いつもならフレディとの夕方の散歩は
家人がすることになっている。
ところがその日は家人が所用で
留守にしていたため私が行くことになった。
「すっかり待たせちゃったね」
仕事が終わって散歩に出かけられたのが
夜8時を過ぎたくらい。
真っ暗だしお盆で人が少ないせいか
丘の上に行く途中の坂道で
人とすれ違うことは一度もなかった。
「なんかいつもと違ってちょっと寂しいね」
そうフレディに話しかけながら
丘の上の公園に続く大原隧道に入った途端、
ひんやりとした空気を感じて
なんとなく少し気味悪さを覚えた。
フレディを見るといつも通り尻尾を
ピンと立てていてなんか楽しそう。
「なんだ、心細くないのかい?
私はちょっと怖い。口笛でも吹くか」
私は”手のひらを太陽に”を吹きながら
しばらく行くと拍子木を叩くような
カチカチという奇妙な音が背後から聞こえてきた。
だれか後ろから歩いてきたのかと
立ち止まって振り返ってみたけれど
それらしい人影はなく音もしない。
空耳だろうと思って歩き出すと
またカチカチと音が聞こえる。
立ち止まって振り返る、音が止む。
「なんかちょっとヤバい雰囲気じゃん」
そう言いながら私の腕は鳥肌になっている。
フレディの尻尾はやっぱり
相変わらず楽しそうに立っている。
犬は人間ほど複雑な生き物じゃないから
霊の存在なんて感じないのかも。
私は平常心を装いつつも
内心ドキドキで足取りは自然と早くなる。
フレディはますます楽しそうに
私に歩調を合わせる。
すると拍子木の音も同じリズムで追ってくる。
「完全に追いかけられてるな!
フレディ、振り返らないで走るよ!」
肩から袈裟懸けにしているカバンが
揺れないように手で押さえて走り出した時に
やっとそのことに気づいた。
カバンの肩掛けベルトに巻いていた
犬用夜光ライトの金具とキーホルダーが
当たって音がしていたのだ。
だけどトンネルの中だったから
音が反響してどこから出ている音なのか
わからなかっただけだった。
「なんだよ〜フレディ、それ知ってたのなら
楽しそうになんかしてないで早く教えてよ〜!」
「ご主人様、あっしは人間ほど
複雑なイキモノじゃござんせんから」