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(since 17 AUG 2005) |
自動着陸への道-運用編
PAXによる、なんとも大雑把な航空教室の続編です。
「自動着陸-だれでも出来るとは限らない」のモチベーションは、成田空港で早朝によく発生する放射霧の中をオートパイロットで見事に降りた、との話題でした。
ここまでは、悪天候下で自動着陸が許されるかどうかは、“運航に供される機材とそれを運航する乗務員の資格が必要である”ことを中心に述べてきました。
今回は、
-CAT III を実施するための運用面について
-自動着陸を実施するに当たっての飛行機側の運用制限について
を説明します〔もうぼろが出てるので今回でおしまいの予定です〕。
実は、CAT III の「自動着陸」で一番忘れてならないのは、地上の支援体制です。
【 SSP: Special Safeguard and Procedures 】とは、CAT II, CAT III 運航を可能にする必要条件が整っている体制のことをいいます。
必要条件とは;
☆航空保安施設(計器着陸装置 ILS の LOCALIZER, GLIDE SLOPE, MARKER BEACON )
(※ILS LOCALIZER のアンテナは着陸滑走路の末端にあり、GLIDE SLOPE のアンテナは着陸滑走路接地帯付近の横にあります。MARKER BEACON には、滑走路から遠い順に OM: Outer Marker, MM: Middle Marker, IM: Inner Marker の3種類ありますが、滑走路によっては OM が設置されていない場合もあります;成田 RJAA の Runway 16R には MM, IM しかありません。)
☆航空灯火施設(進入経路、滑走路の灯火類)
(※滑走路の輪郭・中心線を示す灯火、滑走路末端・終端を示す灯火、接地帯を示す灯火、誘導路輪郭・中心線を示す灯火、停止線灯、および進入灯などがあります。釧路空港の霧対策・航空視覚援助装置のページが、実際のイメージが湧きやすいかもしれません。参考までに、Jeppesen 社の Airway Manual に掲載されている進入路灯の図も↓に掲載しておきます;いささか古いですが....)
☆RVR機器(滑走路視程距離測定装置)
(※RVRとは、滑走路中心線上にある航空機のパイロットが滑走路面の標識、滑走路の輪郭または中心線を示す灯火を見ることができる最大距離のことで、パイロットの目線位置としては滑走路面上5mを想定しています。我が国では、滑走路面から2.5mの高さで観測を行なっており、観測機器の方式としては、透過率方式と前方散乱方式とがあります。)
が CAT II, CAT III 運航に供することができる状態にあること。
かつ
☆ILS制限区域が確保されている
(※前回も記しましたが、ILSの電波は指向性が強く高精度です。その精度を確保するためには精度を落とす要因となる撹乱(かくらん)を徹底的に防がねばなりません。そこで、ILSの電波が地上で撹乱されないように、ILS制限区域( ILS Sensitive Area とも言います)を設け、その中に撹乱の原因となる、他の航空機は言うまでも無く空港管理用の車両、人をも進入させないようにします。)
ことを言います。
「自動着陸」を行なう航空機側にも運用制限があります。
つまり、いくら“運航に供される機材とそれを運航する乗務員の資格”が共に要件を満たしていたとしても、暴風雨で風が荒れ狂うような悪天下では、地上支援側が完璧であっても、気象状況が航空機毎に決められている「自動着陸の運用制限」を超えているようならば進入は出来ない、ということです。
この航空機機種毎の「運用制限」は、航空機の製造メーカがマニュアルで定める値が先ずあり、さらにその航空機を運航する航空会社が独自の安全基準をもうけ、メーカが発表している値よりも厳しくしている場合もあります。
一例として、Boeing777 で「自動着陸」を実施できる気象上(風)の運用制限は;
Head Wind (真正面からの風の成分): 25 kt (風速約12m)
Cross Wind (横風成分): 25 kt (風速約12m)
Tail Wind (真後ろからの追風成分): 15 kt (風速約7m)
となっています。
風の他には、
-Flap は 20°か30°の何れかを選択すること
-Glide Slope の降下角度は 2.5°~ 3.25°の範囲であること
などが、要件として求められています。
さらには航空機の「自動着陸装置」そのものが正常に作動していることも当然のことながら“航空機側の運用制限”となります。
ここでも Boeing777 を例にとりますが、奴さんはハイテク機ですから EICAS: Engine Indication and Crew Alerting System というLCDパネル上にどのような不具合が発生したかが EICAS MESSAGE として表示されるようになっています。
(下の写真のように、通常のオペレーションでは、EICAS は2名のパイロットの間に表示させます)
例えば、「自動着陸」すべく進入中に
NO AUTOLAND と表示され Beeper が鳴った場合には、「自動着陸装置」に故障が発生したので自動着陸は使用できない、
ということです。また、
NO LAND3 と表示され Beeper がなった場合には、3系統の冗長性が損なわれた(例えば、1系統が他の2系統と違う状態に陥る)
ことを示します。
これらの(他にも幾つかあります)メッセージが表示された場合は、飛行状況下と表示されたメッセージに応じた適切な対応が求められます。
【本日のまとめ】
「自動着陸」を実施するためには、“運航に供される機材とそれを運航する乗務員の資格が必要である”ことに加え、
☆地上側が、SSP: Special Safeguard and Procedure 体制を確保していること
☆風の Head Wind, Cross Wind, Tail Wind 成分が当該航空機の運用制限範囲内であること
☆当該航空機が「自動着陸」を行なうための Configuration がとられていること
☆当該航空機の「自動着陸装置」が正常に動作しており、不適切な EICAS MESSAGE が表示されていないこと
の運用条件をも満たしていなければなりません。
PAXの大雑把「自動着陸」航空教室 は今回で終了(無事?着陸)です。
4回にもわたり拙い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
「自動着陸-だれでも出来るとは限らない」のモチベーションは、成田空港で早朝によく発生する放射霧の中をオートパイロットで見事に降りた、との話題でした。
ここまでは、悪天候下で自動着陸が許されるかどうかは、“運航に供される機材とそれを運航する乗務員の資格が必要である”ことを中心に述べてきました。
今回は、
-CAT III を実施するための運用面について
-自動着陸を実施するに当たっての飛行機側の運用制限について
を説明します〔もうぼろが出てるので今回でおしまいの予定です〕。
実は、CAT III の「自動着陸」で一番忘れてならないのは、地上の支援体制です。
【 SSP: Special Safeguard and Procedures 】とは、CAT II, CAT III 運航を可能にする必要条件が整っている体制のことをいいます。
必要条件とは;
☆航空保安施設(計器着陸装置 ILS の LOCALIZER, GLIDE SLOPE, MARKER BEACON )
(※ILS LOCALIZER のアンテナは着陸滑走路の末端にあり、GLIDE SLOPE のアンテナは着陸滑走路接地帯付近の横にあります。MARKER BEACON には、滑走路から遠い順に OM: Outer Marker, MM: Middle Marker, IM: Inner Marker の3種類ありますが、滑走路によっては OM が設置されていない場合もあります;成田 RJAA の Runway 16R には MM, IM しかありません。)
☆航空灯火施設(進入経路、滑走路の灯火類)
(※滑走路の輪郭・中心線を示す灯火、滑走路末端・終端を示す灯火、接地帯を示す灯火、誘導路輪郭・中心線を示す灯火、停止線灯、および進入灯などがあります。釧路空港の霧対策・航空視覚援助装置のページが、実際のイメージが湧きやすいかもしれません。参考までに、Jeppesen 社の Airway Manual に掲載されている進入路灯の図も↓に掲載しておきます;いささか古いですが....)
☆RVR機器(滑走路視程距離測定装置)
(※RVRとは、滑走路中心線上にある航空機のパイロットが滑走路面の標識、滑走路の輪郭または中心線を示す灯火を見ることができる最大距離のことで、パイロットの目線位置としては滑走路面上5mを想定しています。我が国では、滑走路面から2.5mの高さで観測を行なっており、観測機器の方式としては、透過率方式と前方散乱方式とがあります。)
が CAT II, CAT III 運航に供することができる状態にあること。
かつ
☆ILS制限区域が確保されている
(※前回も記しましたが、ILSの電波は指向性が強く高精度です。その精度を確保するためには精度を落とす要因となる撹乱(かくらん)を徹底的に防がねばなりません。そこで、ILSの電波が地上で撹乱されないように、ILS制限区域( ILS Sensitive Area とも言います)を設け、その中に撹乱の原因となる、他の航空機は言うまでも無く空港管理用の車両、人をも進入させないようにします。)
ことを言います。
「自動着陸」を行なう航空機側にも運用制限があります。
つまり、いくら“運航に供される機材とそれを運航する乗務員の資格”が共に要件を満たしていたとしても、暴風雨で風が荒れ狂うような悪天下では、地上支援側が完璧であっても、気象状況が航空機毎に決められている「自動着陸の運用制限」を超えているようならば進入は出来ない、ということです。
この航空機機種毎の「運用制限」は、航空機の製造メーカがマニュアルで定める値が先ずあり、さらにその航空機を運航する航空会社が独自の安全基準をもうけ、メーカが発表している値よりも厳しくしている場合もあります。
一例として、Boeing777 で「自動着陸」を実施できる気象上(風)の運用制限は;
Head Wind (真正面からの風の成分): 25 kt (風速約12m)
Cross Wind (横風成分): 25 kt (風速約12m)
Tail Wind (真後ろからの追風成分): 15 kt (風速約7m)
となっています。
風の他には、
-Flap は 20°か30°の何れかを選択すること
-Glide Slope の降下角度は 2.5°~ 3.25°の範囲であること
などが、要件として求められています。
さらには航空機の「自動着陸装置」そのものが正常に作動していることも当然のことながら“航空機側の運用制限”となります。
ここでも Boeing777 を例にとりますが、奴さんはハイテク機ですから EICAS: Engine Indication and Crew Alerting System というLCDパネル上にどのような不具合が発生したかが EICAS MESSAGE として表示されるようになっています。
(下の写真のように、通常のオペレーションでは、EICAS は2名のパイロットの間に表示させます)
例えば、「自動着陸」すべく進入中に
NO AUTOLAND と表示され Beeper が鳴った場合には、「自動着陸装置」に故障が発生したので自動着陸は使用できない、
ということです。また、
NO LAND3 と表示され Beeper がなった場合には、3系統の冗長性が損なわれた(例えば、1系統が他の2系統と違う状態に陥る)
ことを示します。
これらの(他にも幾つかあります)メッセージが表示された場合は、飛行状況下と表示されたメッセージに応じた適切な対応が求められます。
【本日のまとめ】
「自動着陸」を実施するためには、“運航に供される機材とそれを運航する乗務員の資格が必要である”ことに加え、
☆地上側が、SSP: Special Safeguard and Procedure 体制を確保していること
☆風の Head Wind, Cross Wind, Tail Wind 成分が当該航空機の運用制限範囲内であること
☆当該航空機が「自動着陸」を行なうための Configuration がとられていること
☆当該航空機の「自動着陸装置」が正常に動作しており、不適切な EICAS MESSAGE が表示されていないこと
の運用条件をも満たしていなければなりません。
PAXの大雑把「自動着陸」航空教室 は今回で終了(無事?着陸)です。
4回にもわたり拙い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
完
機会あるいはリクエストがあれば「特番」を組むかもしれません。
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