題名にひかれた北極冒険記
「おー、簡単に死ねるな、こりゃあ」
ブリザートの中、完全装備で両足を踏ん張りながらテントの周りの雪かきをしている時、僕は急に死を身近に感じた。いや、北極であろうと東京のど真ん中であろうと、死はいつも僕たちのすぐそばに存在しているはずだが、日本にいてそれを感じることはあまりない。それどころか今の日本の社会では、死の影をことさら避ける風潮がないだろうか。誰も約束してくれているわけではないのに、当然明日はやって来るものと思ってみんな生きている。僕だってそうだ。人間は、死の匂いに触れた時に初めて、生をリアルな手触りのあるものとして大事に思うことができるのではないだろうか。
「北極には何もない。風景だって、毎日同じ空と氷の繰り返し。歩いている間は毎日クマにおびえ、熟睡もできない。しかしその分、本能を目覚めさせ、判断力、洞察力、行動力をフルに活用する。毎日ただひたすら歩き、テントを張って、飯を食い、寝て、起きて、また歩く。単調な毎日だが、生きているという実感がある。だから僕は北極へ行く」
僕は、今をたしかに生きているという手触りを感じたかったのだと思う。そんな渇望感を満たしてくれる存在が、今の僕にとって北極だった。
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