ぶらっとJAPAN

おもに大阪、ときどき京都。
足の向くまま、気の向くまま。プチ放浪の日々。

狸鍋を食べるときは。『有頂天家族』

2017-05-05 21:51:17 | 京都

[森見登美彦]の有頂天家族 (幻冬舎文庫)


最近2作目の文庫本が発売されましたが、本日ご紹介するのは1作目。京都・糺の森に住む狸の名門・下鴨家の狸兄弟にまつわる京都が舞台のファンタジーです

糺の森に始まって出町柳に百万遍、四条に花見小路と、京都を訪れたことのある方なら馴染みのある通りやお店がたくさん出てきます

狸や天狗が人間に混じって生活しているという話が成立するのも京都だからこそですね。あの町にはこうしたファンタジーを抱え込む懐の深さがあります。糺の森には本当に狸がいるし(私も実際に会ったことがあります)、時代がかった薄暗い通りや古い神社には人間ではないものの気配がする。そうした京都独特のたたずまいを丁寧に掬い取った描写が京都好きにはたまらない一編です。

ところで、この狸兄弟の父親は狸鍋にされ人間に食べられてしまったんです! どこかで聞いた話と思ったらピーターラビットでした。ピーターのパパはマグレガーの奥さんにパイにされてしまいましたね。酷い仕打ちと思いますが、こうしたエピソードが人間と動物の関係の簡潔かつ的確な描写なのは間違いありません。実際、私も狸鍋を食べる機会があれば遠慮なく、そして美味しくいただくでしょうし、一方で、もし糺の森で出会った狸が鍋で出てきたら、たぶん食べられない 勝手なものですが、でも他者の命をいただかないと生きていけないですし、面識ある(?)狸を可愛いと思う気持ちも本当。その事実を忘るべからず、ということかもしれません

物語の後半、狸たちを乗せた電車が寺町通を疾走しますが、そのあおりを受けて、老舗の文房具店『鳩居堂』から吸い出された美しい扇や便箋が舞う光景が鮮やかに頭の中に残りました。これから鳩居堂の前を通るたびに、生き生きと駆け回る狸たちの姿を思い浮かべて思わず笑みがこぼれてしまいそうです

 

興味ある方はこちらもご覧下さい→ 『糺の森のたぬき【京都・下鴨神社】』

コメント (4)
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