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米海軍がタッチスクリーン式操作盤を廃止

2019-09-01 15:02:48 | 歴史・社会
米海軍がミサイル駆逐艦のタッチスクリーンを廃止、その理由とは?
2019年08月13日 11時15分
『10人の死者を出したミサイル駆逐艦の衝突事故に関して、(PDFファイル)事故報告書で船が採用していた「タッチスクリーンのシステム」が事故原因の1つであると指摘されました。これを受けて、アメリカ海軍では複雑なタッチスクリーンのシステムを廃止し、機械的な操作に戻すことが発表されました。
2017年8月21日、シンガポール沖でミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」とタンカーが衝突して損傷し、乗組員10人が死亡、48人が負傷しました。
この事故の原因として船員の疲労や訓練が不十分だったことが挙げられていますが、同時に、船の操作盤にも問題があったと指摘されています。ジョン・S・マケインの艦橋では、ヘルムとリーヘルムという2つのステーションの操作盤で複雑なタッチスクリーンシステムを採用していました。調査の結果、当時のジョン・S・マケインでは「バックアップマニュアルモード」という、コンピューター補助をオフにするモードが使用されていました。これはつまりステーションの異なる船員が操舵を引き継げることを意味し、2つのステーションで操舵が移り変わり混乱を招いたことで、事故が起こったとみられています。
・・・
ガリニス提督はシステムを切り替える計画が進行中であることを発表しており、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦は2020年夏から物理的なスロットルを持つとのこと。
なお、ジョン・S・マケインの原因はタッチスクリーンだけではなく、14人の乗組員の平均睡眠時間が4.9時間だったこと、それぞれの役割に不慣れだったことも指摘されており、これらのレポートでは問題を改善する必要性も示されました。』

米海軍のイージス駆逐艦であるジョン・S・マケインが起こした衝突事故も、同じイージス駆逐艦フィッツジェラルドの衝突事故と同様、操船の拙劣によって発生したものでした。

ジョン・S・マケインの衝突事故については、事故発生の半年後に、同じ米海軍フィッツジェラルドの衝突事故とともに私がブログ記事にしています。
米第7艦隊衝突事故2件 2017-11-05
当時、米海軍作戦部(Department of the Navy / Office of the Naval Operations)が公表した2つの事故に関する報告書(Memorandom for Distribution)(pdf)に基づくものです。
----以下2017-11-05ブログ記事---------------------
《ジョンSマケイン(以下「M艦」)とアルニック(以下「A船」)との衝突事故》


M艦とA船の航跡

航跡図によると、M艦とA船は並行して走り、M艦はA船の右舷を通り過ぎるはずでした。ところが0521 突然M艦は左に進路を変え、A船の進路の前を遮る航路を取ったのです。M艦は自分からA船と衝突するコースに進んだことが明らかです。

----部分訳---------
(46~47ページ)
0519時、艦長は以下のことに気づいた。即ち、舵手(見張り員が舵を取っていた)が、スピードコントロールのためのスロットルも操作しているため、コースを維持するのが難しい状況であることに気づいた。
そこで、艦長は当直チームに対して、以下のことを命じた。即ち、操舵とスロットルの作業を分離し、舵手が進路コントロールを維持し、一方でスピードコントロールについては他の見張り員が「リーヘルムステーション」と呼ばれる装置を操作するよう命じた。「他の見張り員」は、舵手のすぐ隣の操作盤の前に座っていた。
この計画されないシフトは、当直チームの混乱を招いた。意識せず、操舵のコントロールはリーヘルムステーションに移行したが、当直チームはそのことに気づかなかった。艦長は、スピードコントロールのシフトのみを指示した。艦長は、操舵がリーヘルムに移行したことを知らなかった。舵手は、操舵できないことに気づいた。
操舵が物理的にできなくなったのではない。操舵が別の操作盤に移っただけだが、見張り員はこのことに気づかなかった。操舵コントロールがリーヘルムに移行したことにより、舵は中立の位置となった。操舵コントロール移行前、舵手が、船を直進させるために舵を1-4度右に切っていたのであるから、舵が中立になった結果、船は左へ曲がっていった。

加えて、舵手が操舵不能を報告したとき、艦長は船側を10ノット、さらに5ノットに減速することを命じた。しかし、リーヘルム捜査員の操作は、(2つの)スロットルを一緒に操作しなかったため、ポート側(左舷側)のスピードのみ減速した。スターボード側(右舷側)は68秒にわたって20ノットを維持した。舵の間違った方向と、2つのシャフト回転不一致の問題があいまって、密集した交通エリアにおいて、左側(ポート側)への命令されない回頭が起こった。
M艦がA船との衝突コースに入ったにもかかわらず、艦長および艦橋にいた人たちは、状況を理解していなかった。
操舵コントロールを失ったとの報告の3分後、状況に気づいたが、時すでに遅かった。そして0524 M艦はA船の船首とクロスし、衝突した。
----部分訳終わり---------

ここには掲載しませんが、報告書の図5(pdf)に、M艦の艦橋の図があります。操作卓は、中央に蛇輪(Manual Steering Wheel)があり、左側が通常の舵手の操作盤、そして右側が上記「リーヘルム」と呼ばれる操作盤です。
舵手も、そして艦長から命令されてリーヘルムを操作した見張り員も、装置の操作方法を知らなかったとしか思えません。このような人たちに、操船が任されていたのです。衝突事故は起こるべくして起こりました。
----引用終わり---------

トラブル前、操舵とスロットルの両方とも、操作卓左側(ヘルム)の操舵員が操作していました。ヘルムの右隣(リーヘルム)操作卓には、別の乗組員がついていました
艦長が、「スロットルのみをリーヘルムに移行するように」と指示したところ、誤って、操舵とスロットルの両方ともリーヘルムに移行してしまい、その点にだれも気づかなかったことが第1の失敗です。
艦長が「減速」と指示したところ、リーヘルム操作員が、誤って、左舷のプロペラのみ減速して右舷は減速せず、その点にだれも気づかなかったことが第2の失敗です。
以上の原因の第1として、乗組員の「訓練が不十分だったこと」は明らかです。

今回のニュースで、この原因に加えて、複雑な「タッチスクリーンのシステム」が事故原因の1つであることも明らかになったようです。事故当時、操作モードが通常モードではなく、「バックアップマニュアルモード」が使われていたというのも異常です。通常モードが、よっぽど使いづらいモードだったのでしょう。また、「バックアップマニュアルモード」使用時には通常モードとは異なった動作(操舵まで、ヘルムからリーヘルムに操作権が移行してしまう)がなされるのに、その点をだれも知らなかったのです。

タッチスクリーンがそもそも不適切、ということはないはずです。タッチスクリーンシステムを設計する上で、操作のしやすさが考慮されずに、設計されてしまったのだと推測されます。従って、適切に設計しさえすれば、タッチスクリーンでも使いやすく誤動作が起きにくい操作系を作ることは可能だったでしょう。
しかし今回、タッチスクリーンそのものを廃止してしまい、従来からのマンマシンインターフェースに戻してしまうようです。

タッチスクリーンの使いづらさ以外にも、「14人の乗組員の平均睡眠時間が4.9時間だったこと」という事故原因も含まれていたようです。
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