
生死のあわいにあればなつかしく候
みなみなまぼろしのえにしなり
おん身の勤行に殉ずるにあらず
ひとえにわたくしのかなしみに殉ずるにあれば
道行のえにしはまぼろしふかくして一期の闇のなかなりし
ひともわれもいのちの臨終
かくばかりかなしきゆえに
けむり立つ雪炎の海をゆくごとくなれど
われよりふかく死なんとする鳥の眸に遭えり
はたまたその海の割るるときあらわれて
地の低きところを這う虫に逢えるなり
この虫の死にざまに添わんとするときようやくにして
われもまたにんげんのいちいんなりしや
かかるいのちのごとくなればこの世とはわが世のみにて
われもおん身も
ひとりの極みの世をあいはてるべく
なつかしきかな
いまひとたびにんげんに生まるるべしや
生類のみやこはいずくなりや
わが祖は草の親
四季の風を司り
魚の祭りを祀りたまえども
生類の邑はすでになし
かりそめならず今生の刻をゆくに
わが眸ふかき雪なりしかな
(石牟礼道子『天の魚』より)
みなみなまぼろしのえにしなり
おん身の勤行に殉ずるにあらず
ひとえにわたくしのかなしみに殉ずるにあれば
道行のえにしはまぼろしふかくして一期の闇のなかなりし
ひともわれもいのちの臨終
かくばかりかなしきゆえに
けむり立つ雪炎の海をゆくごとくなれど
われよりふかく死なんとする鳥の眸に遭えり
はたまたその海の割るるときあらわれて
地の低きところを這う虫に逢えるなり
この虫の死にざまに添わんとするときようやくにして
われもまたにんげんのいちいんなりしや
かかるいのちのごとくなればこの世とはわが世のみにて
われもおん身も
ひとりの極みの世をあいはてるべく
なつかしきかな
いまひとたびにんげんに生まるるべしや
生類のみやこはいずくなりや
わが祖は草の親
四季の風を司り
魚の祭りを祀りたまえども
生類の邑はすでになし
かりそめならず今生の刻をゆくに
わが眸ふかき雪なりしかな
(石牟礼道子『天の魚』より)