渡邊一夫ってお近づきになったことは、ない? まだなら、ぜひ!
こちらがその渡邊一夫の魅力をギッシリと詰め込んだ一冊です。
外箱とケース
表紙と見返し
「渡邊一夫|装幀・画戯|集成」(普及版) 渡邊一夫 串田孫一・串田光弘/装幀 定価8,000円 1982 一枚の繪株式会社
渡邊 一夫 (わたなべ かずお) は日本のフランス文学者。日本学士院会員。
ルネサンス期フランスのフランソワ・ラブレーやエラスムスなどの研究、及び『ガルガンチュワとパンタグリュエル』の日本語訳で知られる。 ―ウィキペディアより―
この本を見ると渡邊一夫のすばらしい仕事ぶりがうかがえます。 とりわけ大半をしめる装幀本の魅力は抜群です。 六隅許六(むすみ ころく)という別名で本を装幀し、師の辰野隆や中野重治や大江健三郎らの著書なども手がけています。 そのうち三点だけお姿を、あとは本書でタップリと。
「随筆寄席」第2集辰野隆 林髞 徳川夢声 (1・2集とも)/「ふらんす文学襍記」渡辺一夫自装/ 「青年へ」大江健三郎同時代叢書 10
装幀のほか絵画やスケッチや印刻や玩具などの図版がギッシリと詰まっていて、見て楽しく、参考資料としても上々です。
「辰野隆先生肖像」1942・3 油彩 /刻したさまざまな印
この本に載っている数ある作品の中でも僕が特に惹かれるのは「玩具」です。 渡邊一夫って、大変偉い先生で、怖そうなイメージなんだけど、 「玩具づくり」というたいへん高雅な遊びもなさったようで、この本に載っている図版を見る限り、これほどの腕前もさることながら、遊び心を持った大人はそんじょそこらにはいないでしょってくらいの本格派だと御見受けしました。御本人は「拙老の余技ならぬ本技玩具つくりの腕は上乗ならず、 拙劣なるは言ふをまたず、(略)」 と控え目で、そこはかとなくものを作る喜びをのぞかせておられます。
世の中には、何をやっても高いレベルで出来てしまう人っていますよね? 恵まれし人っていうのかなあ。 渡邊一夫は正しくそのような人ですね。 えっ! 僕はどうかって? いえいえ、とてもとても、決して決して、もしかしてひょっとして・・・・。 (しあわせですか?)
それでは、こんな玩具は如何でしょうか?
「ババの祝福されたパン」1972 木製 背側(左)/表側(右)
これは芳枝夫人のために作られたパン醗酵器です(車つき!)。 箱の背に描かれたオレンジの木は実をいっぱいつけ、枝々の間には夫人の業績がたくさん描き込まれているらしい。♡♡
そしてこちらはお城の玩具です。
シュノンソー城 1969・8 /テレームの島 1969・7
いろいろの玩具があるなかで、僕がたまらなく愉しいなっておもうのはお城の玩具ですね。 とりわけ僕がお気に入りなのは、弟子の、おっと渡邊一夫は弟子とは言わず教え子を「若い友人」と呼んだそうですが、その若い友人の大江健三郎に贈った「大江太守城」です。特別バージョンなんです。 このお城がいいんですよ~! 僕の好感神経を刺激しまくりです。 こんなの僕も欲しいんだけどなあ。 キッと貴方もそお思うハズ。 では見てみましょう!
「大江太守城」(1970・9) ジャ~ン、これが大江城だあ!
どうです? すばらしいでしょ! 貴方も欲しくなったでしょう?! まあまあ??
正面左にある紋章は、フランス・ルネッサンスの父といわれるフランソワ1世のエンブレムです。 リボンに書いてある文字はフランソワ1世の標語である "NUTRISCO ET EXSTINGUO "です。
その譯とその解釈はですねェ・・ぼく、フランス語なら得意なんだけど、ラテン語はちょっと・・。 大体は分かりますが、ここは正確を期するために本書から渡邊一夫先生の文章を引用いたします。
「我れは養ひ(はぐくみ)、また我れは消す(滅ぼす)」 となれど、 大江太守の高き志操と深き思慮とによつて、 このましきものを掬育し、邪なるものを絶滅せしむるの義に解するを恃む。
と、なります。 要するにその謂わんとするところはぁぁぁ・・、ぼく、漢字はたしなむ程度なので、*解釈の解釈については丸なげで貴方にお任せします。、
ところで、大江城には上の画像では見えませんが、うら側の石垣というか土台に小さな四角い穴が空けられていたんです。 その横に日本語で[脱出口]と書いた紙が貼ってあるんです。 で、この[脱出口]について興味深い話があります。 お話しましょうか? ♪やめろっと言われても 僕は云っちゃいますからね。 それは大江健三郎があるテレビ番組の中で「大江城」の話をしてるところを観ちゃったんです。あれはたしかズ~ッとチョッと前です。
「わたしは先生からこのお城を贈られた時、この[脱出口]があるのに気がつかなかったんです。 二十年ほど経って補修する時に見たので、先生に電話をかけて『あの脱出口って何でしょうか』と尋ねたんです。 すると先生は『あなたのような人は時々脱出した方がいいですよ。』と仰っしゃいました。 先生は私を思い詰めるタイプの人間だと思っておられて、そのような人には[脱出口]が必要だとの思いから作られたんですね。」
と、楽しそうに語っていました。 お城の玩具を通して和やかで芯のある師弟関係が垣間見えて、テレビを観ていた僕が大いに羨ましがったというお粗末。
*"NUTRISCO ET EXSTINGUO " 優れたものを自分のなかに育てて、良くないものはそれを滅ぼしていく ~ 大江健三郎 ・解釈~
こちらがその渡邊一夫の魅力をギッシリと詰め込んだ一冊です。
外箱とケース
表紙と見返し
「渡邊一夫|装幀・画戯|集成」(普及版) 渡邊一夫 串田孫一・串田光弘/装幀 定価8,000円 1982 一枚の繪株式会社
渡邊 一夫 (わたなべ かずお) は日本のフランス文学者。日本学士院会員。
ルネサンス期フランスのフランソワ・ラブレーやエラスムスなどの研究、及び『ガルガンチュワとパンタグリュエル』の日本語訳で知られる。 ―ウィキペディアより―
この本を見ると渡邊一夫のすばらしい仕事ぶりがうかがえます。 とりわけ大半をしめる装幀本の魅力は抜群です。 六隅許六(むすみ ころく)という別名で本を装幀し、師の辰野隆や中野重治や大江健三郎らの著書なども手がけています。 そのうち三点だけお姿を、あとは本書でタップリと。
「随筆寄席」第2集辰野隆 林髞 徳川夢声 (1・2集とも)/「ふらんす文学襍記」渡辺一夫自装/ 「青年へ」大江健三郎同時代叢書 10
装幀のほか絵画やスケッチや印刻や玩具などの図版がギッシリと詰まっていて、見て楽しく、参考資料としても上々です。
「辰野隆先生肖像」1942・3 油彩 /刻したさまざまな印
この本に載っている数ある作品の中でも僕が特に惹かれるのは「玩具」です。 渡邊一夫って、大変偉い先生で、怖そうなイメージなんだけど、 「玩具づくり」というたいへん高雅な遊びもなさったようで、この本に載っている図版を見る限り、これほどの腕前もさることながら、遊び心を持った大人はそんじょそこらにはいないでしょってくらいの本格派だと御見受けしました。御本人は「拙老の余技ならぬ本技玩具つくりの腕は上乗ならず、 拙劣なるは言ふをまたず、(略)」 と控え目で、そこはかとなくものを作る喜びをのぞかせておられます。
世の中には、何をやっても高いレベルで出来てしまう人っていますよね? 恵まれし人っていうのかなあ。 渡邊一夫は正しくそのような人ですね。 えっ! 僕はどうかって? いえいえ、とてもとても、決して決して、もしかしてひょっとして・・・・。 (しあわせですか?)
それでは、こんな玩具は如何でしょうか?
「ババの祝福されたパン」1972 木製 背側(左)/表側(右)
これは芳枝夫人のために作られたパン醗酵器です(車つき!)。 箱の背に描かれたオレンジの木は実をいっぱいつけ、枝々の間には夫人の業績がたくさん描き込まれているらしい。♡♡
そしてこちらはお城の玩具です。
シュノンソー城 1969・8 /テレームの島 1969・7
いろいろの玩具があるなかで、僕がたまらなく愉しいなっておもうのはお城の玩具ですね。 とりわけ僕がお気に入りなのは、弟子の、おっと渡邊一夫は弟子とは言わず教え子を「若い友人」と呼んだそうですが、その若い友人の大江健三郎に贈った「大江太守城」です。特別バージョンなんです。 このお城がいいんですよ~! 僕の好感神経を刺激しまくりです。 こんなの僕も欲しいんだけどなあ。 キッと貴方もそお思うハズ。 では見てみましょう!
「大江太守城」(1970・9) ジャ~ン、これが大江城だあ!
どうです? すばらしいでしょ! 貴方も欲しくなったでしょう?! まあまあ??
正面左にある紋章は、フランス・ルネッサンスの父といわれるフランソワ1世のエンブレムです。 リボンに書いてある文字はフランソワ1世の標語である "NUTRISCO ET EXSTINGUO "です。
その譯とその解釈はですねェ・・ぼく、フランス語なら得意なんだけど、ラテン語はちょっと・・。 大体は分かりますが、ここは正確を期するために本書から渡邊一夫先生の文章を引用いたします。
「我れは養ひ(はぐくみ)、また我れは消す(滅ぼす)」 となれど、 大江太守の高き志操と深き思慮とによつて、 このましきものを掬育し、邪なるものを絶滅せしむるの義に解するを恃む。
と、なります。 要するにその謂わんとするところはぁぁぁ・・、ぼく、漢字はたしなむ程度なので、*解釈の解釈については丸なげで貴方にお任せします。、
ところで、大江城には上の画像では見えませんが、うら側の石垣というか土台に小さな四角い穴が空けられていたんです。 その横に日本語で[脱出口]と書いた紙が貼ってあるんです。 で、この[脱出口]について興味深い話があります。 お話しましょうか? ♪やめろっと言われても 僕は云っちゃいますからね。 それは大江健三郎があるテレビ番組の中で「大江城」の話をしてるところを観ちゃったんです。あれはたしかズ~ッとチョッと前です。
「わたしは先生からこのお城を贈られた時、この[脱出口]があるのに気がつかなかったんです。 二十年ほど経って補修する時に見たので、先生に電話をかけて『あの脱出口って何でしょうか』と尋ねたんです。 すると先生は『あなたのような人は時々脱出した方がいいですよ。』と仰っしゃいました。 先生は私を思い詰めるタイプの人間だと思っておられて、そのような人には[脱出口]が必要だとの思いから作られたんですね。」
と、楽しそうに語っていました。 お城の玩具を通して和やかで芯のある師弟関係が垣間見えて、テレビを観ていた僕が大いに羨ましがったというお粗末。
*"NUTRISCO ET EXSTINGUO " 優れたものを自分のなかに育てて、良くないものはそれを滅ぼしていく ~ 大江健三郎 ・解釈~