弁理士の日々

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生海苔異物除去装置事件

2007-04-22 20:33:14 | 知的財産権
「生海苔の異物分離除去装置事件」といえば、均等が認められた特許権侵害訴訟事件(東京地裁 平成10(ワ)11453、東京高裁 平成12(ネ)2147)として有名です。

この生海苔の異物分離除去装置特許(特許2662538)(請求項1~4)については、上記侵害事件の被告会社(フルタ電機)が無効審判を7回も請求し、請求棄却審決に対しては審決取消訴訟を提起し、争ってきました。5回目までは、いずれも審判請求が退けられてきました。
ところが6回目の無効審判(請求項1に対する)(無効2003-35247)で、審判段階では従来通り請求棄却審決を受けたのですが、審決取消訴訟を提起し、とうとうその訴訟(平成16(行ケ)214)で審決取消判決が下ったのです。判決は確定し、再度の審決で請求項1が無効とされました。ここまでは以前報告したとおりです。最終的に請求項1の無効が確定しました。

この特許、請求項1、2が1段の異物除去装置であり、請求項3、4が2段の異物除去装置です。おそらく、競合会社にとっては請求項1、2が邪魔なのでしょう。

そして、競合会社のフルタ電機は、請求項1を無効にしたあと、請求項2についても無効審判を請求したのでした(無効2005-80132)。特許庁は請求項2を無効とする審決を出します(昨年8月8日送達)。そしてそれに対して特許権者は、審決取消請求(平成18年(行ケ)10392)を起こしていました。
判決はまだ先だろうと思っていたのですが、検索しところ、今年の3月28日に判決が下っていたのですね。請求棄却、つまり請求項2を無効とする審決が維持されました。判決はこちら(裁判所ホームページ)です。

請求項1、2は以下のとおりです。
【請求項1】 筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し、この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし、この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とする生海苔の異物分離除去装置。
【請求項2】 前記第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従って下がり傾斜にしたことを特徴とする請求項1の生海苔の異物分離除去装置。

請求項1、2とも、進歩性を否定する主引例である刊行物1(特開昭51-82458)は、パルプ等の繊維懸濁液から夾雑物を分離する篩い分け装置に関するものです。
私は前報で、請求項1についての審決取消判決は、刊行物1の技術的事項について認定を誤ったのではないかとの意見を述べました。

パルプ繊維懸濁液においては、小さな繊維が固まってフロックを形成し、このままでは狭い隙間を通過できません。刊行物1の装置では、攪拌エネルギーによってフロックを崩壊し、スリットを通過させます。繊維懸濁液において、個々の繊維の大きさは、スリットの寸法よりも小さいのではないか。そして、生海苔については、たとえそれを細かく切断するにしても、膜状の生海苔を広げたときの寸法はスリットの寸法よりも大きいのではないか。
スリットの寸法よりも小さい繊維が通過できる点が刊行物1に記載されているからといって、スリットの寸法よりも大きい生海苔が通過できるとは、生海苔の当業者が容易に想到し得るとは思えません。
速度差を有するスリットを用いる技術思想が相違します。刊行物1では凝集フロックを崩壊させてスリットよりも小さい個々の繊維に分解することが技術思想の中核であるのに対し、本件発明は、スリットよりも大きい膜状の生海苔を通過させることが技術思想の中核です。

しかし、請求項2についての審決取消訴訟でも、原告側は上記私の意見のような主張は行わなかった模様です。
判決文に書かれた原告の主張では、請求項2に付加された特徴である「下がり傾斜」による進歩性のみを主張しているようです。
当業者が観察したとき、技術の本質は、私が想像するようなものではなく、知財高裁が認定したとおりだったということでしょうか。

そして裁判所(飯村敏明裁判長)は、請求項1についての判決と同様、生海苔混合液の攪拌によってスリットの目詰まりを防止しようとする技術(請求項1裁判での甲3の2公報)が知られていることから、
「「生海苔混合液中の細かく切断された生海苔が狭いスリットを通過し得ること」は,本件出願時に,周知の技術事項であり(例えば,甲3,43),パルプ等の繊維懸濁液と生海苔混合液とは,繊維又は生海苔が狭いスリット(間隙)を通過し得るという点において相違はないから,当業者であれば,引用例の異物除去装置の実効間隙を,通過させるべき生海苔の大きさに合わせて設定することにより,引用例の異物除去装置を「生海苔の混合液」に使用することは,容易に想到し得たものと認められる。」
と認定しました。

原告が反論しない以上、当然の帰結かも知れません。
請求項2についての審決取消訴訟は、審理期間が半年程度、判決文が14ページと、非常にあっさりとしたものでした。

私の想像では、生海苔の異物除去装置において、環状枠板部と第一回転板とをわずかなクリアランスで配置し、生海苔懸濁液をこのクリアランスから通過させようとしたとき、回転板を回転させなかったら、たとえ生海苔懸濁液に他の手段で攪拌を与えたとしても、生海苔はクリアランスに引っかかって詰まってしまうのではないかと思っています。そして、回転板の回転を開始したとたんに、生海苔はクリアランスを通過していくのではと。

もし私の想像通りだとしたら、そのような実験を行ってビデオで説明することにより、裁判所を納得させることはできたはずです。
それを行わなかったということは、やはり私の想像が間違っていたということでしょうか。

ところで、請求項2についての特許庁の審決では、「請求項1についての審決取消訴訟の確定判決の拘束力に従った」としているようですね。これに対し裁判所は、
「本件発明(請求項2)とは異なる請求項1に係る特許についての審決を不服とした別件取消訴訟の取消判決(確定判決)における理由中の判断が,本件発明の特許の無効審判をする審判官(特許庁)を拘束するいわれはないので,本件審決の上記説示部分は,行政事件訴訟法33条についての誤った理解に基づくものであって相当ではない。ただし,この点は,審決の結論を左右するものではない。」
と判示しています。
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