってしまった(スミマセン)。


 今日は土曜日の公演であったため、平日よりも時間に余裕があったので、「レセプション・パーティ」と称する打ち上げにも参加してみた。結果的には、Orchestra AfiAのメンバーの方たちとは交流する機会がなかったが、聴き手であるファン同士で盛り上がり、音楽を巡っての楽しい話題に花を咲かせていた。初めて出会った人や、普段はまったく異なる世界に身を置いている者同士が、「音楽」という共通語を得るとその時から親しく語らうことができる。そうしていると仕事や日常のストレスもどこかへ行ってしまい、知らないうちにとても幸せに気分に浸っていることに気が付く。それももちろん、村中さんとOrchestra AfiAの素晴らしい演奏を聴いた後だから。幸せを感じる脳内麻薬物質がたくさん分泌されているのかもしれない。今日は、午後のゲネプロ〜夕刻の本番〜夜の部の打ち上げ、と長〜い1日であったが、1日中音楽にどっぷりと浸かっていて、そういうことが許される環境にも感謝しつつ、この幸福感を多くの人と共有できればそれほど素敵なことはないだろうとも思った。

【ご参考までに・・・・】
 私が聴いたOrchestra AfiAの過去3回のコンサート・レビューです。
 ●2016年5月12日「自然と音楽」演奏会シリーズ Vol.10 “Quo Vadis”「時の彼方へ」
 ●2016年2月18日「自然と音楽」演奏会シリーズ Vol.9 “Frühlingstraum”「想春歌」
 ●2015年12月11日「自然と音楽」演奏会シリーズ Vol.8 「シルクロードへの旅」

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