弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

事務所補助員問題と面接ガイドライン

2007-10-14 11:35:06 | 弁理士
特許事務所補助員の問題については、1年前の産業構造審議会知的財産政策部会で取り上げられ、昨年10月20日に開かれた第5回弁理士制度小委員会の配付資料では、
「弁理士は、特許庁と出願人との間に立って、権利取得手続等を迅速・円滑に行う役割を担うものであるが、弁理士が補助員に独占業務を実質的に行わせることについては、迅速な審査・事務処理の妨げとなることがあり、実際に審査の現場ではそのような実態が散見されることが指摘されている。また、特許事務所の弁理士1人あたりの特許出願件数(別紙1参照)をみても、最も多い事務所では、弁理士1人あたり453件という実態があり、また1人あたり200件以上という事務所も14事務所あり、これらの事務所においては補正書、意見書などの中間手続も考えると、実質的に補助員に代理業務を行わせていると考えざるを得ない状況にある。」
と論じられました。詳しくはこちら

弁理士制度小委員会の報告書では、補助員問題については、
(1) 特許庁審査官・審判官からの内容についての連絡応対は、弁理士のみができる。
(2) 面接において弁理士事務所の補助員は説明することができない。
(3) 弁理士法においても名義貸しの禁止規定を設ける。
とまとめられました。詳しくらこちら

以上のとおりですから、特許庁における面接で特許事務所の補助員が説明できなくなることは時間の問題でした。


今般、特許庁から面接ガイドライン【特許審査編】の改訂版が発表になりました。
この中で、
「代理人が代理している場合は、代理人と面接を行います。弁理士事務所員は同席できますが、審査官と直接的に意思疎通を図ることはできません。」
とされています。


弁理士試験の合格者数が、特に最近7年間ほど、非常に多い人数です。詳しくはこちら。この合格者たち(特に実務未経験者)が、特許事務所にスムーズに就職できないとして問題になっているようです。
私は問題にしていません。
特許事務所に最初に就職するときは、だれでも実務未経験者です。昔からそうです。昔は「実務未経験・無資格者」であったものが、「実務未経験・有資格者」に変わっただけです。資格の有無にかかわらず、従来通りに就職/採用すればいいだけだと思っています。
ただし、就職しようとする実務未経験弁理士は、有資格であることで有利になろうとしてはいけないでしょう。あくまで実務未経験であることを肝に銘じる必要があります。

ところで、特許事務所は、同じように実務未経験、同じように技術知識を有する求職者が現れたとき、無資格者と有資格者のいずれを採用するでしょうか。
単純に考えると、有資格者は法律知識を持っているわけですから、就職に有利であるように思います。一方、有資格者は、事務所が一所懸命教育して一人前に育て上げた後、独立してしまう可能性があります。それがために、かえって無資格者の方が就職に有利、ということもあるかもしれません。

そこで今回の面接ガイドラインです。
「補助員が面接で説明できない」というガイドラインは、「特許事務所での実質的実務は弁理士が行うべきである」という行政の意思表示です。私も、「明細書の執筆は当然に弁理士の仕事である」という方向に実務が進んでいくべきと思っています。
このように流れが変わった結果として、特許事務所も、無資格者よりも有資格者を優先して採用する傾向が生まれるのではないか、とひそかに期待しています。
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10 コメント

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Unknown (とおる)
2007-10-16 07:03:03
正論かもしれませんが、過渡期は大変だと思います。しかも、何年も過渡期が続くでしょうし。

特に、弁理士一人に付き十数人以上の特許技術者が居るような事務所では、面接や電話対応が実質的に不可能になるんじゃないでしょうか。

そうなると、弁理士名を名乗って実際は特許技術者が電話対応する事務所も現れるでしょうし、今度はそれが詐称事件として問題化する気もします。そこまで来てしまうと、本人確認の出来ない電話での審査官との実体的な審査に関するやりとりが禁止という事態に至る可能性もあります。

つまり、正論を突き詰めていくと、電話での審査官とのやりとりもダメな筈なんです。もともと、第三者が代理人に成り済まして審査情報を聞くことも可能であるという問題点がありますから。

審査経過情報や審査書類が早期に公開されるようになりましたから、重要な特許について関係者が代理人や出願人に成り済まして電話をすることによって、審査官から情報を引き出すことも可能です。

こうやって正論を突き詰めていくと、どんどん非効率的になっていくような気がします。
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面接ガイドライン改訂 (ボンゴレ)
2007-10-16 11:42:17
とおるさん、コメントありがとうございます。

実際、改訂された面接ガイドラインでは、大変なことになる事務所がでるのかもしれませんね。
しかし、こうなることがほぼ定まった1年前以降、それほど大騒ぎしている、あるいは弁理士制度小委員会の中で「待ってくれ」と泣きが入ったような話は伝え聞いていないのですよね。どんな状況だったのでしょうか。

ところで、第三者がIPDLで拒絶理由通知などを閲覧し、代理人になりすまして審査官に電話質問する、ということはあり得ますね。この問題は面接ガイドライン改訂とは関係有りませんが。
今後問題が顕在化していくことがあるのでしょうか。
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Unknown (とおる)
2007-10-16 17:35:33
産業構造審議会知的財産政策部会弁理士制度小委員会報告書案に対して、泣きに類する意見は個人レベルで幾つか寄せられているようです。

ただし、正論なので公には反対し難いので目立たないのと、実務上、骨抜きになるだろうという楽観視が背景にあると思います。

今後、仮に特許庁側が厳格に運用するようなことがあると、その時点で困るという声が出てくるのではないでしょうか。

もう一つの第三者の成りすましの件はあくまでも可能性としての話です。ひょっとすると現に起きているかもしれませんが、仮に起きていても、なかなか発覚し難いと思います。

出願人・代理人または審査官が気付かないと問題は顕在化しませんが、同じ出願について真正の出願人・代理人の問い合わせと偽者の問い合わせとが二重に起きたとか、そう言ったことが無いと気付けないんじゃないでしょうか。

そう考えると、露見し難いという意味でなおさら、電話による口頭での未公開情報のやりとりは問題ありかもしれません。

新薬関連の特許の成立可否のように、経済的利益が大きいものについては、事前に知りたいと思う人が業界内外に居ても不思議ではないですしね。
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Unknown (技術者A)
2007-10-17 16:21:10
いつも楽しく、かつ有益に読ませてもらってます。
今回の記事について思いつくままの感想です。ご容赦ください。

会社が出願人の場合、審査官と面接するためには、代理人弁理士が必要です。出願人は会社なので、審査官は会社の代表機関(社長)には会うが、特許部長が来ても会わないそうです。特許部長は代理人相当となり、代理人は弁理士でなければいけないというのが理由です。知財協でも問題になったと聞きます。特許部長の方が、社長より技術内容に明るいとしても、その者と面接しない。会社自体が出願人なのですから、会社の特許部長などと面接する方が適当だと思うのですが。(会社法では、支配人にも会社の訴訟を担当する能力が認められていると思います。弁護士代理は原則ですが、例外もあるようです。)審査官は、会社の特許部員とも口を聞かないことがあるようです。ある特許部員が、面接で審査官の意見に反論したら、以後、審査官は、特許部員に対して口を開かなかったという話を、特許部員本人から聞いたことがあります。極端な例なのでしょうか。今度は、同席していても事務所員とは口をきかないということですが、なんだか、「お上」という言葉を思い出します。

特許庁の狙いは何なのでしょうか。弁理士が直接に仕事をするように仕向けていくつもりなのでしょうか。事務所員がいないと仕事ができない弁理士(事務所)を淘汰させるつもりなのでしょうか。しかし、弁理士は、たとえある技術分野には明るくても、ほかの技術分野には明るくないことが通常です。出願した技術に明るい者が、弁理士とともに、直接、審査官に説明すればよいのではないでしょうか。審査官は特許技術をきちんと理解したいと考えているのでしょうか。如何なる者の意見であろうが、技術内容をきちんと理解するよう努めることは、公的存在である審査官の義務であり、弁理士としか話をしないというのは、ちょっと誤った(思い上がった)方法だと思います。

弁理士の数が増えた弊害が出てきたのでしょうか。就職できない弁理士が増えてきたので、特許庁が対策に乗り出してきたのでしょうか。弁理士会から要望があったのでしょうか。これまでの事務所形態(少数の弁理士+多数の事務員)で暴利を貪る弁理士を淘汰させ、各弁理士が自分でできる範囲の仕事をこなす形態に移行させたいのでしょうね。それでも大手の事務所は拡大路線にあり、個人事務所は疲れているようにも見えます。増加した個人弁理士たちが、大手事務所に反乱しているふうにも見えます。しかし、弁理士個人単位で活動するのであれば、消費者(出願人)保護の観点から、引き受ける技術分野を限定することも視野に入れなければならないのではないでしょうか。弁理士は、知らない技術分野でも、「できます」という態度を改めなければなりません。また、こそっと外注したり、事務所員にやらせて、面接には自分が行くということをやってはいけません。庁の趣旨に反します。理解への努力が足りない審査官と、理解の足りない弁理士が、出願人の利益を損なわないことを祈るばかりです。

最後に質問ですが、このガイドラインは、庁による内規であり、内規による審査官への拘束ということなのでしょうか。審査官は、事務所員と直接話すと内規違反で処分となるのでしょうか。審査基準に法的効力が無いように、内規には外部に対する効力は無いと思います。行政法上、このような内規により、最終的に一般人の権利を制限するやり方はどうなのでしょうか。とにかく、なんだかなーという気分です。時間があれば、ご意見をお聞かせください。
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Unknown (とおる)
2007-10-17 17:49:23
>技術者Aさん

私も既にレスしているので、横レスしますが、面接ガイドラインでは、出願人企業の従業者は必要に応じて、面接や電話での応答が出来ることになっていますので、最初の部分で書かれてる心配は無用だと思います。

また、上のほうで出されている事例は、少し特殊なような気がしますので、一般的なものと思うと話がおかしくなると思います。正直なところ、面接等で同席している知財部員が発言を許されなかったというケースはあまり聞いたことがありません。

最期に、質問に関してですが、特許法に従がう限り、出願に関する実体的なやり取りを出来るのは、出願人本人と代理人だけです。したがって、ガイドラインには法的効力が無くても、特許法に規定があるので、無効になりません。

厳密に言うと、「一般人の権利」はありません。
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面接での知財部員の扱い (ボンゴレ)
2007-10-17 17:58:54
技術者Aさん、コメントありがとうございます。

改訂版の面接ガイドラインを見ると、「出願人本人以外の知財部員等については、同席して審査官と直接的に意思疎通を図ることが可能です」とあります。代理人が代理している場合もしていない場合も共通です。

従来のガイドラインでも同じだったと思うのですが、「特許部員と口をきかない審査官」というのは、何を根拠にしたのでしょうかね。

私が過去に経験した面接でも、「特許部員とは本当は意思疎通しないのですが」といわれたことはありません。


弁理士と補助者との関係でいえば、弁理士は、面接で自分が応対できないような技術分野について受任すべきでないし、通常であれば十分に対応できるはずと思います。

特許庁としては、弁理士試験をこれだけ易化してるのだから、補助員といわれる人たちは受験して資格を獲得しなさい、ということだと私は理解しています。
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Unknown (技術者A)
2007-10-17 20:06:45
とおる様、ボンゴレ様
ご回答ありがとうございます。
ところで、出願人(会社=本人)を代表して、知財部員は、弁理士抜きで審査官と面接できるのですか?知財部長クラスでは?
また、弁理士がいるときに、補助者が技術内容を審査官に説明できないなんて、素直に考えて、ちょっと奇妙な感じですが、そういうふうには思いませんか?出願人の利益を確保できれば良いと思うのですが。
さらに、弁理士の取り扱い技術分野を限定することには反対ですか?



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ガイドラインの変遷 (ボンゴレ)
2007-10-18 18:22:01
《改訂ガイドライン》
代理人が代理しているときに、代理人抜きで面接が行えるか、ということですね。
ガイドラインによると、「やむを得ない事情があるといは、出願人本人や知財部員が面接できる」とありますね。
知財部員か知財部長かによって扱いに違いはないと思うのですが、ガイドライン上は「責任ある応対をなし得る知財部員等」に該当するか否かによります。
補助者による技術説明の可否ですが、出願人の一機関と考えられる知財部員(所定の代理権を有していると考えられる)、代理権を有する弁理士と異なり、特許事務所の補助者は代理権を有しない他人であることから、扱いに差が生じたと思います。出願人の利益云々より建前から来ているでしょうね。
弁理士の取り扱い技術分野については、現在でも実態として限定されていると理解しています。私のところにも、得意でない技術分野についての注文は来ません。

《従来のガイドライン》
従来の面接ガイドラインを探したのですが見つからず、平成6年改正法の解説書でやっと見つけました。
技術者Aさんがおっしゃるように、知財部員は出頭者として認められているとは言えませんでした。
「出頭者には、①出願等の手続についての知識を有し、②当該出願に係る発明についての技術的知識を有し、かつ,③当該出願の処分についての出願人の意思を的確に表示できる者であることが求められる」とした上で、
代理権を有する弁理士以外では、委任状を持参する当該法人の特許部員等が考えられるが、①~③の要件を満たさない者は出頭者となることはできない、としています。
審査官が出頭した知財部員の態度を見て、「この人は出頭者の要件を満たしていない」と判断したら、その人を相手にしない、ということはあり得たかも知れません。

なお、改訂ガイドラインでは、知財部員は委任状の持参を義務づけられていません。名刺でOKです。
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おどろき (とおりすがり)
2007-10-21 22:45:19
技術を知らない弁理士が仕事を請け負って
「弁理士は、たとえある技術分野には明るくても、
ほかの技術分野には明るくないことが通常です。
出願した技術に明るい者が、弁理士とともに、直接、審査官に説明すればよいのではないでしょうか」
なんてことを言ってる時点で弁理士として終わってる

形成外科の医者が虫垂炎の急患を平気で請け負って
虫垂炎の患者の処置を補助した看護士にまかせっきりにしてるようなもの。
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Unknown (技術者A)
2007-10-22 17:56:48
ボンゴレ様
いつも丁寧なご説明ありがとうございます。お仕事の時間をさいて申し訳なく思います。特許庁に限らないと思いますが、行政庁はガイドラインと称して出願人の既得利益を反故にすることはありませんか(逆のこともあると思いますが)。また、解釈の変更を行い、以後それを運用するということもあると思います。弁理士ご自身の観点から、さらに出願人の観点からのチェックを期待しております。お騒がせしました。

おどろき(とおりすがり)様
弁理士の技術的バックグラウンド(文系から理系各専攻まで)及びそのレベル(大卒から博士まで、営業経験者から研究者まで)は実に様々だと思います。この辺りが弁理士の不思議なところだと思います。一方、医者は、少なくとも業務上必要な課目(脳外科から内科や薬理まで)は一応全て習得しています。バックグラウンドとレベルが比較的均一だと思います。弁理士は、知的財産法に関して均一な知識を習得していると思いますが、技術的知識あるいは一般法的知識に関しては正に玉石混淆状態だと思います。したがって技術的な意味で補助者がいてもいいのかなと思います。補助者といっても、特定分野の技術知識に関しては高い(企業技術者・研究者出身など)と推察します。あえて例えるならば、医者が放射線技師や病理研究者に一定の仕事を任せるようなものだと思います。最終責任は医師であり弁理士だと思います。なお、看護師は、専門知識が医者の領域と重なり、そのレベルが違うものだと思いますので、医者の仕事を看護婦に任せることはできませんが、重なりがある範囲で投薬や検査は医師の監督下に行うものと思います。蛇足ですが、弁理士試験の変化により、現在の弁理士は、これまでのいわゆる特許技術者になって、増加した弁護士がこれまでの弁理士の仕事に進出するようになって来るでしょうか。
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