○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
○ 南極の凍った湖に潜って、原始地球の生態系を追う =田邊優貴子= ○
◇◆ 第6回 南極ダイビングはトラブルとともに =1/3= ◇◆
私は朝からひどく緊張していた。
今日はアンターセー湖での潜水調査初日。この日が近づくにつれて、楽しみでワクワクしていた気持ちと裏腹に、色んな不安が募りつつあった。 戦場におもむくというほどではないのだけれど、なんとなくそれに近い気持ちで、「もしかしたら死ぬかもしれない」なんてことも考えるようになっていた。
辛抱強さや動じなさ、なんとかなるさ精神、という極地のフィールドワークで重要な性質が平均より恐らく高めの私だが、昨日から「もう湖の藻屑となっても構わない・・・いや、ちょっと待て、藻類に“屑”をつけるのはなんたることだ。ブツブツブツ・・・」なんてことが頭の中をぐるぐる巡っていた。 敢えてシンプルに表現すれば、不安と緊張で昨夜は眠れなかった、ということである。
自分なりに分析してみたところ、この不安にはいくつかの要因があった。 アンターセー湖の寒さや風が尋常でないことはもちろん、これまで経験したことのない分厚い4mの氷の下へ潜っていくこと、いったん潜ると外界に通じている穴は1つしかないこと、穴はすぐに凍り始めること。
そのうえ今回は初めて使う機材があまりにも多かった。 地上とコミュニケーションを取るためのフルフェイス型マスク、アメリカ製の特注ドライスーツ、インナーのダウンつなぎなどだ。 どれをとっても、これまで潜ってきた南極の湖とは全然違う。
とは言え、なるようにしかならないのだから、ジタバタしても仕方がない。 できる限りを尽くそう、死なないように。 と、今回ばかりはいつもと違って、“なんとかなるさ”ではなく“なるようにしかならない”という同じように見えて結構違う意味合いの心境に変化していた。
これまでにない重装備
分厚い氷で塞がれた南極の湖での潜水調査は、バディを組んで2人で潜るのはでなく、1人ずつ潜るというやり方がほとんどだ。 ダイバーはロープをつなぎ、1人しか通れない穴から潜って作業をするので、2人一緒に潜ると作業やロープの取り回しが煩雑になり、逆に危険性が高まるのである。
ちなみに、今回の調査隊6名のメンバーのうち、ダイバーはデイルと私の2人だけ。 今日はこれといった潜水調査はせず、浮力の調整や機材の動作チェックをする“チェックダイブ”といった感じだ。
昨日までに準備しておいた潜水機材を再度丹念に確認し、スノーモービルの橇に積み込んでいった。 インナーのつなぎダウン、ダウンソックス、ドライスーツを着込み、すっかりモコモコで動きにくくなった体でスノーモービルに乗り込んだ。 ダイブホールまでは10分弱。 橇から機材が落ちないようにゆっくり進むと、より緊張感が増してきた。
ダイブホールに到着すると、すぐさま潜水準備に取りかかった。 機材が冷えすぎてはいけないからだ。 ダイブホールに張った厚さ5cmほどの氷をアイスチゼル(氷を砕く金属の棒)で割って氷を取り除き、束ねていた長さ70mのダイブロープを湖氷上に延ばした。
ロープの片方を氷上の通信機に繋げ、もう一方をまるでガスマスクのようなフルフェイスの潜水マスクに繋いだ。 フィン、ウェットフード、ウェットグローブ、ウェイト、BCジャケット(空気を出し入れして浮力を調節する機材)を装着し、エアタンクを担ぎ、マスクを顔に固定した。
マスクを付けたら最後、潜水が終わるまで取り外すことは出来ない。 マスクを外すと、呼吸で湿ったレギュレーター内の空気が凍り付き、レギュレーターが作動しなくなる。 つまりその日はそこで潜水終了となるのである。 さらに、マスクをつけたら即座に水中に入らなければならない。 マイナス16℃の外気に接していると、徐々にマスク内の水蒸気が凍るからだ。
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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