竹林の愚人  WAREHOUSE

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なぜイノシシは増え、コウノトリは減ったのか

2007-04-26 17:35:56 | BOOKS
平田剛士 「なぜイノシシは増え、コウノトリは減ったのか」 平凡社新書 2007.03.09. 

イノシシはシカやサル、クマと並んで人間の農業生産にとって最も強力な競合相手である。農作物への食害は1970年代以降に激化した。このころ全国で増大し始めた耕作放棄地にススキやクズ、ワラビといったパイオニア植物が繁茂し、それらを好むイノシシたちが爆発的に繁殖した。駆除や懸命の防除策にもかかわらず、被害はあらゆる作物に及び、過去15年間で本州・四国・九州の農業被害面積は1万5,000ヘクタールから2万ヘクタール、被害金額にすると40億円から50億円の間で推移している。 狩猟は野生動物を山奥に追い上げるためのアプリケーションだ。深刻な農作物食害が続くなか、狩猟は欠かせない「ツール」なのだ。 2004年に全国で捕獲されたイノシシ約25万3,000頭のうち、7割近くは「狩猟」で捕殺されている。この高い狩猟圧は、いま比較的旺盛な牡丹肉需要によって維持されているが、近年のハンター人口の高齢化で近い将来激減してしまう可能性がある。 狩猟者が減ると窮地に立たされるのは、各地の農家や林業家たちだ。作物に鳥獣害が出て自分や家族の手に負えない場合、捕獲(駆除)を委託するのは地元の猟友会所属のハンターたちだが、その担い手が地域からいなくなってしまう。農村・山村の景観をはじめ、生産に限らない農林業の「多面的機能」の保全が叫ばれながら、野生動物に対する”防衛力”は弱まるいっぽうだ。 鳥獣保護法に基づく特定鳥獣保護管理計画を進める地方自治体にとっても、地域のハンター人口の高齢化や減少は悩みの種だ。 たとえば北海道庁は、農林業や森林生態系に深刻な影響を与えている「増えすぎたシカ」の個体数を1980年ごろのレベルに押し戻すことを目標に、1998年から保護管理事業を進めてきた。道内で人為的な捕獲圧力がかからなければ、道内のシカは年率約2割で増加し続け、6年放置すれば3倍に増える。そんな状況で、今後、生息数を現状維持させるには年間7万~10万頭を捕獲し続ける必要があり、今後シカの増加と、生息地周辺における森林生態系の荒廃は避けられないだろう。 これからは質の高い狩猟者の育成が重要だ。