弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

本田宏「誰が日本の医療を殺すのか」

2007-09-24 19:59:38 | 歴史・社会
本田宏著「誰が日本の医療を殺すのか」(洋泉社)
「医療崩壊」の知られざる真実
誰が日本の医療を殺すのか―「医療崩壊」の知られざる真実 (新書y 180)
本田 宏
洋泉社

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今年の6月にこのブログでも、中央公論の記事をもとに医療崩壊について記録しました

著者の本田宏さんは、現役の病院医師です。済生会栗橋病院の副院長兼外科部長の職にあります。
勤務のかたわら、医療の現状についてブログ、講演などで発信し続けており、今回この新書を発刊するに到ったということです。

本の内容は、私が6月に記録した中央公論の内容とほぼ同じ内容です。同じ内容を、より具体的に、事実に即して主張されています。そういった意味では、「医療崩壊」といえる日本の医療の現状を知る上では好適な書といえるでしょう。

全体像は中央公論の上記要約ですでに記したので、ここでは具体的な話についてかいつまんでみます。

○ ベッド数が400床以上の大きな病院では、産科より、むしろ内科医と麻酔医の不足が深刻となっている。

○ リハビリ日数の制限で医療難民が急増中

○ 相次ぐ医師や看護師の「逮捕・起訴」
 医療ミスの隠蔽やカルテの改ざんがあったために逮捕・起訴されるのは、当然です。
 一方、本当に刑事罰に値するのか、といえるような場合でも逮捕される例が出ています。
「2006年2月には、福島県で産婦人科医が逮捕された。帝王切開中に妊婦が大出血を起こして死亡した事故だ。」「警察内部ではこの事件の検挙に関して県警本部長賞が与えられたと聞くが、医療関係者からは『逮捕』という事態に抗議の声が多く上がった。多くの産科医の話では、同様の大出血に遭遇する可能性は産科医なら誰しも避けられないことで、それが場合によって逮捕・有罪につながるのであれば、怖くて産科医を続けられないという。」「外科系臨床科に属する医師の減少は現実に起こった。逮捕された産科医を派遣した医大が、県内の病院への派遣を取りやめてしまったのである。さらに、別の地域での産科の閉鎖・休診も加速し、お産を抱えた多くの妊婦さんたちが『お産難民』となってしまった。
医師個人を刑法で裁くことは、他の先進国ではありえないという。このような事態は、根本的な解決につながらないばかりか、医療崩壊をより拡大する結果になっている。」

○ 医師の数は14万人も不足している!
 OECDに加盟している国の人口1000人当たりの平均医師数が3.1人なのに対し、日本は約2人にとどまっています。現在の日本の医師数は25.7万人であり、もし日本がOECD加盟国平均並みに医師を養成してきたとすれば、40万人存在することとなり、14万人も不足しているということです。
 それに対し厚生労働省は今まで、「医師が地域によって偏在していることが問題なだけで、医師の総数は不足していない」と言い続けているようです。

○ 四半世紀にわたる「医療費亡国論」の呪い
 世界の多くの国々は、社会の高齢化や医療の進歩にともなって、着々と医師を増員しています。
 それに対し日本は、1987年を境に医療行政が大きく変化し、医師削減の方向へ逆噴射発進してしまいます。厚生省保険局長が「医療費亡国論」の論文を発表したことに起因します。

○ 医療の進歩が仕事量を劇的に増やした

○ 尋常ではない事務作業の量
「医療の安全と説明責任履行のため、毎日、数多くの書類を作成しなければならないのである。」

○「土下座しろ!」罵倒される勤務医
「医師と患者さんの関係がぎくしゃくし始めていることは、現場でも顕著に感じる場面が増えていた。2006年に、私の担当する外科病棟で次のようなできごとが連続して起こったのである。」
1件は、がん患者が息を引き取るとき、主治医はちょうど手術中で外科部長である著者が立ち会ったところ、家族が声を荒げて「冗談じゃない、(主治医を)今すぐここに呼べ!」と大声で怒鳴りだしたのです。
もう1件は、病院が休診の日曜日、長期間治療を続けていたがん患者の容態が悪化し、主治医は家族に危篤状態であることを告げましたが、その後小康状態が続いたため、主治医は夕方に一度帰宅します。そのとその直後に患者の容態が急変し、主治医が病院に到着する前に患者はなくなります。家族は「主治医を呼べ!」と騒ぎだし、主治医が30分遅れて到着したとき、浴びせられた言葉は「土下座しろ!」でした。
どちらの場合も、治療上の問題は全くなく、医師と患者さん側の関係はむしろ良かったのにです。

○ 小児科医は現場を立ち去るか、死を選ぶか
小児科の場合、乳幼児への負担を避けるために採血やレントゲンなどの検査をできるだけ控えるので、十分な診療報酬を稼ぐのは容易ではありません。しかも親に時間をかけて説明をするので、大人とは比較にならないほど時間がかかります。そこで民間病院は、経営効率の悪い小児科医を切り捨て始めています。その結果、のこされた国公立の病院の小児科外来は、もともと人手が足りない上に、さらに民間病院からの「医療難民」が押し寄せてきて、てんやわんや状態になっています。
その結果、小児科の勤務医は過重労働状態となっています。
極端な話、小児科医の置かれた現状は、「現場を立ち去る」か、中原医師(自殺)のように「死を選ぶか」といった逼迫した状態にあるということです。
「現場を立ち去る」は「立ち去り型サボタージュ」と呼ばれているようです。

○ 欧米では「人は誰でも間違える」が常識
 そうです。「医者は間違えない」という前提で動くから、「間違えた場合はなかったことにしよう」と隠蔽工作が始まるのです。アメリカで出版された「人は誰でも間違える―より安全な医療システムを目指して」という本になっているそうです。
「アメリカでは、処方箋も『忙しい医師が書くと必ず間違えるから』医師には書かせないという。」

○ 日本の医療費は本当に高いのか
「2004年のGDPに占める医療費の割合は、OECD加盟国平均が8.9%、G7平均が10.2%に対し、日本は8%に留まっている。かつて日本より下位にいたイギリスは、2000年を境に医療費を増額したことから、現在は日本を上回っている。医療費がGDPの10%になれば、20兆円の増額が期待できる。」
現在の日本の医療費は31兆円であり、これに20兆円を増額すべきとの主張です。
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