海鳴記

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日本は母系社会である(9)

2017-01-03 12:36:25 | 歴史

                            (9)       

 それでは、「東歌」や「防人歌」のどこに母系(ぼけい)優位(ゆうい)の習俗(しゅうぞく)なり、形跡(けいせき)が読(よ)み取(と)れるのか当(あた)ってみよう。

 ①「誰(だれ)そこの屋(や)の戸(と)押(お)そぶる新嘗(にうなみ)に わが背(せ)を遣(や)りて斎(いは)ふこの戸を」*(14・3460)

*( )内番号(ばんごう)は、『万葉集(まんようしゅう)』の巻数(かんすう)と一巻(いっかん)からの通(とお)し番号を表(あらわ)す。

  これは古代において、女性が神聖(しんせい)な新嘗(にいなめ)の祭儀(さいぎ)を担(にな)っていたという例(れい)として、古典(こてん)研究者(けんきゅうしゃ)や民俗(みんぞく)学者(がくしゃ)によく引(ひ)き合(あ)いに出される歌のようである。万葉集の東歌(あづまうた)と分類(ぶんるい)されている巻(まき)十四にある。この歌の解釈は、「だれですか、この新嘗(にいなめ)の神聖な日(夜(よる))に私の家の戸を押したりゆさぶったりしているのは。夫(おっと)を外(そと)に遣(や)って祀(まつ)りごとをして籠(こも)っているというのに」(阿蘇(あそ)瑞枝(みずえ)訳(やく)参照(さんしょう))だが、いわば夫の留守(るす)をねらって女に言(い)い寄(よ)ろうとしている男を咎(とが)めている、というのが古典文(ぶん)学者(がくしゃ)の一般的(いっぱんてき)解釈(かいしゃく)だ。現代(げんだい)と変(か)わらない男と女のやり取りが想像できるし、微笑(ほほえ)ましくなる。

 ただここで問題(もんだい)なのは、今年(ことし)収穫(しゅうかく)した稲(いね)を神(かみ)に捧(ささ)げ、お祭(まつ)りするのが女性で夫ではないことだ。民俗研究者は、これは母系社会の習俗(しゅうぞく)と捉(とら)えている。但(ただ)し、異論(いろん)はある。しかしここで異(こと)なる見解(けんかい)に言及(げんきゅう)し出すと、込(こ)み入ってくるので、別(べつ)の機会(きかい)に譲(ゆず)って先(さき)に進(すす)める。

 次に①とほぼ同内容(どうないよう)の歌を掲(かか)げる。

②「にほ鳥(どり)の葛飾(かづしか)早稲(わせ)を饗(にへ)すとも その愛(かな)しきを外(と)に立(た)てめやも」(14・3386)

 これも巻十四の東歌の中にある。内容は、「私の家で葛飾(かつしか)早稲(わせ)の初穂(はつほ)を神(かみ)に供(そな)えて祀(まつ)る神聖な夜(よる)に、あの愛(いと)しい人を外(そと)に立たせておくことができようか」(水島(みずしま)義(よし)治(はる)訳(やく)参照(さんしょう))である。①は夫(男)がどこに出かけているのか、或(ある)いはどこにいるのかよくわからなかったが、ここでは妻(つま)(女)が家(いえ)に籠(こも)って神にお祈(いの)りを捧(ささ)げている間(あいだ)、どこか家の周辺(しゅうへん)で手持(ても)ち無沙汰(ぶさた)にして待(ま)っているように思える。その夜(よ)は逢(あ)えないとわかっていても。

 これらは深(ふか)く考(かんが)えない限(かぎ)り、私には「邪(や)馬(ま)台(たい)国(こく)」の女王(じょおう)<卑弥呼(ひみこ)>以来(いらい)の伝統(でんとう)をそのまま引(ひ)き継(つ)いでいるようにみえる。つまり、3世紀(せいき)の『魏(ぎ)志(し)倭人伝(わじんでん)』に描(えが)かれた日本の統治(とうち)機構(きこう)の構図(こうず)を、8世紀ごろの家庭(かてい)や家族内(かぞくない)に移行(いこう)できるとすればだが。

 結論的(けつろんてき)にいえば、これらの二(ふた)つの歌から、当時(とうじ)の女性は、<家>における祭祀(さいし)主体者(しゅたいしゃ)である可能性(かのうせい)はあると言えるだろう。

 ただ折口(おりぐち)信夫(しのぶ)は、「大嘗祭(だいじょうさい)の本義(ほんぎ)」で、この二つの歌を並(なら)べ、「新嘗の夜の、物忌(ものい)みの有様(ありさま)の見えて居(い)る歌である」としているが、別の論考(ろんこう)では女を神人(かみびと)(巫女(みこ))と定義(ていぎ)している。だが、この論議(ろんぎ)もまた別な機会(きかい)に譲(ゆず)ろう。  

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