弁理士の日々

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東郷和彦氏「A級戦犯合祀問題」

2006-08-07 00:00:05 | 歴史・社会
「靖国問題」として近隣諸国との間でシンボル化されているのは、A級戦犯の合祀についてです。
前回、東郷和彦氏の「靖国再編試案」について述べましたが、A級戦犯合祀について東郷氏がどのように考えているのかについては触れませんでした。

結論からいうと「どうすべきだ」と明確な方向は示されていません。

氏が提唱する3課題のうちの第三の課題「戦争責任に対する国家的な議論」のなかで、二つの考え方が現れると予測し、
一つめは、国を引っ張ったリーダーである特定のグループに戦争責任があるという立場で、この立場から「A級戦犯の合祀についての再検討につながる可能性があります」としています。
二つめは、時の勢いをサポートした国全体としての責任を探求する考え方で、この立場からは、A級戦犯が負うべき戦争責任が軽減されます。

東郷氏は「私自身としては、後者の意見です。しかしなにがなんでもと、固執はしない。祖父が靖国に祀られていることも、有り難いと思っています。しかし、個人の意見や状況は別にして、国民的コンセンサスを作ることが大切であり、切にそう願っています。」と語られます。

第三の課題を議論する中で、出てくる結論に従う、ということでしょうか。

なお、A級戦犯合祀の問題について、政府の責任が最も重い、と発言されています。A級戦犯のリストは66年に政府から靖国に提示されて、78年に合祀されたのであって、政府の考えに基づいています。
「A級戦犯の合祀について誰かが発言すべきだとしたら、靖国神社ではありません。説明責任は、勝者の裁きを引き受けつつも、独自の判断をした上で合祀のためのリストを提出した政府にあるのではないでしょうか。」

東京裁判の実態がどんなものであったのか、私は今パル判決書を読み進めているところで、まだ私自身の結論にまでは至っていません。しかしおそらく、「東京裁判当時の条約や慣習法の下において、A級戦犯とされた人々に個人として刑事責任を負わせることにはやはり無理があった」という結論に達する可能性が高いでしょう。
一方で、先の大戦で中国をはじめとする諸国の国民に大変な苦痛を与えたことは紛れもない事実であり、その責任は日本人が必ず負わなければなりません。首相が何回か言葉で謝罪したからといって済むようなものではありません。
そうであれば、私の立場も、東郷氏が言う二つめの考え方に沿ったものとなるはずです。

中国の立場としては、「日中戦争で悪かったのは日本の軍部であり、日本国民に罪はなかった。悪かった日本軍部の象徴がA級戦犯である」として中国国民を説得し、日中平和条約を締結したいきさつがあると聞きます。日本自身が長い間そのロジックに乗ってきました。今更、「日本は確かに悪かったが、その罪はA級戦犯のみが負うのではない」と言い出されても、納得のしようがないかもしれません。しかしここは、誠心誠意相手に訴えていくしかないでしょう。
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