弁理士の日々

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5月23日東電報告書(2)1号機

2011-05-31 21:37:12 | サイエンス・パソコン
東電が5月23日に公表した「東北地方太平洋沖地震発生当時の福島第一原子力発電所運転記録及び事故記録の分析と影響評価について」を読み解いています。

資料の読解に努めたのですが、とてもわかりづらい文章でした。専門知識がわかりづらいというより、日本語の文章が分かりづらかったのです。ひょっとしたら「東電語」という方言が存在し、その方言で記述されているのかもしれません。
以下、私が理解した内容を、号機毎にまとめてみようと思います。一応標準語に翻訳したつもりです。翻訳に際し、難なく理解できた部分には○を、良く分からなかったが多分こういうことを言いたいのだろう、と推測を含んでいる部分には△を記しています。

まずは1号機です。

《非常用復水器の状況》
原子炉は、燃料棒の間に制御棒を挿入して核分裂を停止した後も、崩壊熱が発生し続けるので、水冷却を継続する必要があります。そして、全電源喪失時であっても水冷却を継続できるようにする設備を備えています。
福島第1の場合、1号機は「非常用復水器(Isolation Condenser)、2、3号機は隔離時冷却系ということで異なっています。
1号機で用いている非常用復水器について、例えば東電のこちらの資料の4ページに図面があります。圧力容器内の蒸気が非常用復水器に溜まった水で冷やされて液化し、水が圧力容器に戻る、という仕組みです。
○地震発生直後、制御棒が挿入されて核分裂が停止し、主蒸気隔離弁が閉じて圧力容器は隔離されました。これにより圧力容器の圧力が上がるので非常用復水器が自動起動しました。
○圧力容器と非常用復水器を結ぶ弁が「開」となることで蒸気は急速に冷やされ、圧力容器内の温度が低下します。手順書では、圧力容器温度降下率が55℃/hを超えないよう調整することを求めているので、操作員は非常用復水器のオン/オフを繰り返し、冷却速度を調整したのでした。
△たまたま津波来襲時に非常用復水器がオフ(閉)状態であり、津波で電源が失われた後、二度と「開」にできなかった、という説があります。
△非常用復水器の計測機器には、「非常用復水器の配管破断」を検出する計測器がある。この計測器の直流電源が失われると、フェールセーフ動作として、非常用復水器の配管が破断したものとして信号が発信され、これにより(弁の動作電源が残っていれば)非常用復水器のMO-2Aを含めた隔離弁の閉動作が行われる。ホワイトボードの記録には、3月11日18時18分にMO-2Aを開操作した記録が残っている。通常停止操作ではMO-2Aの閉操作は実施しないので、津波襲来時に「非常用復水器の配管破断」計測器の直流電源が失われ、非常用復水器のMO-2Aを含めた隔離弁が閉動作したものと推測される。
△津波来襲後の非常用復水器については、津波来襲時にたまたま「手動オフ」であったために二度と立ち上がらなかったのか、あるいは津波来襲で「非常用復水器の配管破断」とのシーケンスが働いて自動オフにしたのか、いずれにしろ津波来襲後には非常用復水器が働いていなかった可能性が高い、ということです。

《仮定に基づいたシミュレーション解析》
○「全電源喪失後は非常用復水器が動作していなかった」という仮定を置く(仮定1)。
○上記仮定の下で圧力容器内のシミュレーションをおこなうと、地震発生後3時間には炉心が露出し、4時間後には炉心損傷が開始し、15時間後には圧力容器が破損する。注水開始が15時間後なので、淡水注水開始時には炉心溶融も圧力容器破損も起こった後だったこととなる。
図3.1.3.にあるように、地震後15時間時の格納容器内の圧力はすでに0.8MPa[abs]まで上がっており、格納容器内圧力がここまで高くなるためには、炉心溶融と圧力容器破損を仮定しないと説明できない(らいし)。
○もうひとつ、シミュレーションの仮定として、地震後18時間に格納容器にφ3cm相当の穴が開いての漏洩を仮定した(仮定2)。また、50時間後にφ7cmの穴が開いての漏洩を仮定した(仮定3)。
図3.1.5.で見ると、18時間後には格納容器温度が300℃を超えており、このような温度ではガスケット損傷などが起こっても不思議ではない。
図3.1.3.で見ると、18時間以降における格納容器圧力について、測定値とシミュレーション値を合わせるために、仮定2を置いたことがわかる。また、3月14日頃の格納容器圧力について、測定値とシミュレーション値を合わせるために、仮定3を置いたことがわかる。
図3.1.2.で見ると、圧力容器圧力計測値は12日時点で1MPa[abs]程度まで下がっている。シミュレーションで圧力容器圧力がここまで下がる結果を出すためには、圧力容器損傷が必要であり、「非常用復水器作動せず(仮定1)」を仮定せざるを得ないのであろう。
○仮に全電源喪失後も8時間ほど非常用復水器が作動していたと仮定すると(仮定4)、図3.1.11.に示すように、格納容器内圧力について計測値とシミュレーション値とが合致しなくなる。

だいたいこんなところでしょうか。
地震後15時間(3月12日朝6時頃)には、炉心溶融が進んで圧力容器損傷まで起こっていたということです。
圧力容器、格納容器圧力についての最初の記録は3月12日朝2時45分で、圧力容器:0.8MPaG、格納容器:0.941MPa[abs]でした。この圧力から、圧力容器圧力がこんなに低いということは圧力容器損傷が起こっており、格納容器圧力がこんなに高いということは炉心損傷が起こっている、ということが、2ヶ月後のシミュレーションを待つのではなく、専門家の頭の中で瞬時のシミュレーションができていれば、この段階で「即座に海水注入」という司令が出たかもしれません。
一方、圧力容器内の水位計測値はその時点でまだ+1300mm(A), 500mm(B)でしたから、この数値に信頼を置けば、「燃料棒はまだ無事」ということになってしまいます。
今回のシミュレーションは、「水位計のデータを信用しない」という前提で行われており、それは5月になって作業員が原子炉建屋に入って水位計が正しくないことを確認できたことからはじまりました。やはり、3月12日段階では無理でしたか。

ところで、官邸の記録によると、3月11日16時36分に「1、2号機に関し、原災法15条事象発生(非常用炉心冷却装置注水不能)」が起きたことになっています。今回の報告書ではこの点についての記述が見あたりませんが、11日16時半に「注水不能」と判断していたのであれば、やはり早期に海水注入に踏み切ることも可能だったのではないか、と推測されます。
また、「1号機の水位計のデータと、圧力容器・格納容器の圧力データとは相容れない」ということには、地震発生後10日もすれば専門家の誰かが気づけたはずです。2ヶ月も経って、水位計を較正してデータが不良であったことを確認してはじめて、今回のシミュレーションがなされた、というのはやはりお粗末すぎます。
また、たとえ水位計のデータが正しいと仮定したとしても、3月13日には水位が-1700mmまで下がっているのですから、2、3号機について東電が述べているとおり、水面より上に露出している燃料棒はメルトダウンするのは当たり前で、「メルトダウンしていない」と言い張っていた神経が理解できません。

もう1点、今回のシミュレーションにおいて、圧力容器の圧力と水位は出てきますが、圧力容器温度は登場しません。東電のこのデータでわかるように、圧力容器温度の計測値がわかっているのは3月22日以降の分だけです。シミュレーションの対象期間である3月16日までの温度がわかっていないので、解析に登場しないということでしょうか。
しかし、3月22日に温度データが出始めてみたら、1号機の圧力容器は400℃という高温状態であることが判明し、大慌てで海水注入量を増大して温度を下げました(1号機はどうなっている?)。今回のシミュレーションの対象期間を延長し、3月22日の圧力容器温度が400℃ということはそれまでの圧力容器冷却がどんな状況であったと推定されるのか、その点を評価して欲しかったです。

次は2号機です。
コメント
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