弁理士の日々

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かんぽの宿の適正譲渡価格とは

2010-05-18 22:34:31 | 歴史・社会
5月16日の朝日新聞朝刊35面には
『かんぽの宿221億円~07年鑑定 郵政「再検討を」~1週間後に97億円』
という記事が載っています。
『日本郵政が宿泊施設「かんぽの宿」などをオリックス不動産に一括譲渡しようとした問題で、民営化前の日本郵政公社が2007年8月の不動産鑑定評価の際、鑑定業者に2回にわたり評価の再検討を求めるなどして1週間で評価額が当初の約221億円から約97億円に減っていたことが関係者の話で分かった。』

この記事だけ読むと、何か郵政公社が不当な圧力をかけ、鑑定額を不当に押し下げたような印象を受けます。それも221億円から97億円といったら、あまりにも額が異なりすぎます。一体どうなっているのでしょうか。

鑑定に際しては、かんぽの宿など70施設の不動産鑑定を3社に依頼しました。3社は8月24日に評価額を計約221億円と内示します。これに対し郵政公社その他の関係者は「実際に売れる額なのか再検討してほしい」などと要請。3社は4~6日後に2回目の評価額として計約125億円を内示します。郵政公社側はこの金額にも納得せず「本当にこの価格で買い手がつくのか」などと発言。結果として2社がさらに価格を下げて8月31日までに提出し、合計額が97億円となった、というのです。

これだけ読むと意味不明です。
しかし、記事には実態を明かすヒントが隠されていました。
『ある施設では、鑑定業者が最初の内示で、施設の原価、老朽化や機能性などを考慮して算定する「積算価格」と、施設からどの程度の収益が得られるかを基準にする「収益価格」の割合を8対2にして評価額を約60億円とした。
ところが、民営化前の郵政公社側から収益性を重視して再検討するよう依頼され、積算価格の割合を1対9にひっくり返し、約16億円まで減額していたという。』

なあんだ。そういうことですか。
この施設の「積算価格」をa、「収益価格」をbと置いて連立方程式を立てます。
 8a+2b=600億
  a+9b=160億
この方程式を解くと、
 a=72.7億円
 b=9.7億円
という答えが出ます。

つまりこの施設は、単純に施設の原価、老朽化や機能性などを考慮して算定すると約73億円の価値がありますが、施設からどの程度の収益が得られるかを基準にすると10億円の価値しかない、ということです。
以上から分かることは・・・
(1) 問題となった1週間で何があったかというと、「積算価格」対「収益価格」の比率を変更したにすぎない、ということになります。
(2) かんぽの宿には、積算価格と収益価格との間に7倍もの開きがあったことがわかります。

郵政公社・その後の日本郵政株式会社は、かんぽの宿譲渡の条件として、従業員の雇用保証まで求めていました。そうだとしたら、入札に参加する業者は、従業員丸抱えの上で収益が見込めるような価格で応札するしかありません。上記の施設だったら、10億円で応札するしかないわけです。ですから、2007年8月の1週間で鑑定価格が大幅ダウンした件については、当然ダウンすべきだった、という結論になります。

そもそも鑑定を依頼するに際し、「積算価格」と「収益価格」それぞれについて鑑定結果を提出せよ、との依頼を出せば良かったのです。そうすればこんな謎めいた話にはならなかったでしょう。
コメント
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