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読書感想「水曜日の凱歌」乃南アサ

2018年08月09日 17時27分35秒 | 乱読本感想

新潮社 2018年7月28日

★5

夏になると必ず書店に並ぶ戦争関係の本。
無意識に避けているが、夏にはやはり読まなくてはいけないのだろうと変な義務感から手に取ってしまうことがある。
14歳の少女が主人公らしい。
「14歳の少女」と「進駐軍相手の特殊慰安施設」という文字でこの本で語られるであろうことが想像され、好きな乃南アサさんの作品だが、読む前から重い気持ちになった。
が、そこは“変な義務感”で読んでいく。
東京空襲後の惨状から始まる物語は想定内。
ただ、乃南さんの描くそれは、やっぱり巧い人が書くとこう描かれるんだと。
舞う埃の中に肉体を失った「誰か」を感じるって表現にゾクッとなった。
母と娘(鈴子)だけになった時から本当のこの物語が始まる。
頼りなさそうだった母親の真の姿が現われる。
力のありそうな“男”を利用し、したたかに生きていく姿が描かれる。
が、それはあくまでも娘、鈴子の目から見た母親の姿であるのが興味深い。
敗戦直後、「RAA:特殊慰安施設協会」が作られる。
そういう組織と目的は知っていたけれど、まさか、終戦の瞬間にそれが作られていたとは知らなかった。
そこで通訳として働くことになった母親と行動を共にする鈴子が体験したことは、想像していたこととは違った。
違ってはいたけれど、そういうことは描かれる。
母親のおかげで鈴子は衣食住においては恵まれた立場にいた。
母親の仕事や“男”のことにたいして反発しながら、何もできない自分に苛立つ。
多感で好奇心旺盛な14歳が感じたこと、思ったことがストレートに描かれている。
そして、鈴子が出会った女性、モトさんとミドリさん、戦後に活躍した女性たちの象徴として描かれているのか、賢くてとても魅力的だ。
「---パンパンだろうが何だろうが、あたしたちは人間なんだっ、この日本で生まれた、日本の女なんだよっ!おまえら男たちがだらしないばっかりに、こうしてあたしらが、後始末をしなけりゃあ、ならないことになったんじゃないかっ」
「---日本の男ども!誰もかれも、女のまたの間から生まれたくせに、その恩も忘れやがって、利用するときだけしやがって!戦争中は『産めよ殖やせよ』で、戦争に負けた途端に、今度は同じまたを外人どもに差し出せとは、何ていう節操のなさなんだっ!---この国を駄目にした男ども!女の一人も守れないで、何が日本男児だ、馬鹿野郎っ!---」
ミドリさんが切った啖呵の小気味良いことったら。
戦争を体験した日本の女の大多数はそう思ったんじゃないかと。
さすが、女の気持ちを分っていらっしゃる乃南さん。

とは言え、
私の両親も祖父母も、本当の意味での戦争は体験していない。
戦争には行っていないし、田舎ゆえ空襲もなかった。
もはや戦後ではないと言われた時代に生まれた私は、本や映画、ドラマでしか戦争を知らない。
知らないけれど、女の気持ちが解るのはやはり繰り返し、疑似体験をして来たからだろうと、思う。
8月はそういう月だと思う。


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