今回も Normal Operation から、ちょっとだけ外れたその隙を狙って、安全阻害要因が入り込んでしまいました。 如何に平常時の心で、かつ心にゆとりを持って、粛々とこなすことが大事であるかを再認識させられたとともに、それが、如何に難しいことかも痛感、日々、安全運航を行ってくださっている現場の方々の professionalism に頭がさがります。
今回とて、ほんの些細なボタンのかけ違いがなければ、Line Up する際に、ND の TCAS を見て “ Approaching traffic 6NM in final on TCAS. clear my side ” “ Clear my side, landing traffic still on runway ” “ Ready for take-off, standby for take-off clearance ” と、Cockpit 内では、ごく当たり前のやり取りになったでしょうし、 タワーも「ああ、溜まっちゃってるなぁ」の焦りも無く、ゆとりを持って捌いていれば “ RWY 01R Line Up and Hold, Approaching traffic 6NM in final ” との送信になっていたかもしれません。
やはり的を射たコメント、さすがです。
ネットの某記事によると、どうも管制官は「Expect Immediately Take-Off」という言葉を使ったらしいですね。
その、「Take-off」という言葉を聞いてパイロットは「離陸許可」勘違いした。
この記事によるとそういうことのようです。
もし「Immediate Take-off」できなかったら、後続の到着機は「Go around」することになるし、そしたらパイロットも管制官も困るでしょう。
もちろん、お客様も困ります。
離陸許可時以外に使う用語については1977年3月に起きた史上最悪の「テネリフェ事故」の後にさんざん議論されて対策が練られました。
「Take-off」という管制用語は紛らわしいから実際に離陸を許可するときだけにしか使わないようにしましょう。
という勧告がこの事故の後に出されました。
それに従い
「離陸許可をキャンセルします」
という用語は
「Cancel Departure Clearance」
という用語に改められました。
しかしつい最近、管制方式基準の改定があり、
「意味が分かりにくい」
との理由で
「Cancel Take-off Clearance」
という言葉に変わってしまいました。
今回も管制官は「Take-off」という言葉を使っています。
「Take-off」という言葉を実際の離陸許可時以外に使うのはいかに危険かという事例が再び起きてしまったということでしょうか。
どうせいつものように「誤解を招く指示を出した管制官」や「確認を怠ったパイロット」を非難する声が上がるでしょう。
ただ、これを彼らだけの責任にするのはどうかと思います。
航空業界全体が「テネリフェ事故の教訓」を忘れてしまっている気がします。
コメントをありがとうございました。
ATC代表さんこそ流石です。現場の方からの貴重なコメントは、門外漢の偏屈親爺の駄文とは雲泥の差、的確な上に重みがあります。
前後しますが、
> 航空業界全体が「テネリフェ事故の教訓」を忘れてしまっている気がします
については、昨年の本邦航空行政を見ていて私も少なからず感じていた点でした。
本邦の航空関係の方々のその多くは『テネリフェ30年』をきっかけにレビューをした筈です。
広義の“エアマンシップ”ですわね。
ただ、航空行政としてみたとき、あるいは業界のスクラムとしてみたとき、何か本邦から感じられるパワーが少ないと思ったのは爺の偏屈または欧米気触でしょうか。
FAA でも IFATCA でも EuroControl でも“Tenerife 30 Years Later”をある意味過剰と思えるほどにとりあげてました。
(メモリアル好きな欧米人のやりそうなことだ、と言われればそれまでですが....)
本邦でも一昨年秋に大々的な管制方式基準の改定があり、管制用語からクリアランス発出・取消に至るまで随分と大幅な改定でしたね。ATC代表さんはその最前線にいらっしゃるので、様々な改善提案にも気付いておられることでしょう。
本邦でも現場の方々が、問題意識を持って Runway Incursion からみた管制用語はこうあるべき、発出はこうあるべき、といった議論がなされているようで、心強く思っている次第です。
「心通い合う管制」は現場の方々の空の安全へ一丸となっている皆様の絆が根底ですものね。
さて、交信内容が報道され、またまた“たら・れば”のマスコミが活気付き、とある航空評論家の先生はモラールまで持ち出して、何か、会社の労務の手先みたいなことを仰っておりますが、まったく、がっくりを通り越し苦笑してしまいました。
本件、ATC代表さんがコメントして下さったように、現場としてはほんとうに奥が深い問題だと思います。
今回も Normal Operation から、ちょっとだけ外れたその隙を狙って、安全阻害要因が入り込んでしまいました。
如何に平常時の心で、かつ心にゆとりを持って、粛々とこなすことが大事であるかを再認識させられたとともに、それが、如何に難しいことかも痛感、日々、安全運航を行ってくださっている現場の方々の professionalism に頭がさがります。
今回とて、ほんの些細なボタンのかけ違いがなければ、Line Up する際に、ND の TCAS を見て
“ Approaching traffic 6NM in final on TCAS. clear my side ”
“ Clear my side, landing traffic still on runway ”
“ Ready for take-off, standby for take-off clearance ”
と、Cockpit 内では、ごく当たり前のやり取りになったでしょうし、
タワーも「ああ、溜まっちゃってるなぁ」の焦りも無く、ゆとりを持って捌いていれば
“ RWY 01R Line Up and Hold, Approaching traffic 6NM in final ”
との送信になっていたかもしれません。
と、ここで“たら・れば”を論じたのでは、どこぞの方々と同じ穴の狢ですから、止めにしましょう。
これをきっかけに、また一つ、安全レベルが向上することを願ってやみません。
勉強させてもらっています。ありがとうございます。
今事例、とても深いbackgroundがあるのですね。
想像もつきませんでした。
ですが、安全アドバイザリーグループ様からの
ご提案でもある「確認会話」を
運行、客室、整備をメインに全社をあげて
取り組んでいる現在、
それが実行されなかったという点がみられる
今事例では、まったく言い訳できません。
確認会話不足に対するPAX様のご意見が
”- Runway Incursion 対策”の
1番に来ていないのが運行部門への不安に感じます。
コメントをありがとうございました。
ご指摘いただいた点、運航部門に不安を感じる、に関しては、多くの方々からそう捉えられても仕方ないと思います。
小生も、端的に片付けてしまうのなら「何やってんだ、しっかりせいや」となってしまうでしょう。
Cockpit Crew は今回の重大インシデントの最終局面にあった訳ですし、多くの場合において、運航の最前線に立たされるので、それだけ責務も大きいと言えましょう。まろんさんがご指摘の「確認会話」も常に徹底しなければならない責務を負っています。
贔屓目と言われること覚悟で書きますが、当該便のCockpit Crewを含め、Pilotの方々は常に安全運航へ全力を尽くしています。
今回の事例でも、決して意図的に「確認会話」を疎かにした訳ではありません。
離陸時はそれでなくともWorkloadが多く、注意を払わねばならないことが沢山ありますし、お天気良好の場合でも極めて緊張するフェーズです。勿論、Cockpit にいた3名(JumpseatのF/Oも含む)は、みなライセンス保有者でプロフェッショナルなのですから、結果論としてみたときに、不注意があった、注意力散漫であった、と言われても仕方ないでしょう。
が、日々の運航において、置かれる状況は千差万別で極論すると二度と同じ状況はあり得ません。そのような中、最前線のPilotに完璧を求めるのはチト酷かと思います。求めることは結構ですし、求められたパイロットもそれに応えるべく、プロ意識とモラールをみせてくれることでしょう。でも、パイロットとて人間、ミスをする可能性は誰にだってあることも事実です。
今回の事例では、悪天候やそれに伴う平常時とは異なる空港運用、そしてそこから生じたATCでの交信、と様々な要因とそこから生じるちょっとしたことが連鎖となって、防護ネットを潜り抜け、このような結果に至ってしまいました。
反則技の“たら・れば”ですが、仮にタワーからのLine Upの指示に使われたフレーズが異なっていれば、あのような事態になってなかったかも知れませんし、あるいはそれでも起こってしまったかもしれません。
不謹慎とのお叱り覚悟ですが、あのままTake-off rollを開始し、離陸滑走続行していたも、100kt~V1 寸前で何かが起こり Reject(離陸中断)でもしない限り、先行着陸機との安全間隔(垂直を含む)は確保され、何事もなかったかもしれません。あくまで仮定ですが。
まろんさんのご指摘、尤もです。それを真摯に受け止めなければなりません。
ただ、パイロットだけの問題で片付けると、また同様の事例が起こります。
過度に懐疑的になるのもどうかとも思いますが、パイロットも含め運航にたずさわる皆が、ひいては航空界全体が、ミスや安全阻害要因の連鎖を防ぐべく、現状をしっかり見つめて、より良い策を探してその有効性を確認し、より安全な運航が担保されるよう、一丸となって取り組んでくれる〔今でも皆さんは真剣に取り組んでおられると確信しています〕ことを願っています。
また、それを全面的に支援するような社会にすることも大事なことだと考えます。
・インシデント発生時は降雪がとても激しかった
・当該機はデアイシング後、ほぼ1時間が経過しようとしていた
・管制官の最後の指示に対して、当該機からの返事は「了解」だけであった
という発表から推測すると、PIC(機長?)の勘違いによる可能性が高いのではないか、と考えています。
滑走路の除雪や順番待ちなどのため、激しい雪の中を、デアイシングの限界とされる1時間に達する直前に自分の順番が来れば、「早く離陸しよう」という気持ちが出てくるのは、十分理解できます。
が、たぶんもっとも気持ちが焦っていたのは機長で、副操縦士は管制の指示を正しく理解したため、「了解」とだけ返事をし、復唱はしなかった。が、その無線を聞いた機長はさっさと離陸操作に入ってしまい、結果、インシデントが発生した、と考えます。
コクピットには副操縦士のほかにもう1名乗員がいたということですが、3名の間の意思疎通に問題があったのもたぶんまちがいないと思いますし、もしかすると機長が威圧的な態度をとっていたのかもしれません。
実際の機体の状態がどうだったかについては、発表を見た記憶がないのですが、翼の状態はかなり悪かった可能性もあり、結果的に離陸を中止することになった今回のインシデントは、より大きな事故を防いだ可能性もあると思っています。
コメントをありがとうございます。
ご指摘のように、当該便のCockpitはPICが左席でPF、OJTが右席でPMのCo-Pilot duty、F/OがJump SeatでOJTのスーパバイズをしていたようです。
OJTと言えども、国土交通大臣が発行する事業用操縦士の技能証明(当該機種の型式限定)と有効な航空身体検査証明を所持して“機長以外の操縦者として航空運送事業の用に供する航空機の操縦を行うこと”と航空法で認められた業務をしているので、誤解なきようにお願いいたします。
「G氏」さんが記された状況のようなCockpit内の様子、ことに Crew Coordination, CRM の観点から、であったかは現時点では知る術がないのでコメントは差し控えますが、たとえ PM が OJT であってもプロはプロ、甘えは許されるものではないと考えています。
コックピット内の権威勾配については、難しい問題ですが、仰るとおり重要です。
権威勾配が原因で起こったと思われる事故やインシデントが今の時代になっても無くならないのは残念なことです。
(昨年のYOGYAKARTAでのガルーダ、秋田での誘導路への着陸などは不適切な権威勾配が根底にあったようです)
企業内事故調査担当です。
事故調査担当といえども、再発防止を目的としての事故調査なので、この重大インシデントは気になります。
CRMの導入の目的と効果が「よくわからない」という訓練経験者の声を耳にしたことがあります。確かに主観的に評価するのは難しいものと思われますが、このたびの件で、「よくわからない」意味が露呈したものと思われて残念でありません。ある意識的極限状態における訓練がなされていなかったのではないでしょうか。
LOSAの導入でも、権威の勾配から交信のあるべき姿までコミュニケーション関連の「項目」が抜けていたのではないかとさえ思われます。
航空会社の安全に関する売り文句は、エアライン選びの参考にはならないかもしれないと思いましたね。
この件の主原因は管制にあると思いますが・・・。
Expectは Expediteと混同しやすいし、以前は「Expedite」という言葉を使って指示するケースが離陸時にもあったとか。
今はそういう指示はされないらしいですが、昔から飛んでいる人は、ついついそういう聞き取り方(先入観とか希望的聴取)をすることもありそうです。
やはり、この場面ではもう少し、管制官は言葉を選んで欲しかった。「Expedite Line up & waite」とか。
そして、パイロットは「ラジャー」で済ませるのじゃなくて、ちゃんと「Runway 000 Clear for take off」と交信して欲しかった。そうすれば、すぐに(走り始める前に)「Negative」と止めてくれた可能性は高い。
毎年欧州中心に100フライト以上している一般人です。
TVでこのニュースを見てExpect immediate take off
という言葉、非常に気になりました。
待機するのにimmediate take offなんて言葉を使うのが何故許されているのかと。
管制さんもhurry up syndoromeだったんでしょうが、
テネリフェ事故の教訓が生かされてないのでしょうか?
英語にはExpectabilityという言葉(造語?)があるそうです。
日本語や英語など通常会話するときには全ての単語が
明瞭に聞き取れているわけではない、文脈や文法から
本当は耳で聞き取れていない単語を脳内で補足し、
会話が成り立っていると。
だからその言葉の成り立ち(文法)や会話の背景、
文化などを知らないと、いくら多くの単語を知っていても会話能力が劣ることになると。
雪で急いでいるパイロットがimmediate take offだけ
聞こえたら離陸許可を得たと考えてしまうのも当たり前だと思います。
今回の事故はどう考えても管制側が原因だと思います。
英語が母国語でない国では馴染みが無く困難かもしれませんが、管制用語の改定とその徹底が強く望まれます。