1月9日の日経新聞朝刊「鳩山政権の研究 政のような官のような 4」は「たそがれの技官」として、農水省の土地改良予算と技官の関係を紹介しています。
2010年度の(農水省)土地改良予算は09年度当初予算比で69%も減らされ、ほとんどの新規事業はなくなりました。民主党幹事長、小沢一郎氏の「あんなひどい予算はない。土地改良はいくらでも減らせるはずだ」との赤松農水大臣への指示がきっかけです。
この農水省土地改良予算と農水省の技官とはどのような関係があるのでしょうか。
『どの事業に予算を回すかの「個所づけ」に技官は深く関与して政治家と太い人脈を築き、各省で主流を占める法律系事務官の口出しを許さない「独立王国」を築いていた。
土地改良関係の予算は長らく1兆円超を確保してきた。』
技官は、有力な道路族や農水族議員の議員会館事務所や1日の大半を過ごします。適正な事業費の倍以上の予算が付いたことも珍しくなかったようです。
農水省の技官と農業土木の問題については、以前何らかの雑誌で読んだ記憶があるのですが、その出典を見つけ出すことができませんでした。ネットで調べた結果、以下のような状況が見えてきました。
「現代日本の官僚支配―「技官」の視点から考える」西川伸一 『QUEST』第22号(2002年11月)掲載
から抜粋してみます。
『キャリア官僚といえば、東大法学部卒の事務官をすぐに連想する。彼らは、ポストを2年周期で異動し出世の階段をかけ上っていく。頻繁に異動を繰り返しゼネラリストとして育てられる。ところが、実は数の上では技官の方が多数派である。 1996年度から5年間の省庁別採用状況を集計すると、防衛庁および外務省をのぞく1府10省庁で、キャリア事務官は1049名に対して、キャリア技官は1560名。「技官率」は約60%となる。とりわけ、国土交通省および農水省にはキャリア技官が多い。2000年度では、国交省で事務官33名に対して技官74名、農水省に至っては事務官11名に対して技官114名が高級公務員の卵として入省した。
もちろんキャリア技官の異動も激しいが、農水省ならばたとえば農業土木一筋、国土交通省ならば「川屋」(河川局)、「道屋」(道路局)と俗称されるように、それぞれの専門分野のなかでステップアップしていく。スペシャリストといってよい。』
『典型的な公共事業官庁といえば、国土交通省と農水省である。国土交通省は周知のとおり、建設省、運輸省、国土庁、そして北海道開発庁といういずれも「札付き」の公共事業官庁が統合されて生まれた巨大公共事業官庁である。農水省も農業土木省といってよいほど、農村版公共事業=土地改良事業を全国展開している。たとえば、諌早湾干拓事業は農水省による国営干拓事業である。』
『公共事業の主要分野である道路、治山、治水、農業基盤、港湾、下水道を「五族」とし、「協和」は「五族」が互いに配分シェアを侵食しないことを意味する。要するに、“族技官“がそれぞれ聖域=「技官王国」を築き上げ、公共事業分野の予算配分シェアの硬直化が続いてきた様をさしたものである。』
なぜ技官たちは聖域をつくり、それをかたくなに守ろうとするのか。
それは、同じ国家Ⅰ種公務員試験出身といっても、事務官と技官とでは役所での昇進に圧倒的な差があるからだそうです。採用時の人数比で、技官は55%と半分以上を占めますが、審議官級となると技官の占める割合は19%、局長級で13%、次官級で3%となり、技官出身では高級官僚となる道が閉ざされていることがわかります。
『それへの対抗手段として、技官たちはそれぞれの専門分野を「技官王国」とし、それに関する人事と予算を実質的に牛耳ってきた。事務官や他の「技官王国」からの口出しは許さない。旧運輸事務官OBは、運輸技官の牙城・港湾局との折衝の経験をこう語る。「たとえば港湾局は膨大な公共事業予算を持っているが、私たちが運輸省全体の予算不足を補うために“少しなんとかならないか“と持ちかけても絶対に応じてくれなかった」。』
自民党政権下では、このような技官王国による税金のムダ遣いにメスを入れることができませんでした。技官が自民党族議員と結託しているからです。
今回の政権交代で自民党族議員が全滅し、はじめて、農業土木のムダ遣いにメスが入ったということで、この点は慶賀の至りです。
2010年度の(農水省)土地改良予算は09年度当初予算比で69%も減らされ、ほとんどの新規事業はなくなりました。民主党幹事長、小沢一郎氏の「あんなひどい予算はない。土地改良はいくらでも減らせるはずだ」との赤松農水大臣への指示がきっかけです。
この農水省土地改良予算と農水省の技官とはどのような関係があるのでしょうか。
『どの事業に予算を回すかの「個所づけ」に技官は深く関与して政治家と太い人脈を築き、各省で主流を占める法律系事務官の口出しを許さない「独立王国」を築いていた。
土地改良関係の予算は長らく1兆円超を確保してきた。』
技官は、有力な道路族や農水族議員の議員会館事務所や1日の大半を過ごします。適正な事業費の倍以上の予算が付いたことも珍しくなかったようです。
農水省の技官と農業土木の問題については、以前何らかの雑誌で読んだ記憶があるのですが、その出典を見つけ出すことができませんでした。ネットで調べた結果、以下のような状況が見えてきました。
「現代日本の官僚支配―「技官」の視点から考える」西川伸一 『QUEST』第22号(2002年11月)掲載
から抜粋してみます。
『キャリア官僚といえば、東大法学部卒の事務官をすぐに連想する。彼らは、ポストを2年周期で異動し出世の階段をかけ上っていく。頻繁に異動を繰り返しゼネラリストとして育てられる。ところが、実は数の上では技官の方が多数派である。 1996年度から5年間の省庁別採用状況を集計すると、防衛庁および外務省をのぞく1府10省庁で、キャリア事務官は1049名に対して、キャリア技官は1560名。「技官率」は約60%となる。とりわけ、国土交通省および農水省にはキャリア技官が多い。2000年度では、国交省で事務官33名に対して技官74名、農水省に至っては事務官11名に対して技官114名が高級公務員の卵として入省した。
もちろんキャリア技官の異動も激しいが、農水省ならばたとえば農業土木一筋、国土交通省ならば「川屋」(河川局)、「道屋」(道路局)と俗称されるように、それぞれの専門分野のなかでステップアップしていく。スペシャリストといってよい。』
『典型的な公共事業官庁といえば、国土交通省と農水省である。国土交通省は周知のとおり、建設省、運輸省、国土庁、そして北海道開発庁といういずれも「札付き」の公共事業官庁が統合されて生まれた巨大公共事業官庁である。農水省も農業土木省といってよいほど、農村版公共事業=土地改良事業を全国展開している。たとえば、諌早湾干拓事業は農水省による国営干拓事業である。』
『公共事業の主要分野である道路、治山、治水、農業基盤、港湾、下水道を「五族」とし、「協和」は「五族」が互いに配分シェアを侵食しないことを意味する。要するに、“族技官“がそれぞれ聖域=「技官王国」を築き上げ、公共事業分野の予算配分シェアの硬直化が続いてきた様をさしたものである。』
なぜ技官たちは聖域をつくり、それをかたくなに守ろうとするのか。
それは、同じ国家Ⅰ種公務員試験出身といっても、事務官と技官とでは役所での昇進に圧倒的な差があるからだそうです。採用時の人数比で、技官は55%と半分以上を占めますが、審議官級となると技官の占める割合は19%、局長級で13%、次官級で3%となり、技官出身では高級官僚となる道が閉ざされていることがわかります。
『それへの対抗手段として、技官たちはそれぞれの専門分野を「技官王国」とし、それに関する人事と予算を実質的に牛耳ってきた。事務官や他の「技官王国」からの口出しは許さない。旧運輸事務官OBは、運輸技官の牙城・港湾局との折衝の経験をこう語る。「たとえば港湾局は膨大な公共事業予算を持っているが、私たちが運輸省全体の予算不足を補うために“少しなんとかならないか“と持ちかけても絶対に応じてくれなかった」。』
自民党政権下では、このような技官王国による税金のムダ遣いにメスを入れることができませんでした。技官が自民党族議員と結託しているからです。
今回の政権交代で自民党族議員が全滅し、はじめて、農業土木のムダ遣いにメスが入ったということで、この点は慶賀の至りです。