弁理士の日々

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マークボウデン著「ブラックホークダウン」(2)

2013-07-12 20:10:45 | 歴史・社会
前回に引き続き、マークボウデン著「ブラックホークダウン」の2回目です。
ブラックホーク・ダウン〈下〉―アメリカ最強特殊部隊の戦闘記録 (ハヤカワ文庫NF)
マーク ボウデン
早川書房

この作戦、全体としてみると、アメリカは大きな勘違いをしているし、アメリカの身勝手がその根底に見えます。
国連は、ソマリア人の飢餓を救うために来ているのであるし、米軍も同じ趣旨で駐留しているはずです。あくまでソマリア人のためであって、ソマリア人・ソマリア政府は敵ではありません。
そのソマリアが内戦状態にあり、最大勢力のアイディド派が国連や米軍に敵対してはいました。しかし、ソマリア政府の了解もなく、白昼に首都のど真ん中に乗り込んで武力でアイディド派幹部の拘束を計るというのはどうでしょうか。そもそも首都に住むソマリア人は親米ではなく、米軍を嫌っているのですから、迅速な撤収に失敗したら、本来は敵ではないモガディッシュ市民を殺戮しつつ撤退せざるを得ないことになります。
迅速な撤収に失敗し、大勢の市民(一部は武装)に取り囲まれたとき、米軍が降伏して捕虜となる覚悟があるのであれば、まだわかります。大勢の市民が暮らす首都の中心に乗り込むのですから、市民の犠牲を少なくするためには捕虜になる覚悟も必要でしょう。しかし米軍は、捕虜になる気など毛頭ありませんでした。
白昼にヘリコプターを飛ばしたら、地上からのロケット砲攻撃で撃墜される可能性があることを、部隊ではうすうす感づいていました。しかし司令部は危機意識に薄く、従来と同様の作戦計画を実行してしまいました。さらには、もしヘリコプターが撃墜されたら全力で搭乗員の救助に向かう、という方針も堅持しています。実際には2機のブラックホークが撃墜されました。現地部隊は第1のヘリ墜落地点に急行し、その場で完全に足止めされました。夜明け前にパキスタン軍戦車とマレーシア軍の装甲兵員輸送車を動員し、ほうほうの体で米軍基地に帰り着きますが、米軍側は総勢99人のうち19人が戦死しました。そして、この戦闘で米軍が殺害したソマリア人は500人を超えるだろうということです。500人の中には、非武装の市民、女性、子供も多く含まれるようです。
冷静に考えたら、ソマリア人を500人も殺害したことが正当化できるとはとても思えません。他国の首都に勝手に武力で乗り込んでおいて、たまたまヘリが撃墜されて現地に踏みとどまったわけです。怒れる数千人のソマリア人に取り囲まれたからといって、その市民達を殺害しつつ自軍基地に逃れる権利などないと思われます。

米軍は、ヘリの墜落に備え、救護要員と戦闘要員を乗せた救援へりを1機だけ用意していました。1機目のヘリ墜落に対応し、救援ヘリが急行し、墜落現場に救護要員と戦闘要員をロープ降下させました。また地上にいたレインジャー部隊とデルタフォースも1機目の墜落現場に駆けつけました。
一方、2機目に墜落したヘリに関しては、もう救援ヘリはありません。また、地上部隊も2機目の墜落現場には到達できませんでした。2機目墜落現場に派遣できる唯一の戦闘要員、それは上空で飛ぶヘリに搭乗していた2名のデルタフォース、ゲイリー・ゴードンとランディ・シュガートでした。墜落ヘリに向けては無数の武装した群衆が殺到していることを知りながら、この2名は従容としてロープ降下し、墜落現場に向かいました。
結局、2機目墜落ヘリに関しては、負傷した操縦士1名を除き、救援に向かった2名のデルタを含めて全員が死亡しました。

このモガディッシュ戦闘に関して我々が知っている唯一の事象は、戦死した米兵の死体を民衆が引き回し、その映像が全世界に流れたことです。その死体は2機目墜落ヘリの搭乗員でした。また、2機目墜落ヘリで負傷した操縦士は捕虜となり、これも映像が全世界に流れました。西側、特にアメリカでは、これら映像が強烈な印象として残りました。

当時のクリントン大統領は、この戦闘、特にアメリカの若者の死体が引き回される映像が流れたことに影響され、ソマリアからの引き揚げを決定しました。米軍が撤退したことで国連の活動も制限され、ソマリアの無政府状態が改善されることはありませんでした。モガディッシュの戦闘は、アメリカにとっても国連にとってもソマリア人にとっても不幸なできごとでした。

アメリカのアクション映画を見ていると、主人公と大勢の敵が戦闘する際、主人公には敵の弾丸が当たりませんが、主人公が撃つ弾はことごとく敵を倒していきます。「現実にこんなことが起きるはずがない」と今までは思っていましたが、こちらがデルタフォース、敵が武装した民衆や民兵であるような場合には、実際に起こるのですね。それほどに、デルタフォースと素人戦闘員との戦闘能力の差は歴然としています。双方の武器が小火器のみであっても。

著者のマーク・ボウデンが戦闘から3年後にこの戦闘について執筆しようと考えた当初、戦闘詳報は当然ながらすでにまとまっていると思っていました。ところが、大部の報告書などどこにもなかったのです。アメリカ人は、「一体何でこんなことになったのか」と徹底追求する人種だと思っていました。真珠湾攻撃の後がそうでした。ところが、モガディッシュの戦闘に関してのみは、その詳細を明らかにしようとする動きがなかったのです。
ボウデンの取材に対し、戦闘に参加した米兵(元米兵)は進んで取材に応じました。またボウデンはモガディッシュに出かけ、当日アメリカ軍兵士と闘った人々にインタビューも行いました。その膨大な取材結果からこの本が生まれたのです。
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2 コメント

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嫌われる理由 (とら猫イーチ)
2013-07-13 09:49:57
 米国は、建国史からして原住民殺戮の歴史ですからね。 米国人自身が、当初は、欧州からの脱出組のくせに、支配的民族アングロ・サクソンの自負心を今に至るまで引き継ぎ、他民族に対して優越心を持っていますので、他国に居るテロリスト(?)と名指しされた人物を、当該国政府に無断で暗殺したりして恥じない国です。
 ベトナム戦争中も、この国の兵士は、ベトナム人を犬猫以下に取り扱い、解放戦線兵士を装甲車に繋いで、引き摺り殺したり、無闇に撃ち殺すのを何んとも思わない人間でした。 第二次大戦でも、日本人とドイツ人に対しては、明確に差のある取り扱いをしました。 自国民に為っている人間を、出身が日本だからと云う理由で、収容所に強制的に入れたのですから。 
 時代とともに、彼らの意識にも変化はあるでしょうが、日本に来られた米国人を観る限りでは、殆ど(例外はあります)が、大国意識丸出しで、判断基準が全て自国中心です。 英語国民でも、豪州や英国からの人は、違いますが。 何がそうさせるのか、私には、良く分かりませんが、世界で嫌われるのも分かるような気がします。   今、この国が国粋的な世情になっているのも、戦後に継続した米国支配への鬱屈した反発が積み重なった結果なのでしょう。 やがては、イスラエル等一部の国を除き、その世界支配に終止符を打つ時期が来るのでしょう
が、その時が来ても、米国と米国人は、自身の嫌われる理由が分からないでしょう。
アメリカ人って (Snaito)
2013-07-17 04:57:12
アメリカ人(アメリカという国)は基本、本当にいいやつなんだけど、ときどき勘違いするくせに自分はいつも正しいと思い込んでいるからしまつに悪いです。オマケにケンカになるとめっぽう強いので余計困ります。

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