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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/18(水)田中彩子ソプラノ・リサイタル/ハイ・コロラトゥーラの新星登場

2015年03月18日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
田中彩子 ソプラノ・リサイタル「華麗なるコロラトゥーラ」

2015年3月18日(水)19:00~ 紀尾井ホール S席 1階 1列 10番 5,800円
ソプラノ: 田中彩子
ピアノ: 加藤昌則*
【曲目】
グローテ: ナイチンゲールの歌
フォーレ: 愛の歌
マイアベーア: 影の歌 ~歌劇『ディノラー』より
シューマン: アラベスク(ピアノ・ソロ)*
シューベルト: 野ばら
モーツァルト: すみれ
モーツァルト: 夜の女王のアリア ~歌劇『魔笛』より
ドリーブ: 鐘の歌 ~歌劇『ラクメ』より
ドニゼッティ: さようなら ~歌劇『連隊の娘』より
加藤昌則: デュエット(ピアノ・ソロ)*
メンデルスゾーン: 春の歌(ピアノ・ソロ)*
フロトー: 夏の名残の薔薇 ~歌劇『マルタ』より
ヨハン・シュトラウスII: 春の声
《アンコール》
 アーン: クローリスへ
 シューベルト: アヴェ・マリア

 新進ソプラノ歌手、田中彩子さんのリサイタルを聴く。昨年辺りから突然話題になり始め、avex-CLASSICSからCDデビュー、そして日本でのデビー・リサイタルー・ツアーが組まれた。今日のコンサートもエイベックス・クラシック・インターナショナルの主催である。
 田中さんは、10代の頃からウィーンで声楽を学び、22歳の時にスイスのベルン市立歌劇場でソリストとしてデビュー、以降ヨーロッパでオペラ歌手として、同時にソプラノ声楽家として活躍しているという。1984年生まれで現在31歳。「10代にして、100年にひとりと称されるハイ・コロラトゥーラの才能を認められ~」とCDジャケットにも記載されてるように、コロラトゥーラ系の中でもとくに高い声が出る逸材らしい。
 日本へのデビューについてはエイベックスが積極的なPR戦略を行っているらしく、メディア出演などで話題を作り、いきなりオーケストラ伴奏でCDデビューという破格の待遇、いわゆる鳴り物入りでの登場というわけだ。積極的なプロモーション活動の賜物で前評判も高く、無料音楽情報誌『ぶらあぼ』3月号の表紙にまで採り上げられていた。私もその戦略に見事に乗っかり、かなり初期段階の安っぽいチラシ(失礼)を見ただけで聴いてみたくなり、発売日に合わせてチケットを取り、CDも予約して発売日に入手した次第である。
 そして今回のデビュー・リサイタルは、発売されたCDと多くの曲が共通になっていて、CDの発売記念も兼ねているということになる。今日の東京を先頭に、大阪、長崎、福岡、名古屋と回るツアーが組まれている。ツアーはさすがにオーケストラ伴奏というわけにはいかないので、ピアノ伴奏、こちらは作曲家の加藤昌則さんが受け持つことになっている。

 さてそれでは、実際に聴いてみての印象はどうだったのかというと・・・・。
 ステージに登場した田中さんは、声楽家としてはかなり小柄な方で、一見して少女のように見える。ステージ上では落ち着いていて、素人っぽさ、新人っぽさはまったくない。ただし、歌っている間の身のこなしや仕草などは、ステージ経験がさほど多くない、といった雰囲気も漂わせていた。要するに、まだあまり慣れていないという感じである。そして肝心の歌唱はというと、・・・・こちらが期待していたオペラ歌手としての一般的なイメージとはやや違っていた。小柄な体型から繰り出される声は、確かに「高い」音域までストレスなく出ている。声質も澄んでいてとてもキレイだ。売り物のコロラトゥーラ唱法の技巧については、音程も正確だし、表情もあまり変えずにサラリと歌えるだけの技巧を持っている。一方で、声量はあまりないようである。確かに上手いし高音域も無理なくこなしているが、100年にひとりの逸材かといわれると、はたしてどんなものだろうか、ちょっと首をかしげてしまいそう。

 グローテの「ナイチンゲールの歌」は映画音楽として書かれた曲で、コロラトゥーラの技巧が散りばめられている。田中さんは歌曲のような歌い方で、声をあまり張らずに、軽やかな技巧と無理のない美しい高音域を披露した。高音のトリルが素敵だ。
 フォーレの「愛の歌」は切々と歌う歌曲。フランス語の発音は・・・・ドイツ語っぽく聞こえたが、他の人はどう聴いただろうか。
 マイアベーアの「影の歌」はオペラ『ディノラー』の中の有名なアリアだ。ここでもフランス語の発音が少々気になったが、軽快なコロラトゥーラはなかなかのもので、キレイな声と正確な音程、無理をしなくても出るような高音が伸び伸びとしている。確かにこれだけの装飾的なハイC以上の高音域の歌唱を表情も変えずに平然とこなすというのは、できる人はあまりいないだろう。
 続いては加藤さんのピアノ・ソロで、シューマンの「アラベスク」。加藤さんのピアノは角がなくとても優しく響く。
 シューベルトの「野ばら」は誰でも知っている名歌曲。モーツァルトの「すみれ」も有名な曲だ。この二つの歌曲は、選曲の意図がちょっと不明。コンサートのタイトルが「華麗なるコロラトゥーラ」なのだから・・・・。
 前半の最後は、モーツァルトの『魔笛』から「夜の女王のアリア」、おそらく、今日ここに聴きに来ている人々がもっとも期待していた曲であろう。そして驚くべきことに、田中さんは評判に違わず、「夜の女王のアリア」を普通に、アッサリと歌ってしまったのである。最高音のハイF(3点ヘ)の音だけわずかに口のカタチが変わった以外は、まったく普通の表情のまま。もちろんこの曲を歌うソプラノさんは大勢いるし、皆さんそれなりのテクニックを駆使してこの音を絞り出すのだが、田中さんの場合は、本当にサラリと歌ってしまう。なるほど、100年にひとりの逸材なのかもしれない。ただ、高音が出る分だけ、緊張感や迫力が不足してしまう。それがかえって物足りなさを感じさせてしまった。普通はこの音を一瞬だけ絞り出すために「夜の女王のアリア」にはキリキリとした緊迫感が伴う。「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」る悪魔の叫びのような緊迫感がなければ、オペラとしては面白味がなくなってしまう。モーツァルトが狙ったのもその効果だったのではないだろうか。まあ、贅沢を言ってはキリがないのだが・・・・。

 後半は、ドリーブま「鐘の歌」から。オペラ『ラクメ』が上演されることは滅多にないが、この曲はコロラトゥーラ系のソプラノさん腕の見せ所の曲のひとつである。曲の持つイメージや内容からは、この曲の方が田中さんには会っていると思う。クセのない透明な声質、素直で自然な高音域、コロラトゥーラの超難度の技巧も見事に歌いきった。
 ドニゼッティの「さようなら」は『連隊の娘』の中のアリア。今日はイタリア語版で歌われた。同じコロラトゥーラ系でも、イタリアのベルカントは朗々と歌う息い長い歌唱も求められる。それがあってこそ装飾的な歌唱が活きてくるのだ。田中さんの歌唱はとても上手いのだが、オペラ・アリアの押し出しという点では今一歩といったところだろうか。
 続いて加藤さんによるピアノ・ソロを2曲。1曲目は加藤さんご自身の作曲による「デュエット」。非常に美しく抒情的なピアノ連弾曲。今日はそのソロ用のアレンジを弾いてくれた。あまりに素敵な曲なので、ちょっと得した気分になる。
 メンデルスゾーンの「春の歌」は誰でも知っている有名な曲。今日はとても暖かい1日で、この曲のように心が弾む思いであった。
 続いて、フロトーの「夏の名残の薔薇」は オペラ『マルタ』の中のテーマ曲だが、原曲はアイルランド民謡で、日本では「庭の千草」として知られる。エルンストの無伴奏ヴァイオリンのための編曲も超絶技巧曲として有名だ。ここではコロラトゥーラ技巧は出て来ないが、田中さんの透明感のある素直な歌唱が素敵だ。
 最後は、ヨハン・シュトラウスIIの「春の声」。ウィーン在住の田中さんにとっては、馴染んだワルツのリズムは心地よいものに違いない。コロラトゥーラ系のワルツは何とも華やいで、春の気分を誘う。小鳥の鳴き声を模したような装飾的なフレーズも軽やかに、明るく明瞭な声質で、弾むような華やいだ歌唱が印象的だった。

 アンコールは2曲。アーンの「クローリスへ」は切々と愛する気持ちを歌うとても美しい曲である。ゆったりと息の長い旋律が透き通った声で歌われると、聴いている方もふんわりとした気分になってしまう。
 最後はシューベルトの「アヴェ・マリア」で締めくくった。

 終演後は恒例のサイン会。今日のリサイタルが田中さんのデビューCD発売記念も兼ねているので、CDも随分たくさん売れたらしく、長蛇の列があっという間にできた。リサイタル自体が時間的には短かったのでサイン会に参加するつもりだったが、あまりの人数に圧倒されて断念することにした。せめてちょっと見物していこうということで、サイン会が始まったところをカシャリ。


 田中彩子さんの全体的な印象は、かなりの高音域がストレスなく出せることと、正確なコロラトゥーラの音程と技巧の持ち主だということだ。歌唱力という点では、感情的な表現力などは今後の研鑽次第であろう。また、今日聴いた限りでは声量が小さく、オペラの大舞台ではどうなるのかは、実際に聴いてみないと分からない。今日は本調子ではなかったようにも思える。いずれにしても1回聴いただけでは評価するのは難しいので、また機会があったらぜひ聴かせていただきたいと思った。やはりオペラの舞台で聴きたいものである。

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【お勧めCDのご紹介】
 もちろん、田中彩子さんのデビューCD「華麗なるコロラトゥーラ/COLORATURA」です。ペーター・イレイニ指揮/ブダペスト・アート交響楽団による伴奏で、全12曲が収録されています。今日のリサイタルで歌われた「夜の女王のアリア」「鐘の歌」「影の歌」「さようなら」「夏の名残の薔薇」「春の声」が収録されています。他にも、コロラトゥーラ・ソプラノの定番、オッフェンバックの「生垣に小鳥たちが」(『ホフマン物語』の中のオランピアのアリア)、面白いところではヴェルディ『椿姫』の「さようなら、過ぎ去った日々よ」が収録されていて、一風変わったヴィオレッタを聴くことができます。

華麗なるコロラトゥーラ(SACD-Hybrid)
avex CLASSICS
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