今月末には中国山東省に戻るとあって、
パスポートの更新、持っていく薬・本・文具等の準備、旧友との交友など、
日々駆け回っていますが、
今夜8時過ぎに家に戻ってパソコンを開くと、
山東省菏澤学院1年生(9月から新2年生)からメールが届いていました。
7月初めに受けた日本語能力試験(N2)に合格したとのこと。
菏澤学院で1年生がN2試験に合格したのは韋彤さんに続き2人目です。
驚いたことには、満点180点のうち177点という高得点。
菏澤学院始まって以来の点数であることはまちがいありません。
実は、このZHAOさん、
小学校では伸び伸びやんちゃな子でしたが、
中学校で勉強に目覚めると同時にめきめき成績が上がり、
高校入試では県で10位以内に入るトップクラスの成績を収めた学生です。
しかし、あまりに周囲の期待に応えようと頑張り続けているうちに
重圧に押し潰され、2年生から不登校になってしまいました。
彼が再び登校したのは大学入試の日だったそうです。
それで菏澤学院に入学してきました。
ZHAOさんの校内スピーチ大会での発表は次のようなものでした。
ーーー「自分の幸せも大切にね」 趙祖琛 ーーー
「あなたは本当に面白い人だね。」
「いつも頑張っていますね。」
私は高校時代によく先生に褒められました。
その頃私のイメージは、百%ポジティブ、
明るく、元気で頑張り屋というものでした。
でも、実は、その時の私はそんなに楽ではなかったんです。
眠れない日々が続いて、死んだほうが楽だと思ったことすらあります。
「他人に幸せをあげるだけじゃなくて、自分の幸せも大切にしてね」
大学に入ってから、母校の朱先生を訪問したとき、そう言われました。
朱先生は癌という難しい病気を抱えています。
命がどれほど大切か、その先生はきっと分かるのでしょう。
私の心の中を見透かす言葉でした。
「完璧な人になろう、周りの人を楽しませよう。」と考えながら生きていた私は
確かにたくさんの友だちを作りました。
そして、いい成績も取りました。
でも、他人の期待に応えることばかり気にしてきた私は、
自分のためにどのように暮らせばいいのか、全然分かりませんでした。
人間という生き物は複雑です。複雑で豊かな感情を持ってこそ、
人間だと言えるのでしょう。
しかし、私は、その「感情」という最も大切なものを
どこかに落としてしまいました。
小説を読んでも、登場人物の気持ちが深く味わえません。
周りの人が笑えば、私も笑います。
でも、なぜ笑うかよく分かりません。
しかし、生きることが一番苦しかったとき、私は、ある歌に出会いました。
歌詞の中で、女の子は死を選びます。
でも、死ぬ前に、彼女はまだ生きることを求めていたんです。
「精一杯勇気を振り絞って 彼女は空を飛んだ
鳥になって雲を掴んで
風になって遥か遠くへ
希望を抱いて飛んだ~
生きて 生きて 生きていたんだよな ♪」(註)
気がつくと涙が勝手に溢れ出ていました。
(私は、涙を流すことができる。まだ、自分の感情を心に持っているんだ!
私には、まだ、生きる力がある。)
そう思って、未来を信じて、生き続けることを選びました。
「他人に幸せをあげるだけじゃなくて、自分の幸せも大切にしてね。」
と言ってくださった朱先生。
私は今、大学で、自分の暮らしを始めました。
自分の目でこの世界をよく見て、人々の声を聴いて、体験して、
自分のための生活を楽しみます。
先生、また、先生のところに行きます。
先生も、どうかお元気で!
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中国の受験勉強の過酷さは日本の比ではありません。
高校生の中にはあまりのストレスに耐えかねて
大学進学を諦める者も少なくないし、
受験の半年前ほどから鬱病になる子もいるそうです。
不登校になった趙さんが菏澤学院に来たのは
(なんだ、こんなにのんびりしていてもいいのか)
と気がつくことができて、
彼自身にとってかなり良かったのでは、と
内心私はほくそ笑んでいたのですが、
持ち前の完璧主義でこんな高得点を出してしまった趙さんが、
周囲とのギャップに苦しまないことを願ってやみません。
もうすぐ、新学期。
さあ、ぼちぼち心のエンジンをかけないと。
(註)「生きていたんだよな」(あいみょん)
趙さんの快挙!やはり教師の指導の賜物ですね。
帰っていく楽しみが増えて、足取りが軽くなったことでしょう。
そういえば、私の小学6年生の時の担任の先生が、90歳を超えてお元気でおられ、時々お便りしていますが、そろそろまた、お便りを差し上げなくては!と思いました。
大和撫子を絵にかいたような控えめで静かな先生です。私にないものをお持ちなので、今なおお慕いしています。
日本の学校で働いてきたときから、休暇の終わりにはいつも、いつも、(これから先、自分に教師が務まるだろうか。今までやってこれたのが奇跡だよ)とクヨクヨ思ったものです(今も同じ(笑))。でも、そんな私を励まし、鼓舞してくれるのが学生達の努力です。学生達に背中を押されて今までやってこれたというのが事実です。
学生はよく「どんな先生にめぐり会うかが重要です」と言いますが、教師にしてみれば「どんな学生に遭遇するかで教師生活が決まる」というほど、学生の存在は大きいものがあります。
また一年生が入学してきますよ~。ドキドキ……。
いたいけな子どもが「寝るのも仕事の一つで、自分にとっては休息ではありませんでした」というまで必死に頑張り、頑張り、袋小路に追い詰められていく過程を聞くのは、私も苦しかったです。感情まで干からびるほど懸命に丸暗記の勉強ばかり……。
でも、「自分はまだ、涙をながすことができる」という言葉は、読む私たちの生きる勇気をも喚起してくれますね。
子どもも大人も、涙で心を洗い流しながら、また、今日の一日を始めていくのですね。