弁理士の日々

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北方領土問題と日本外交

2010-11-09 22:18:18 | 歴史・社会
メドヴェージェフ・ロシア大統領の国後島訪問は、戦後のソ連・ロシアの最高指導者としてははじめてということで、衝撃をもって受けとられています。まずは最初のニュースをメモしておきます。

露大統領が国後訪問 実効支配強化、鮮明に
産経新聞 11月2日(火)7時56分配信
『ロシアのメドベージェフ大統領は1日、旧ソ連・ロシアの国家指導者として初めて、日本の北方領土を訪問した。大統領は国後(くなしり)島でインフラ(社会基盤)の整備状況を視察し、今後も政府の積極的な資金投下を続ける考えを表明。北方領土交渉を棚上げし、実効支配を強化するとの意思を鮮烈に示した。沖縄・尖閣諸島近海での中国漁船衝突事件に続き、日本の外交姿勢が根本的に問われる事態だ。
インタファクス通信などによると、大統領は訪問先のベトナムから空路、極東ユジノサハリンスク経由で国後島に入った。同島の中心地の古釜布(ユジノクリリスク)近郊にある地熱発電所や水産加工場、建設中の港湾施設などを視察。「ここの生活はロシア中央部と同様に良くなる。資金を投入することが大事だ」と述べ、1991年のソ連崩壊後に進んだ人口流出を食い止めるべく発展を加速させる決意を示した。
北方領土訪問の計画は9月末、中国漁船衝突事件で日中関係が悪化していた最中に浮上した。尖閣をめぐって日中関係が悪化しているすきを突き、圧力を強め出方を探っている形だ。
大統領は今月中旬、横浜で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席するために訪日する予定で、そこでの日露双方の出方が注視される。
北方領土をめぐり、ロシア側は現在、「いかなる真剣な交渉も行われていない」(外交筋)との認識でいる。他方、千島列島(クリール諸島)と北方四島では2007~15年の「社会経済発展計画」(計画投資額179億ルーブル=約468億円)に基づく大規模なインフラ整備が進む。領土問題をめぐる日露関係の構図は根本的に変化しつつある。』

近隣の大国との外交で、日本は弱り目に祟り目ですね。
尖閣問題のさなか、メドヴェージェフ大統領が中国から北方領土への訪問を薦められたとの新聞報道を見ましたが、それが現実のものとなってしまったのですね。
戦後のソ連・ロシア指導者のだれも実行しなかった行動に、なぜメドヴェージェフ大統領は踏み切ったのでしょうか。

鈴木宗男騒動の結果、日本の対ロ外交においては鈴木宗男氏、東郷和彦氏、佐藤優氏の3名を失いました。それ以前、この3名はロシア中枢部にがっちりと人脈を形成していたと思われるのですが。その後の日本の対ロ外交はどう建て直されたのか、あるいは壊滅したままなのか、その点が気になります。
確かに鈴木宗男氏は、唯一の外交族議員として横暴が過ぎました。NGO、常在戦場鈴木宗男氏と大西健丞氏などにも書いたとおりです。しかし、鈴木氏は結局、話題になったムネオハウスや国後ディーゼル汚職では無罪でした。鈴木氏らを失脚させたことのデメリットの方が大きかったと言えるでしょう。
東京地検特捜部及び結託した外務省は、鈴木宗男氏を血祭りに上げる前哨戦として、佐藤優氏を逮捕し(させ)、東郷和彦氏を失脚させたのです。

その東郷和彦氏が、以下のように気になる発言をしています。中身が濃い内容なので、こちらも全文引用となります。
<北方領土>「露のシグナル見逃す」 東郷元欧州局長が分析
毎日新聞 11月4日(木)2時30分配信
『ロシアのメドベージェフ大統領の北方領土訪問について、ロシア情勢に詳しい元外務省欧州局長(当時・欧亜局長)の東郷和彦・京都産業大学教授は毎日新聞のインタビューに「7月の択捉島での軍事演習や事実上の対日戦勝記念日制定などの延長線上にある」との見方を示した。3日に一時帰国した河野雅治駐ロシア大使は菅直人首相らに「12年の大統領選を見据えた国内向けの動き」との分析を伝えた模様だが、東郷氏は麻生、鳩山両政権の瑕疵(かし)が要因との見方を提示。現在の政府・外務省とは真っ向から対立する見方に立って警鐘を鳴らしている。【西田進一郎】
東郷氏は最近1年間の日露関係を考察し、(1)ラブロフ外相が7月に演説した際、アジア太平洋で協力関係を進めたい国として韓中印ASEAN(東南アジア諸国連合)などを挙げたが日本は含まれなかった(2)7月に択捉で軍事演習(3)9月に太平洋戦争勝利記念日制定--などを挙げ、「顕著に悪化した」と強調。この延長線上に訪問があると位置づけた。
最近の北方領土交渉を振り返って「06年の安倍晋三政権の成立以来、昨年5月のプーチン首相来日までは、ロシア側は『領土交渉を進めよう』というシグナルを繰り返し出してきた」と指摘。にもかかわらず、麻生太郎首相(当時)が「ロシアが北方領土を不法占拠している」と発言したことが日露関係悪化の発端との認識を示した。「大統領が『交渉を本当にやろうと真剣に思っているのなら、相手の国民世論を憤慨させるようなことはやめてくれ』と強烈なメッセージを送ったにもかかわらず、(麻生政権の後の)鳩山(由紀夫)前政権でも同じ趣旨の答弁書を出した」として、ロシアの態度硬化に拍車をかけたと断定。「ロシア側は日本は交渉する気がないと受け取った」と語り、その後の関係悪化につながったとの見方を示した。
東郷氏は「交渉で領土を取り返す以上、日本政府はロシア側のシグナルを外してはならなかったのに、『やる気がない』と彼らが受け取るメッセージを昨年出してしまい、(現在の菅政権に至っても)修復の兆しはない」と最近の歴代政権を批判した。』

もう一人の佐藤優氏は以下の発言です。
「筋読み」を完全に誤った外務省
2010/11/08(作家、元外務省主任分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS)
『3日、官邸に呼ばれた河野大使は、「大統領が国内向けに指導力を誇示する狙いがあったと説明したという」(11月4日付産経新聞)。この分析は完全に間違っている。
メドベージェフ大統領の指導力をロシア国民は信頼している。大統領選挙は、2012年3月だ。1年半先の選挙のために対日関係を悪化させるようなリスクがあっても国内向けのパフォーマンスをするなどという説明が合理性を欠くことは明白だ。
メドベージェフ大統領の国後島訪問は、北方領土の「脱日本化」という戦略に基づいて段階的に展開されている。
第1段階は、「対日戦勝記念日」を制定することで、スターリンが日ソ中立条約を違反したという歴史的事実を覆い隠すことだ。歴史認識を修正し、北方領土を「脱日本化」する意図を表明する。
第2段階の前段は、今回の大統領による国後島訪問で、北方領土の「脱日本化」に着手する。後段で、「脱日本化」の対象を、1956年日ソ共同宣言で、平和条約締結後の日本への引き渡しを約束した、歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島に拡大する。
第3段階で、戦後の現実を変更することはできないという議論を全面的に展開する。具体的には「1993年10月の東京宣言でロシアは日本と択捉(えとろふ)島、国後島、色丹島、歯舞群島の名をあげ4島の帰属に関する問題を解決し、平和条約をするという約束を確かにした。しかし、ロシアが日本に4島を返還するとは約束していない。そこでロシアが4島、日本が0島という形で4島の帰属に関する問題を解決し、平和条約しよう」と主張する。そして、日本の返還要求をはね除けて北方領土の「脱日本化」を完成する。
河野大使のように、メドベージェフ大統領の国後島訪問を「国内向けに指導力を誇示する狙いがあった」と認識しているようでは、ロシアによる北方領土の「脱日本化」工作を阻止することができない。「国内問題」と装って、領土問題解決に向けて、ロシアは自国に有利な状況をつくろうとしているのだ。』


もう一つ、気になる記事がありました。
伊藤博敏「ニュースの深層」2010.11.05「政府が北方四島への「渡航自粛」を求める間に進んだロシア化~メドベージェフ大統領の国後訪問は国家戦略なき外交が生んだ!
『政府は、1989年の「閣議了解」で、北方四島への渡航自粛を求めている。「実行支配を認めてしまうから」というのがその理由。しかし、「自粛」の間に、四島は大きく変わった。酷寒の島で、資源といえばサケ、タラ、昆布といった海産物だけで、文化はなく、娯楽もない、という「最果ての地」は、様変わりした。
地熱発電が電力を安定供給、温泉が掘られて保養所ができ、近代的な水産加工場が各地に建設され、家電量販店にはモノが溢れ、最新の携帯電話が普及、「釣に温泉」を求めて、観光客が次々に訪れるようになった。
インフラが整備され、産業が発展すれば、ビジネスチャンスを求めて、ロシアのみならず各国の企業が集まる。水産物を求めて中国や韓国のビジネスマンが、貿易交渉を行い、工場建設や機材納入にかかわろうとする。だが、日本だけは埒外だ。』
『1991年のソ連崩壊で四島からの人口流出が進んだ時、ロシアは社会資本整備を充実させ、島民を根付かせようとした。それがプーチン時代に実り、「クリル社会経済発展計画」につながった。2011年には国後、択捉の両島に飛行場が建設され、有視界飛行ではなく、計器での離着陸が可能になって、定期便が就航、ますます発展する。
日本政府は、その間、「自粛」を貫いて発展に関与する機会を失った。現地の様子は伝わらず、ロシアの支配だけが強くなり、蚊帳の外に置かれてしまった。』

やはり、2002年に鈴木氏、東郷氏、佐藤氏の3人が失脚して以来、日本の対ロ外交は機能しなくなっていたのでしょうか。


話は変わりますが、民主党政権の外交における姿勢について、11月7日日経朝刊の記事をメモしておきます。
『尖閣諸島沖での中国漁船の衝突事件をめぐり、政治家との調整に奔走した外務省幹部はこう漏らす。「日中関係が緊迫した時に首相官邸が日本の外交官を信用せず、中国外務省に相談したことに衝撃を受けた」』
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