ぼくのほんだな

フワフワしたノリやすい僕が本を中心にスキな話題だけを勝手気ままにお届けします。

ぼくのほんだな227・・「渡邊一夫|装幀・画戯|集成」と大江健三郎の「大江城」

2018年05月31日 | ほんだな
渡邊一夫ってお近づきになったことは、ない? まだなら、ぜひ!
こちらがその渡邊一夫の魅力をギッシリと詰め込んだ一冊です。

 
外箱とケース


表紙と見返し

「渡邊一夫|装幀・画戯|集成」(普及版) 渡邊一夫 串田孫一・串田光弘/装幀 定価8,000円 1982 一枚の繪株式会社

渡邊 一夫 (わたなべ かずお) は日本のフランス文学者。日本学士院会員。
ルネサンス期フランスのフランソワ・ラブレーやエラスムスなどの研究、及び『ガルガンチュワとパンタグリュエル』の日本語訳で知られる。 ―ウィキペディアより―

この本を見ると渡邊一夫のすばらしい仕事ぶりがうかがえます。  とりわけ大半をしめる装幀本の魅力は抜群です。 六隅許六(むすみ ころく)という別名で本を装幀し、師の辰野隆や中野重治や大江健三郎らの著書なども手がけています。 そのうち三点だけお姿を、あとは本書でタップリと。

  

「随筆寄席」第2集辰野隆 林髞 徳川夢声 (1・2集とも)/「ふらんす文学襍記」渡辺一夫自装/ 「青年へ」大江健三郎同時代叢書 10

装幀のほか絵画やスケッチや印刻や玩具などの図版がギッシリと詰まっていて、見て楽しく、参考資料としても上々です。

  
「辰野隆先生肖像」1942・3 油彩 /刻したさまざまな印

この本に載っている数ある作品の中でも僕が特に惹かれるのは「玩具」です。 渡邊一夫って、大変偉い先生で、怖そうなイメージなんだけど、 「玩具づくり」というたいへん高雅な遊びもなさったようで、この本に載っている図版を見る限り、これほどの腕前もさることながら、遊び心を持った大人はそんじょそこらにはいないでしょってくらいの本格派だと御見受けしました。御本人は「拙老の余技ならぬ本技玩具つくりの腕は上乗ならず、 拙劣なるは言ふをまたず、(略)」 と控え目で、そこはかとなくものを作る喜びをのぞかせておられます。
世の中には、何をやっても高いレベルで出来てしまう人っていますよね? 恵まれし人っていうのかなあ。 渡邊一夫は正しくそのような人ですね。 えっ! 僕はどうかって? いえいえ、とてもとても、決して決して、もしかしてひょっとして・・・・。 (しあわせですか?)

それでは、こんな玩具は如何でしょうか?


「ババの祝福されたパン」1972 木製 背側(左)/表側(右)

これは芳枝夫人のために作られたパン醗酵器です(車つき!)。 箱の背に描かれたオレンジの木は実をいっぱいつけ、枝々の間には夫人の業績がたくさん描き込まれているらしい。♡♡

そしてこちらはお城の玩具です。


シュノンソー城 1969・8 /テレームの島 1969・7

いろいろの玩具があるなかで、僕がたまらなく愉しいなっておもうのはお城の玩具ですね。 とりわけ僕がお気に入りなのは、弟子の、おっと渡邊一夫は弟子とは言わず教え子を「若い友人」と呼んだそうですが、その若い友人の大江健三郎に贈った「大江太守城」です。特別バージョンなんです。 このお城がいいんですよ~! 僕の好感神経を刺激しまくりです。 こんなの僕も欲しいんだけどなあ。 キッと貴方もそお思うハズ。 では見てみましょう!

「大江太守城」(1970・9) ジャ~ン、これが大江城だあ!

どうです? すばらしいでしょ! 貴方も欲しくなったでしょう?! まあまあ??

正面左にある紋章は、フランス・ルネッサンスの父といわれるフランソワ1世のエンブレムです。 リボンに書いてある文字はフランソワ1世の標語である "NUTRISCO ET EXSTINGUO "です。 
その譯とその解釈はですねェ・・ぼく、フランス語なら得意なんだけど、ラテン語はちょっと・・。 大体は分かりますが、ここは正確を期するために本書から渡邊一夫先生の文章を引用いたします。

「我れは養ひ(はぐくみ)、また我れは消す(滅ぼす)」 となれど、 大江太守の高き志操と深き思慮とによつて、 このましきものを掬育し、邪なるものを絶滅せしむるの義に解するを恃む。

と、なります。 要するにその謂わんとするところはぁぁぁ・・、ぼく、漢字はたしなむ程度なので、*解釈の解釈については丸なげで貴方にお任せします。、
ところで、大江城には上の画像では見えませんが、うら側の石垣というか土台に小さな四角い穴が空けられていたんです。 その横に日本語で[脱出口]と書いた紙が貼ってあるんです。 で、この[脱出口]について興味深い話があります。 お話しましょうか? ♪やめろっと言われても 僕は云っちゃいますからね。 それは大江健三郎があるテレビ番組の中で「大江城」の話をしてるところを観ちゃったんです。あれはたしかズ~ッとチョッと前です。

「わたしは先生からこのお城を贈られた時、この[脱出口]があるのに気がつかなかったんです。 二十年ほど経って補修する時に見たので、先生に電話をかけて『あの脱出口って何でしょうか』と尋ねたんです。 すると先生は『あなたのような人は時々脱出した方がいいですよ。』と仰っしゃいました。 先生は私を思い詰めるタイプの人間だと思っておられて、そのような人には[脱出口]が必要だとの思いから作られたんですね。」

と、楽しそうに語っていました。 お城の玩具を通して和やかで芯のある師弟関係が垣間見えて、テレビを観ていた僕が大いに羨ましがったというお粗末。


*"NUTRISCO ET EXSTINGUO " 優れたものを自分のなかに育てて、良くないものはそれを滅ぼしていく ~ 大江健三郎 ・解釈~
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ぼくのほんだな226・・「日本民話グラフィック」 灘本唯人 永井一正 宇野亜喜良 田中一光 横尾忠則

2018年05月02日 | 漫画・イラストレーション・アニメーション
あなたはこの本を見たことありますか? この本は今、見ても衝撃的です。 54年も前の本なのですが。 才能というマグマを溜め込んだ若い(当時)10人の作家が、それぞれの思いとそれぞれの方法で、時を得て、日本の民話を絵本という形でとらえ直し、思いっきり大激突、大噴火したって感じの仕上りです。 誰しもこの絵本をまのあたりにすればこんな事って起るんだねってキッと驚きますよ。 それだけの迫力があります。 ものを生み出す情熱には、見る者を巻き込みながら、時代を突き抜けていくまるでほとばしる奔流のような爽快感がありますね。

ケース表 (文字は無し)

おもて表紙 (シャレてますね。)


ケース表/背/ケース裏


うら表紙/背/おもて表紙

「日本民話グラフィック」 灘本唯人・永井一正・宇野亜喜良・田中一光・横尾忠則 灘本唯人/装幀 1964 2900円 美術出版社

本文の構成は

〈おどろおどろしき一寸法師を嫌悪する人に捧ぐ〉
「一寸法師」 絵:灘本唯人 文:滝来敏行

〈ある神様と文明の記録〉
「桃太郎」 絵:永井一正 文:梶祐輔

〈新・浦嶼子伝〉
「浦島太郎」 絵:宇野亜喜良 文:寺田澄史

〈ドロボウと警官〉
「花「咲爺」 絵:田中一光 文:坂上弘

〈堅々山夫婦庭訓〉
「かちかち山」 絵:横尾忠則 文:高橋睦郎

〈日本民話グラフィック〉によせて 「新絵詞説」滝口修造 「幸福感」 亀倉雄策

・装幀・扉構成 灘本唯人になってます。

中はどんなんかな?


「一寸法師」 (この大胆さ)

「桃太郎」 (このユーモア)

「浦島太郎」 (このエロティシズム)

「花「咲爺」 (この・・・・・)

「かちかち山」 (文字もおもしろいよ)

驚いたあ~? こ~ゆ~のって いいですね、なんか、こう、のびのび、伸びてる~って感じがして。 なかなか伸び切る!のってほんに難しいもんねェ。
作家たちご本人の気持ちは分かりませんが、このような作品を見ると僕は幸せになります。 いえ、僕だけでは無さそうで、この本の巻末に「幸福感」という一文を寄せてる亀倉雄策という人も僕と同じように感じたようで、 「自分の表現を出す幸福感」を語ってますが、ぼくは「表現されたものを受け取る側としての幸福感」を味わいました。 彼はよくポイントを突いていると思います。 なかなかのものですね。 僕も共感できてうれしいです。 (なにぃ!亀倉雄策をどなたと心得る。先の東京オリンピックのポスターを作られた大先輩であらせられるぞぉう、頭(ず)が高~い!)
僕はいつもそれほど不幸ではありませんが、このような本を見ると特別に幸せを感じます。 これぞ絵本です。 まさしく大人の絵本です。 文字までも見る絵本になっていますね。

この本が創られた時期は今に続く多くの才能が生まれ、育ち、たくましくぶつかり合っていました。 当時、グラフィックデザインの世界はまだまだ若く、キラキラしていて活気が溢れかえっていたんです。 他に絵本でいえば若き宇野亜喜良と横尾忠則がこれも実験的な絵本「海の小娘」 (「ぼくのほんだな 8」参照) を響作しています。
どちらも1960年代という時代と作家の饗宴が生み出した、みのり豊かなすばらしい成果だと思います。
では、これからも新たなショックを期待して、 シーユーアゲイン!
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