2012年の本屋大賞一位受賞作品、三浦しをんさんの「舟を編む」。
毎日少しずつ読み進めていくつもりでしたが、登場実物それぞれの熱い思いと悩み葛藤しながら成長してゆくひたむきな「一生懸命さ」、“言葉”を愛する気持ちに冒頭2ページ目で惹きこまれ、一気に読破してしまいました。
「ずっとこのままでいたい。いつまでもこの本を読み終えたくない。」と強く願ったのに・・・
―――― 辞書は、言葉の海を渡る舟だ。
ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。
もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。
もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう。
海を渡るにふさわしい舟を編(あ)む ――――
MF絞り優先AE、SS1/60秒、F1.4、EV0.3、ISO160、スポット測光
中学高校と幾度となくお世話になった辞書。
広辞苑は24万語。
大辞林で23万語を収録。
それぞれの言葉をほんの数行で意味や背景、用例などを簡潔且つ的確に解説したものだけれど、ちょっと待って。
それを二十数万って、よくよく考えたらすごい話しじぁないですか??
しかもこれらは当たり前だけれど、「ひと」の手によって作られたもの。
星の数ほどある無数の言葉の中から何と何をチョイスするか。
その言葉をどんな風に解説するのか。
100人が読んだら100人ともが 「あ、なるほど。」 と納得出来るものでなくてはならない。
編集に携わる人だけではない。
一回二回で終わりではなく、より良いものを更により良くにするために何度も何度も繰り返し厳しい目で校正する人がいる。
一片の風が吹けばはらはらと舞い散る桜の花びらのように、軽やかに、でも重なることなく確実に一ページずつめくれなければならい紙を作る人がいる。
その、風の如く軽やかで薄い紙の裏面に透けないよう最適のインクを作り、絶妙な文字の太さ濃さ大きさで印刷する人もいる。
しかもそれは、製本され「売ったらおしまい」ではない。
言語は時間、時代と共に変遷する。
気が付けば静かに変化を遂げている 「いきもの」 である言葉に新語、新情報を補充し、十数年ごとに見直し改訂を繰り返して育て続けていく。
一冊の辞書を作り上げるという、気の遠くなるほど長い時間と多大な労力は、そのままそのひとの人生であると言える。
深い愛情と強い熱情がなければ到底生み出すことは出来ない。
言葉って美しい。
もろくて強い。
これは一冊の辞書を作り上げる、出版社の弱小チームの物語り。
辞書作りと共に自身らも成長していく、熱くて悲しくて微笑ましい、愛すべき物語り。