弁理士の日々

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強制連行の証拠有無と閣議決定

2013-05-26 20:49:33 | 歴史・社会
「強制連行資料なし」橋本内閣で既に決定 慰安婦問題
朝日新聞デジタル 5月26日(日)7時51分配信
『慰安婦問題への歴代内閣の対応
・・・・・
第1次安倍内閣は07年3月、河野談話を継承する一方、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」とする答弁書を閣議決定。安倍首相は昨年の自民党総裁選で「閣議決定を多くの人たちは知らない。河野談話を修正したことをもう一度確定する必要がある」と述べ、今年3月には国会で「重たい閣議決定をしたのは(07年が)初めて」と答弁した。』

慰安婦問題について第一次安倍内閣がどのような閣議決定をしたのか、という点については、去年9月に「従軍慰安婦~質問主意書と答弁書」としてこのブログで記事にしました。以下に再掲します。

ここでいう「閣議決定」とは、当時の社民党の辻元清美衆院議員の質問主意書に対する答弁書に関するもののようです。そこで、当時の質問主意書と答弁書について調べてみました。
衆議院の質問答弁一覧から、166回国会 質問の一覧を選択し、“慰安婦”という文言が入って質問主意書をピックアップすると以下のものが抽出されました。
110 安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書(質問本文答弁本文
168 安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する再質問主意書(質問本文答弁本文
169 安倍首相の「慰安婦」問題についての発言の「真意」に関する質問主意書(質問本文答弁本文
265 安倍首相の「慰安婦」問題についての発言に関する質問主意書(質問本文答弁本文
266 バタビア臨時軍法会議の証拠資料と安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書(質問本文答弁本文
267 極東国際軍事裁判の証拠資料と安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書(質問本文答弁本文
428 米下院外交委員会で可決された従軍慰安婦問題への決議案に対する日本政府の対応に関する質問主意書(質問本文答弁本文

この中から、110号(質問本文答弁本文)、168号(質問本文答弁本文)について内容を紐解きました。

110号においては、「強制性を裏付けるものはなかった。その証拠はなかったのは事実ではないかと思う」と安倍首相が発言している点について、辻元議員がただしています。

これに対し、政府が閣議決定した「答弁書」(平成十九年三月十六日)では以下のように答弁しています。
『お尋ねは、「強制性」の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(以下「官房長官談話」という。)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。
 調査結果の詳細については、「いわゆる従軍慰安婦問題について」(平成五年八月四日内閣官房内閣外政審議室)において既に公表しているところであるが、調査に関する予算の執行に関する資料については、その保存期間が経過していることから保存されておらず、これについてお答えすることは困難である。』

最近いわれている「第一次安倍内閣における閣議決定」というのは、だいたいこのことを指しているでしょう。

一方で、このときの閣議決定には次の168号もあります。
辻元議員は質問の中で、
『オランダ政府の公文書「旧オランダ領東インドにおけるオランダ人女性に対する強制売春」と題する報告書には、軍・官憲による暴力的拉致のケースが数多く記録されている。
河野官房長官談話は「(慰安婦の募集については)官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。」としているが、インドネシアにおけるオランダ人女性に対する上記のケースはそれに相当するか。安倍首相の認識を示されたい。』
とただしました。
これに対し、政府の答弁書(平成十九年四月二十日)では、
『オランダ出身の慰安婦を含め、慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話のとおりである。
御指摘のオランダ政府の報告書の内容は承知しているが、同報告書はオランダ政府が作成したものであり、これに基づいて、お尋ねの個々の事例についてお答えすることは差し控えたい。』

政府は、110号の答弁では
『政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった』
と述べました。次いで168号の質問で、インドネシアでのオランダ人女性に対する問題を提起されました。これが軍による強制連行とみなされるなら、上記110号の答弁が否定されてしまいます。しかし168号の答弁では、「110号の答弁を修正する」ともいわず、「オランダ人女性に対する問題は軍による強制連行に当たらない」ともいっていません。そして『河野談話どおり』と答弁しているのです。

結局、2007年の一連の質問主意書に対する答弁書が閣議決定されているとはいっても、それら答弁書では、河野談話の修正は何ら行われていないと言わざるを得ません。

強制連行の証拠有無に関する閣議決定を議論するのであれば、上記110号のみではなく、168号をセットにして議論しなければ片手落ちです。その点を間違わないように議論することをお願いします。

ps 上記見解については、安倍晋三ホームページの投書欄にも投書しました。
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