建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

生コン車争奪の戦い

2023-08-28 12:22:15 | 建設現場 安全

 八月  九日(水) 晴れ    

 朝一番、朝礼後にガーンと一発電話で冷水を浴びた。

「『ポンプ車の手配が付きません』との事です、所長、どうします?」 
とN子が取り付いだ。

「なにーッ!?どうもこうも俺はそんなヘマはしていない。俺が手配したのは、もう2週間前、
否この前4階のコンクリート打設時にもここで・・・そうこの場でポンプ工の松田さんと打ち合
わせをして、配車係と『予約確認OK』迄してたのに、何でだ!!」
と目の前はクラクラだ。

「松田さん、どうしていま頃、何言ってるの!(何をねぼけてんだ!?)」
「お盆前の時期はどこの現場も、打設してから休みに入ろうとしているので、ポンプ車が足ら
ないのです」
「そんな事はここ10年ちっとも変わっちゃいないのでしょ!私は前もって、ずーっと前から予
約をしていたし、4階のコンクリート打ちの時、ここでアナタと確認したでしょ!!」
「はい、覚えています。手帳にも書いてあります」
「じゃあ何とかしろヨ!ではなくて、決まっている事ですね!!」

「それが・・・」
「今更、理由を聞きたくもない。Kビルはいつも通りの『予定変更無し』だからね」
「所長の所は絶対に予定変更ありませんね?」
「俺が、直前になって割り込んだりズラした事あるのかね、前回のAマンション、ここのKビ
ルでもあったかね?」
「そうだよねえ……所長ン所は固い(動かない)からなあ・・・」

お盆前は余裕を持って11日にしたのだが、明日でも打てる。
とにかく今、ここへ来て各下請けへの予定変更が無理なのは目に見えているが、
「所長らしくもない」
 とこの際何と言われ様とも、盆前には打たねばクニへは帰れない。
何の為にこのクソ暑い中を、職人達が汗水流して頑張ったんだ。
型枠工事は今日残業すれば完了だ。

―――配筋検査もなしで明日朝一番からでも生コンの打ち込みは可能だ。
    最終チェックの一日
が、出たとこ勝負のコンクリートになるだけで、このフロアーは
    精度ぬきだ―――。

こう考えれば、突貫工事から比べれば、楽勝で打設可能だ。
しかし、横から自分の配下の現場のみ
を考えて割り込む神経でないと《権力のあるお方》
にはなれないのだろうか・・・

私は一所長でチームワーク楽しく建物を創って世に残して行きたい。
あと10年働いたとして15
棟も建物を創っていられない歳だ。
楽しい思い出で定年後には創った建物巡りをしてみたい。

「夕方にまた電話します・・・済みません」
「悪い知らせは待っていないからね!」
「はい、何とかします・・・」

 イライラするのはポンプ工に対してでなく、仲間内でこちらがケリ出される事だ。
(Kビルは工程があるので盆明けに廻しても間に合うから……)
なんて例え配下の現場に権力があろうとも一体何考えてンだと言いたいよ。
お互いに予定を組んで
『横の連絡、縦の報告』を行っているではないか。――――むッ!。

万一明日になってもと至急チェック体制に入って、5時半頃に事務所に戻った時はアワの
るモノが片手にヘバリ付いていた。
ふと電話の『デンゴンアリ』に目が行くと、
「ポンプ工の松田です。手配出来ました」
と留守番電話に入っていた。

これが逆目の伝言なら窓ガラスにガッチャーンとぶつけて、風通し良くなる所だった。

早速電話を入れた。
「松田さん、OKなんだね、それで明日かい?」
「いいえ、いいえ11日ですよ、打ち合わせ通りのね」
「11日なら、今日はもう残業止めても良くなったわけだね。有り難う

ここでアリガトウもないものだが、口癖か本音かは分からないけれど、つい答えていた。
場内スピーカーで作業員全員を打ち合わせ室へ呼出した。
待つ事3分。
机の上には冷たくてアワの出るモノをたくさん出しておいた。

「残業は中止だヨ。決めていた通りの11日でポンプ車もOKとなったヨ」
嬉しくて仕様がない私のサービスだ。
さあさあ道具片付けて、掃除は明日でもいいし、時間はタップ
リ有るのだから、もう今日は
御苦労様でした…だ。
明日に向けて頑張っていた感謝の意味で、
『一杯飲もう、少ないけど水よりはいいさ、さあ、皆で乾杯しよう』となった。

作業服を着替えた人、頭に水道の水をかけて体を冷やしている人、様々に帰る準備を
しなが
らチョット(つまみ飲み?)のビールは格別に美味(うま)いものだった。

設備工が一番ホッとしている。
夜通しかけて配管をしないと(間に合いそうにもない)と夜
食迄段取りに取り掛かっていた
のが、急遽(きゅうきょ)解散だ。
七時からなら何とか作業が出来るから……と三時頃に緊急集合をかけていたのが解除だ。
夕方、Kビルの応援に来た人の中には、ビールを飲みにだけ来た様になった人もいた。
(運のいい奴め!)

もう今日は朝っぱらから、午後、夕刻、夜と何だか騒々しくもあり、結果的には、
『楽しんだ一日』とでも言う事だろうか。
これだから、現場は生きている。
自分で『育てハグクム』様な『魂』が入って行く。
この気持ちを若者達に伝えて行くのが私の義務でもあると思うのだけれども―――。

M店舗の事は完全に忘れてしまって、今日は快い疲れを感じてグッドナイト・・・。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする