Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

7/21(土)青木尚佳/多摩/4ヶ月ぶりに聴くリサイタルは自然体で自由闊達/溢れる歌心で音楽の喜びを表現

2018年07月21日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
パルテノン多摩 ミュージックサロン・シリーズ Vol.34
青木尚佳 ヴァイオリン・リサイタル


2018年7月21日(土)15:00〜 バルテノン多摩・小ホール S席 1列 12番 3,500円
ヴァイオリン:青木尚佳
ピアノ:中島由紀
【曲目】
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 作品12-2
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第4番 ホ短調 作品27-4
クライスラー:愛の喜び
クライスラー:愛の悲しみ
クライスラー:美しきロスマリン
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18
R.シュトラウス/プシホダ編:歌劇『ばらの騎士』より「ワルツ」
《アンコール》
 クライスラー:シンコペーション

 ヴァイオリニストの青木尚佳さんは6年間に及ぶ英国留学を修了し、現在は日本に戻って研鑽の日々を送っている。その間、NHK交響楽団の九州沖縄ツアーにエキストラで参加したり、アマチュア・オーケストラでコンサートミストレスを務めたりと、色々な演奏活動を行っている。その中でポツンとひとつだけ開催されたリサイタルが、今日のパルテノン多摩でのコンサートである。東京都多摩市はいささか遠いのだが、折からの猛暑に悲鳴を上げつつ、いつものように早めに会場入りしようと開演1時間以上前に着いたら、どうやら一番乗りだったらしく、ホールのロビーには誰もいない。もちろん、指定席なのでそれほど早く来る必要はないのだが・・・・。

 尚佳さんの演奏を聴くのは、今年2018年3月24日のヤマハホール、「ブランデンブルグ協奏曲全曲演奏会」以来になるが、その時は弦楽アンサンブルの一員でしかなかった。リサイタル形式で聴くのは、3月8日の東京文化会館・小ホールでの「日本モーツァルト協会」のコンサート以来となるから、けっこう久し振りという感じがした。さらに、ピアノの中島由紀さんとのデュオは、昨年2017年10月4日、HAKUJU HALLでの「スーパー・リクライニング・コンサート」以来。その時のライブ録音がCDアルバムとしてリリースされているので、今日は終演後にお二人揃っての初のサイン会も予定されている。そうした関係もあって、本日のプログラムの半分は、その時と同じ曲目、つまりCDに収録されている曲目となっていた。


 1曲目は、ベートーヴェンの「ヴァイオリン・ソナタ 第2番」。番号は2番となっているが実質的には最初に作曲されたヴァイオリン・ソナタだとされている曲である。青春が弾むような軽快で可憐な曲想の第1楽章、若さ故の憂愁が漂う第2楽章、若々しく伸びやかな第3楽章。モーツァルトの影響が残っているとも言われているが、私には若き日のベートーヴェンがそのまま表れている曲のように思える。尚佳さんの演奏で聴くのは初めてかもしれない。彼女はプログラムを組む際、比較的重いソナタなどを前半にまとめることが多い。
 尚佳さんの演奏は、気持ちが良いくらいに真っ直ぐな印象。といっても1本調子という意味ではなく、その精神に於いて迷いがないという意味だ。極めて正確で安定した技巧から繰り出される歌心溢れる音楽作りには、若くフレッシュな感性と、音楽をディテールまで追求した深みや豊かさが同居している。音色は艶やかで滑らか。音に濁りがなくとても美しい。そして何よりも素晴らしいのは、音楽がよく歌われていることだ。器楽的な表現を抑え、旋律が歌い踊る。だからこそ人間的な温もりが生まれ、ベートーヴェンの「情感」が描かれて行くのである。
 中島さんのピアノも素敵だ。基本的に響きの薄いのホールなので、一見するとひとつひとつの音がプツプツと短く、深みや厚みのある響きを出さないことで、逆に音が澄んたまま飛び出すし、残響が音を濁らせることもない。したがって、速い装飾的なパッセージなどもクリアなサウンドで上品に響かせていた。尚佳さんとの息もピッタリで、抜群のリズム感でタイミング良くヴァイオリンとピアノを対話させていた。あまり派手でない曲を、地味にならないように彩度と明度を適切にして、明るく伸びやかな曲に仕上げていた。

 2曲目は、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第4番」。作品27のイザイの6曲の無伴奏ソナタは、いずれも著名なヴァイオリニストに別々に献呈されているが、この第4番はクライスラーに献呈されている。後半に演奏するクライスラーの小品たちへと導く選曲ということか。尚佳さんのイザイというのも意外なことに珍しく、聴くのは初めてだと思う。
 イザイの無伴奏は、バッハの時代よりは遥かに進化した演奏技術に裏付けられているが、無伴奏であること故の難しさは変わっていない。たった一人で、旋律も和声もリズムも創り上げなければならず、そこには演奏者の持てるすべてが、つまり技巧や表現力に留まらず、感性、音楽性、そして人格さえもが表れてしまう。
 尚佳さんの演奏は、そうした全人格的な音楽表現としても、すでに若手の演奏家という段階を超えているように思う。超絶技巧には地に根が生えたような安定感があり、非常に質感の高い音で曲の隅々までがしっかりと描かれているのに、旋律は豊かに歌い、多声的な造型や和声感も美しい。また音楽の流れは滑るようなしなやかさを持ち、リズム感の乱れは感じられないのに、自然体の間合いが実に音楽的なのである。持ち前の、明るくていつも前向きな性格がイザイの音楽に乗り移っているようであった。


 後半はまずクライスラーの名品から。いわゆる「愛の三部作」で、「愛の喜び」、「愛の悲しみ」、そして「美しきロスマリン」の順に演奏された。クライスラーになると、前半の曲とはまた全然違った世界観の音楽になる。粋で洒脱なウィンナ・ワルツ。まさに演奏する際の気分が反映されるような曲たちである。尚佳さんの演奏は、CDに録音された昨年10月の時に比べると、一段と自由度が増して、テンポを自在に操り、音に情感がたっぷりと乗せられている。演奏する側も聴く側も肩の凝らない、緊張をほぐすような効果のある、素敵な時間である。

 後半のメイン曲はリヒャルト・シュトラウスの「ヴァイオリン・ソナタ」。変ホ長調という調性はヴァイオリンにとって決して響きも良くないし弾きやすくないはずで、逆にピアノは弾きやすい。この曲はピアノのパートが非常に充実していて、絢爛豪華で煌びやかな曲想を持っている。だからピアノがヴァイオリンの「伴奏」になってしまうと魅力は半減してしまうことになるが、一方でピアノが曲想に合わせてガンガン出てくるとヴァイオリンを食ってしまうことになる。その辺の按配が難しいのである。その点、尚佳さんと中島さんのコンビネーションは抜群だ。ヴァイオリンはまさに「青春の抒情性」といった感じに、瑞々しくフレッシュ感溢れる音色で、情感たっぷりに歌う。ピアノは同等の立場で対話するように、煌びやかに飾り、踊る。長年のコンビでお互いをよく知っているからというだけではない、一流の才能がぶつかり合い、より高い次元に昇華していく。そんなイメージの演奏に思えた。

 最後は、R.シュトラウス/プシホダ編の歌劇『ばらの騎士』より「ワルツ」。この曲はいわば尚佳さんの「持ち歌」となりつつある。楽曲自体は比較的珍しく、あまり演奏される機会はないが、尚佳さんが2011年7月に浜離宮朝日ホールでリサイタルを開いた際に、メイン曲はR.シュトラウスの「ヴァイオリン・ソナタ」で、アンコールにこの「ばらの騎士」を弾いたのである。やはり思い入れのある曲らしく、CDにも収録された。本日も暗譜での演奏であった。演奏は、全体的に速めのテンポでワルツを軽快に流していく。オペラで歌われているイメージというよりは、ウィーンのカフェ辺りで演奏されているようなウィンナ・ワルツ的な洒落た演奏である。

 アンコールは1曲。クライスラーの「シンコペーション」であった。こちらも軽快で洒脱な演奏で、聴く者の気持ちを和ませてくれた。

 終演後は、サイン会があった。尚佳さんのデビューCD「Ein Kozert」が正式にリリースされたのは今年2018年4月4日だが、実はそれに先立つ3月24日にヤマハホールでの「ブランデンブルグ協奏曲全曲演奏会」の会場(ヤマハホール)で最速の先行発売があった時に、私は入手していた。演奏会後のサイン会は今回が初めてということで、しかも中島さんも一緒である。私も列に並んで、お二人にサインをいただいた。
 今回のリサイタルを聴いて感じたのは、尚佳さんの演奏はいつもフレッシュ感があり伸び白を感じさせる、つまりもっともっと進化する可能性を示唆するものであったが、今回はそれに加えて安定感が増したという印象を持った。完成形に近づきつつあるという意味ではなく、尚佳さんらしさ(ご自身のスタイル)が強く発揮されるようになってきたということである。ベートーヴェンもイザイもシュトラウスも、尚佳さんの個性によって描き出されていたということである。
 この後、またしばらく尚佳さんの演奏を聴く機会がない。次は10月。世界的なギタリストのエマヌエーレ・セグレさんとのデュオで国内ツアーが予定されていて、私は10月8日(月・祝)のHAKUJU HALLと10月13日(土)のフィリアホールで聴く予定。同じプログラムだが、ギターとのデュオは初めてだと言うし、また新しい音楽世界に踏み出すことになるので、できるだけ聴いておきたいと思っている。



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【お勧めCDのご紹介】
 青木尚佳さんのデビューCDをご紹介します。タイトルは「Ein Konzert」。ひとつのコンサート、というわけで、その内容は、2017年10月4日、Hakuju Hallで「スーパー・リクライニング・コンサート」として開催されたヴァイオリン・リサイタルのライブ録音です。共演はピアノの中島由紀さん。収録曲は、モーツァルト/クライスラー編の「ロンド」、クライスラーの「プレリュードとアレグロ」「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」「愛の喜び」、リヒャルト・シュトラウスの「ヴァイオリン・ソナタ」、シュトラウス/プシホダ編の「歌劇『ばらの騎士』より“ワルツ”」、クライスラーの「ウィーン風小行進曲」(アンコール)です。

Ein Konzert
青木尚佳,中島由紀,モーツァルト,クライスラー,R.シュトラウス
フォンテック



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