生態がほとんどわかっていなかったオオサンショウウオ
驚くべきは国の特別天然記念物でありながら、その生態は謎だらけ
勤務する水族館でよく聞かれた素朴な疑問に答えようと研究をはじめた
子供たちに答えようと、ついには「日本ハンザキ研究所」を作ってしまった栃本武良
【この企画はWebナショジオ_“日本のエキスプローラ”/研究室にいって来た”を基調に編纂】
(文=川端裕人/写真=的野弘路、堀信行 & イラスト・史料編纂=涯 如水)
◇◆ 第4回 「謎の首切り死体事件」の犯人は? =3/3= ◆◇
オオサンショウウオが毎日毎日勤勉に狩りをしているわけでもないということなんですね。平均すると3日に1度くらいしか出てこない。かなり省エネでやってるみたいなんです。あと、個体にも個性があって──栃本さんが、含み笑いをしつつ話を引き取った。
「毎日、出勤してる個体がおったよな。2回とも毎日出てきた勤勉なやつ。それと、逆に2回とも1週間に1回しか出なかったやつがいるんだよ。非常に怠け者だね」
平均は「3日に1度出勤」なのだが、裾野は広く、「毎日出勤」から「週に1度の重役出勤」まで。平均がどのあたりで、裾野がどう広がっているかを意識すると、「ここのオオサンショウウオはこういうかんじ」と、それこそ「トータル」にイメージできるとぼくは感じる。ほかの場所で調べると違う結果になるかもしれないし、となると、環境の違いとそれに対する応答、といった今の「フィールドの生物学」でもよく取り上げられる課題に直結する。
ちなみに、田口さんのこの2度の調査で登場した毎日出勤の「勤勉君」と、週に一度の「重役君」について、面白いことが分かった。
栃本さんがまたも笑いながら説明してくれた。
「この2回とも皆勤賞の勤勉なやつ、成長、ゼロ! 17年追跡しててゼロ。で、1週間にいっぺんのやつの方がずっとよくて、十何年かで5.5センチの成長!」
重役出勤するやつが、毎日狩りをする勤勉君よりも、ずっと成長しているとは!
なんともいえない皮肉な調査結果だ。
勤勉君はよほど要領が悪いのか。一方、重役君は、週一の出勤で、まずまずの成長を遂げている理由は? いろいろと想像が広がる。きっとその先には、「個性」についての研究も構想できるだろう。
以上、研究スタイルの違い、などと書いてはみたけれど、田口さんのこういった研究は、栃本さんら先達が、個体識別をひたすら進めてきたこと、さらに繰り返し観察して記録してきたデータを参照してはじめて意味のある広がりを持つ。
今後、日本ハンザキ研究所が蓄積しているデータを活用して、次世代の研究が生まれることは間違いない。
次回“第5回 オオサンショウウオの未来を守れ”に続く・・・・・
■□参考資料: オオサンショウウオの現在 (4/7) □■
ヌシの子育て
産卵が終わると、雌も雄も出て行き、産卵巣穴にはヌシのみが残って、10 月下旬に幼生が孵化するまで、ヌシは卵塊を保護する。巣穴に侵入しようとする者は何であれ、ヌシは反射的に噛みつき撃退する。また、ヌシは入口を見張りながらも、絶えず尾で卵塊を揺らし、かき混ぜている。人工的に卵を孵化させると孵化率は30%くらいだが、ヌシが守った卵塊はそのほとんどが孵化に至る。よって、ヌシは卵塊を育てていると考えられ、外敵から幼生を守り、子育てをしていると言える。
幼生は孵化した後も産卵巣穴に留まり、腹部に蓄えた卵黄を消化しながら成長し、5㎝程になった2月初めに川の中へと離散する。子育ての役目を終えたヌシは、幼生の離散後に巣を離れ、自らの生息巣穴に帰る。2月下旬から7月までの間は、産卵巣穴は空っぽになるのが一般的である。
幼生・幼体をめぐる謎
幼生は、水流に乗って離散し、一旦は下流に分布するが、その後幼生がどこでどんな暮らしをしているのかは、よく分かっていない。断片的な知見からではあるが、取水堰から引かれた水路に流れ込み、自然の土手でできた水路の水際が山斜面の方向に掘れ込んだ隙間に隠れて住んでいるように思う。たぶん、そこは山からの地下水が染み出る構造になっている。幼生は、飼育下の記録では、3~5 年で20㎝前後になり、鰓がなくなり変態する。しかし、年齢の査定方法が見つかっていないため、野生下での変態の年齢は分かっていない。
オオサンショウウオは、体の外見からは進化を止めて生きてきた「生きた化石」とされるが、行動学的には、両生類とは思えないほど高度な繁殖方法を身につけている。冬の間も休むことなく子育てを行い、幼生が元気に真冬の川に散っていくオオサンショウウオは、知れば知るほど進化した生きものに見えてならない。
分布状況 / 生息地・生息域
最近、オオサンショウウオ発見時の対応や河川工事時の行政的対応上、生息地の定義の必要性に迫られる場面が多くなっている。一般的に、オオサンショウウオの生息域は河川の「上流の下部域から中流の上部域」であるが、連続的に下流部にまで個体が発見されることが多い。それは生息域から流出した個体が、堰堤やダムなどの障害により生息地に戻れず、徐々に下流へと流された結果と考えられ、正常な生息ではない。
では、生息地を定義するとしたら、何が基準になるのであろうか。個体群としてオオサンショウウオ成体が見られることと繁殖活動が認められることである。両方を確認できる水域を確定生息地としよう。また、個体群のみが見られて繁殖活動が確認されていない河川域は未確定生息地としよう。未確定生息地は繁殖が確認されれば確定生息地となる。確定生息地と未確定生息地を合わせたものを生息地と定義して保護しよう。
個体が単体で見つかるが群れとして確認できない河川域は生息地とは呼ばずに個体確認水域としてはどうであろうか。オオサンショウウオは単体であってもその個体が特別天然記念物である。従前は、現状を変更せず、を原則としてきたが、個体確認水域で発見された個体は直上流の未確定生息地への移動措置を取るのが良策と考える。これは試案であるが、オオサンショウウオの保護行政は、生息地の定義の必要性に迫られている。
・・・・・・明日に続く
.-.-.- 世界最大の両生類!オオサンショウウオを探せ -.-.-.
動画のURL: https://youtu.be/4dQUvf64Eqc
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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