弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

パネル討議「発明の進歩性」

2006-01-31 23:19:04 | 知的財産権
今回は、日本弁理士会主催で開かれたパネルディスカッション「発明の進歩性」(平成17年12月9日 JAホール)について述べます。

パネルディスカッションに参加したメンバー及び各メンバーの講演・発言内容は概略以下の通りでした。

(1) 古城春実弁護士(元東京高裁判事)
 高裁知財部で審決取消訴訟中心に裁判を行ってきた。今回は、最近の進歩性動向に特に鮮明な意見は出さず。

(2) 増井和夫弁護士
 「特許判例ガイド」を執筆しており、改訂のために判例を常に読んでいる。その印象では、最近は進歩性のハードルが高くなっている。
 米国CAFCの進歩性判断では、「構成要件をばらばらに分析的に見てはならない、複数引例の結合には動機付けを要求」などが必要とされているのに対し、日本の高裁では複数引例の結合に抵抗が無く、「進歩性あり」とするためには逆に阻害要因が要求される。

(3) 高島喜一教授(元特許庁審査長・現大阪工大教授)
 特許庁出身学界代表としてよばれた。
 進歩性判断において、本件発明の効果が特段のものであるかを参酌するにあたっては、「本件発明の構成」に基づいて判断するのではなく、「従来技術」に基づいて判断すべきである。
 裁判では発明の構成をぶつ切りにして評価するので、構成要素間の有機性をなかなか評価してもらえない。

(4) 高林龍教授(元東京地裁判事・現早大教授)
 今まで、(学界では)進歩性について考えていなかった。今回、事前準備から議論に参加して、進歩性について議論できると感じた。

(5) 岡部譲弁理士(元東京高裁調査官)
 この10年間で、査定不服審判の申立成立率が激減し、無効審判の申立成立率が激増している。 → 特許庁の進歩性ハードルは厳しくなっている。
 東京高裁で、特許無効とする審決は維持され、特許有効とする審決が取り消される傾向は現在も続いている。 → 高裁の進歩性ハードルは特許庁よりも厳しい。

(6) 井上学弁理士(㈱日立知財本部部長)
 進歩性の判断は、過去緩すぎたが今は厳しい側に振れすぎている。
 アメリカの方が権利行使しやすいので、アメリカで訴訟を起こす傾向。
 個人的には、知財立国を目指すには厳しすぎると思う。国際調和も図られていない。
 現在の進歩性判断は「事後分析アプローチ」即ち後知恵で厳しく見ているのではないか。
(7) 西島孝喜弁理士
 以前は、特許庁が甘すぎる、高裁が厳しすぎるという位置づけだったが、現在は特許庁も高裁も厳しすぎる側に振れている。

(8) 渡部温弁理士
 機械分野で進歩性について判例研究している。最近進歩性判断が厳しくなっていると認識。

(9) 富岡英次弁護士(コーディネーター)
(高裁の進歩性判断が厳しすぎるという)その点が(この業界)皆のストレスになっているようだ。

以上のように、日々の実務に携わっているメンバー、判例を定常的に研究しているメンバーからは、共通して「高裁における最近の進歩性の判断は厳しすぎる」という意見が出されました。一方、学界においては今まで進歩性が研究対象になっていなかったという実態も見えてきました。
渡部弁理士は判例の検討結果を紹介しましたが、まだ検討が十分に練られておらず、「確かに厳しすぎる」という共通認識を持ってもらうには不十分であると感じました。

もし、「最近の高裁の進歩性判断は厳しすぎる」という認識が正しいのであれば、これを是正するための運動を広げていく必要があります。そのためには、昨日も書きましたように、知財高裁も納得せざるを得ないような世論を盛り上げていくことが必要でしょう。今回のパネルディスカッションはその端緒として有効であったと思います。このあとも火を消さないよう、議論を盛り上げていく必要があります。

昨日私が書いたように「産業の発達」という観点から切り込む上では、産業界が意見を発していくことが重要です。この点、知財協はどのように認識しているのでしょうか。知財協からの強力な発言を期待したいところです。
コメント
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