弁理士の日々

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特許庁システム開発で何が起こったのか

2013-01-08 20:43:52 | 知的財産権
<特許庁>新システム開発頓挫 東芝子会社と契約打ち切りへ
毎日新聞 1月5日(土)15時5分配信
『特許庁は、特許や商標の出願情報を処理する新システムの現行の開発計画を断念した。受注した東芝子会社の作業が遅れ、続行は不可能と判断した。近く契約を打ち切り、入札をやり直す。開発にはコンサルタント会社分も含め50億円超を支出しており、同庁は返還を求める方向で検討する。審査業務の迅速化につながる新システム導入が遅れる恐れもあり、専門家からは「日本の知的財産戦略に影響が出かねない」との声が上がっている。・・・・・
並行して、2月にも新基幹システムの開発計画を作り直し、業者選定に入る。ただ、完成は22年以降にずれ込む見通しで、今後10年前後は現行システムを改修しながらの運用を強いられる。新システムの導入を前提に計画されていた出願業務迅速化や特許、商標登録の多様化などのサービス拡充策に影響が出る可能性もある。』

一体何が起こっているのかと調べてみたら、この問題は1年前からすでに開発中止が決まっていたのですね。以下の記事が最も詳細に事件を追っていました。
55億円無駄に、特許庁の失敗 2012/12/10 出典:日経コンピュータ 2012年7月19日号
《2004年、特許審査や原本保管といった業務を支援する基幹系システムの全面刷新を計画》
従来の政府のシステムは、構築とメンテに膨大なコストがかかっていました。これを低コストのシステムに入れ替えようという考え方のようです。
特許庁の情報システム部門担当者(以下A職員)が調達仕様書を作成しました。
『業務プロセスを大幅に見直し、2年かかっていた特許審査を半分の1年で完了することを目指した。度重なる改修によって複雑に入り組んだ記録原本データベース(DB)の一元化に加え、検索や格納などの基盤機能と法改正の影響を受けやすい業務機能を分離し、保守性を高めるという野心的な目標を立てた。一方で、全ての情報をXMLで管理するなど技術的難度が高く、十分な性能を出せないなどのリスクを抱えていた。』
ところが、仕様書の骨格が固まった2005年7月、A職員は異動となりプロジェクトを離れたのです。「役人の2~3年ローテーション制度」の弊害によるのでしょうか。

《2006年7月に入札を実施》
○ 一般競争入札
○ 大規模プロジェクトについては分割発注を原則
一般競争入札の恐ろしさ、それは、“安い入札価格の業者が本当に実力を有しているか”の判断を、利用者側が下さなければならないことです。正しい判断を行うためには、利用者側がシステムに精通している必要があります。
『落札したのは東芝ソリューションだった。技術点では最低だったが、入札価格は予定価格の6割以下の99億2500万円。これが決め手となった。』

《2006年12月プロジェクト開始開始》
『特許庁は東芝ソリューションにこんな提案をしたという。
 「現行業務の延長でシステムを開発してほしい」。
業務プロセス改革(BPR)を前提にシステムを刷新するのではなく、現行システムに機能を追加する形でシステムを開発しようというわけだ。』
恐ろしいことです。
プレーヤーは3者です。
①ユーザーの利用部門
②ユーザーのシステム部門
③システムベンダー(東芝ソリューション)
システム設計方針の大幅変更が、システム開発にどのような影響を及ぼすのか、しかるべき部署がきちんと評価する必要があります。しかし①が方針変更の要求を出し、それに対して②が待ったをかけられませんでした。③は言われたとおりに進めるしかありません。
東芝ソリューション(東ソル)は、現行の業務フローを文書化するため、2007年5月までに450人体制に増強しますが現行業務の把握に手間取りました。遅れを取り戻すため、2008年には1100~1300人体制にまで増員しましたが、さらなる混乱をもたらしました。ただただ、現行業務について聞き取った結果を書き写した書類が積み上がるばかりです。

《2009年4月、A職員プロジェクト復帰》
プロジェクトの仕切り直しを図り、開発範囲を当初の仕様書ベースに戻すことにしました。
『とはいえ本格的にプロジェクトを立て直すには、現行システムを担当するNTTデータの参画が必要なのは明らかだった。分割発注に基づくアプリケーション開発をNTTデータが落札すれば、現行業務の把握など懸念のいくつかを解消できると見込んだ。』

《2010年6月、NTTデータ等が特許庁職員にタクシー券などの利益供与をしたことが明らかに》
NTTデータ社員と特許庁の職員は逮捕されました。A職員も入札前の情報を東芝ソリューションに提供していた事実が認められ、プロジェクトを再び離れました。NTTデータには6カ月の指名停止処分が下りました。
万事休すです。

《2011年頃、プロジェクトはほとんど「開店休業」》
プロジェクトの破綻は明らかでしたが「開発中止」を認定・判断するプロセスがなかったのです。
『苦肉の策として持ち出されたのが、贈収賄事件を機に2010年6月に発足した調査委員会だった。同委員会をベースとした技術検証委員会は2012年1月に「開発終了時期が見通せない」とする報告書を公開。この報告書を根拠に、枝野幸男経済産業大臣がプロジェクトの中止を表明した。プロジェクト開始から5年が経過していた。』
(以上)

私が最も関係している省庁で、このようなことが起きていたのですね。
失敗の経緯をたどってみると、大規模システム開発で陥りやすい罠にすっぽりとはまっていることがわかります。
ニュースでは、「開発に失敗した東芝ソリューションが悪い」ということで烙印が押されているようです。東ソルに問題があるのはもちろんですが、もっと大きな問題があります。

1.競争入札でシステムベンダーを選定する際、ベンダーの実力が不明な中、一番安い見積もりベンダーに落札していいのかどうか、発注側が最も悩むところです。今回はまずそこで失敗がありました。
2.基幹業務システムを構築する際、システム設計では利用部門とシステム部門が相談して仕様を決めます。利用部門はシステムについて素人ですから、「今やっている業務をベースにしてもっと便利に」としか提案しません。それを鵜呑みにしてシステム設計したら、膨大な冗長システムができあがってしまいます。あくまで、業務改革とベアでシステム設計すべきです。今回も当初はそのような方針でしたが、途中で利用部門の声に押されて「現行業務ベース」に変更になってしまいました。
3.私も製鉄所の現場でエンジニアとして働いていたとき、職場のシステム更新の仕事を横目で見ていました。利用部門にもシステム担当者がおりましたが、長いことシステム専任でした。そうしないと使えるシステムは作れないからでしょう。それに対して特許庁は、システム担当者を異動させてしまいました。
4.悪いことに贈収賄事件が勃発し、頼みとしていたNTTデータの参画が不可能になると共に、A職員が再度離脱しました。

私も、特許庁のシステム更新の影響を垣間見たことがあります。2009年8月のことです。「審判請求費用」で記事にしました。
査定不服審判と同時に手続補正書を提出して請求項の数を減らした場合、予納口座から減らす前の請求項数で費用が引かれ、その後に納付過剰の金額が「過誤納」として戻されるという現象が起きていたのです。
特許庁に電話で問い合わせた結果、“現在の特許庁のシステムが、今回の法改正に対応し切れていない”、という実態がわかりました。
そのときの話では特許庁のシステムが今回の法改正に対応する予定はまだ立っていないようでした。「最悪では2013年のシステム更新まで現状のままかもしれません。」との認識でした。
新システムの稼働予定時期は、当初11年1月、それが12年1月、14年1月、17年1月と繰り返し延期になったようです。
私が上記記事を書いた2009年というと、A職員が復帰して立て直しを図っていた最中だったのですね。

ところで最近私は、審判請求時に請求項数を減らしての査定不服審判をかけていません。現在、「過誤納」の問題は、現行システムの修正で解決しているのでしょうか。それとも、次のシステム更新が予定される2022年まで修正されないままなのでしょうか。
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