豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

富士山救助ミス落下の判決文を読んでみた その1

2019年03月03日 | 遭難と救助について考える
2013年12月に発生した富士山における救助活動中の遭難者落下事故ですが、2年後の2016年1月に遺族が静岡市を提訴し、2017年12月に地裁の判決が出て遺族側が敗訴しています。その後控訴していましたが、2019年2月に和解がまもなく成立するという報道が出ました。
そこで久々にこの事故について調べていたところ、地裁の判決文を見つけることができました。ここではそれをもとに、この事故をもっと深く掘り下げてみたいと思います。

時間がある方はここからPDFファイルをダウンロードして読んでみてください。

で、読んでみたのですが…

恥ずかしながら、静岡市消防のヘリコプターが飛ぶ前に静岡県警のヘリコプターが出動していたことを知りませんでした。たぶん、どこかで報道されていたのだとは思いますが、今頃になって知った次第です。

この遭難は2013年12月1日午前11時頃に発生し、14分に110番通報がありました。昼過ぎに静岡県警のヘリコプターが出動しましたが、気流の悪化等により救助を断念し帰投しています。午後3時5分に再び出動し、28分に現場到着。45分に隊員が現場へ降下し、午後4時1分に遭難者を機内収容しています。
県警の救助ではエバックハーネスを使用し、降下した隊員はホイストカット、つまりワイヤーを外した状態で作業を行っています。

さて問題の静岡市消防ですが、午後3時14分に静岡県内航空消防相互応援協定による救助要請を請け、29分にヘリコプターが出動しています。同45分には現場上空に到着しており、静岡県警のヘリコプターが救助活動を終えた後の午後4時2分に現場へ接近して救助作業を開始しました。

ご存知の通り、静岡市消防は救助にあたってデラックスサバイバースリング(DSV)を使用しています。その理由として報道されていたのが日没まで30分しかないという時間的制約が筆頭に挙がっていましたが、この判例にはそれ以外の理由が述べられています。

判決文によると先に救助を開始した静岡県警の降下隊員はビバーク技術や装備があり、自力下山も可能でした。エバックハーネスを使用する場合、ダウンウォッシュを避けないと装着ができないため、ヘリコプターは一旦現場から離れる必要があります。隊員はホイストで降下しますが、ワイヤーに繋がっているフックを外して自由な状態(ホイストカット)にならなければなりません。エバックハーネスの装着ではハーネスを広げる作業があるため、強風下では困難なようです。

一方、静岡市消防の降下隊員にはそれがありませんでした。現場に降下し、ホイストカットをしてしまった後で天候の急変によりヘリコプターの再接近ができなくなってしまったら、隊員が二次遭難する可能性が出てきます。よって降下隊員がヘリコプターとワイヤーで繋がったままの状態であっても使用可能なDSVしか選択肢が無かったというわけです。

2017年7月に書いたエントリーで降下した隊員が冬山に取り残されそうな場合、他県ではどうしているのだろうと書きましたが、静岡県警であればそういう事態に備えているわけです。が、静岡市消防ではそこまでの準備が整っていなかったことがわかりました。

この部分を読んで強く感じたのは、あまりにも余裕の無い状態での出動だった、ということですね。

まず、静岡市消防にとって未経験の高度である上に、日没まで30分までしかなく、さらに降下した隊員が現場に取り残されるような事態を絶対に避けなければならないというわけです。よってDSVしか使うことができず、また遭難者の下半身を覆っていたブリザードパックを外して股下シートを通す余裕も無かったのです。

以前のエントリーで「結局、無理な出動を上が命じてしまったために現場が無理を重ねてしまい、その結果がこうなってしまったのだと思いますよ。」と書きましたが、判例を読んでますますその思いが強くなりました。

それでも機内収容の直前までは至ったわけです。通常であれば無事に帰還できたでしょう。しかし、ここで問題のスッポ抜けが起こるわけです。それについては次のエントリーで書いていきたいと思います。

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