竹林の愚人  WAREHOUSE

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トヨタとインドとモノづくり

2007-04-20 11:29:31 | BOOKS
島田 卓 「トヨタとインドとモノづくり」 日刊工業新聞社 2007.03.15. 

1997年、インド・プロジェクトがスタートした。トヨタがパートナーに選んだのは創業は農具メーカーのキルロスカ・グループであった。産業用ディーゼルエンジンではインドナンバーワンだが車づくりの経験は全くない。モノづくりの心を持っていることが大きな決定要因となった。生産車種は多目的車キジャン。インドネシア工場が生産するブランドで、排気量がディーゼル車は2500cc、ガソリン車では1500ccとカローラ・クラスだが、車内が9人乗りと広いため、個人用だけでなく、タクシーや小型バスとしても人気があった。しかし、デザイン面の古さが目につく一世代前のモデルである。要は型落ちだった。 今回のプロジェクトはどんなに試算し直しても採算が成り立たない。インド市場を握る国内メーカーによって車の市場価格が極めて低く押さえられてしまっているためだ。そこで窮余の一策として考え出されたのが、他国の工場でつくられていた車種をプレス型ごとインドへ持っていく、というセコハン活用計画だった。発売名は『クオリス』。ずばり?品質″を看板にした。工場立ち上げには3つの要素が必要だという。1つはハードであり、設計し、建物をつくり、設備を入れ、それに使う型やツールを用意する。次はソフトで、ハードを使ってどのように生産するか、その仕組み(システム)、方法を考える。最後は人で、ハードを用い、ソフトに則って車をつくれるように、教育・訓練を行うのである。トヨタがインドに持ち込むのは、自動車という単なる一商品ではない。材料から生産、販売、サービスと、一貫した自動車社会をつくるのだ。 インドという国はルールにはかなり無頓着で、安全のための行動指針や4S(整理・整頓・清潔・清掃)の徹底については相当な時間がかかった。4Sと安全のための行動指針はトヨタの車づくりにとって、技能・技術と同じぐらい根幹的なものとされている。トラブルや危険を事前に徹底排除するというだけでなく、皆がルールを守るという暗黙の秩序があってこそ、トヨタ生産方式が初めて成り立つから、それを守るための教育は時間をかけ繰り返し行われてきた。 2006年、トヨタ自動車は次年度のグローバル生産台数を847万台と発表した。この数値が達成されるとトヨタは世界一の自動車生産企業となる。バンガロール工場の生産台数は年間数万台とグローバル生産の1%にも満たないが、2015年にはインド自動車市場の15%、45万台を取りに行く。このため、小型車市場への参入と、いよいよ第2創業期に突入する。 グローバル化には、その社のモノづくりの思想をしっかり守りつつ、現地の人材を育て上げるという作業が必要で、人材を日本人にだけ限定していては真のグローバル企業にはなり得ない。少子高齢化が進行する日本では、人材の確保も国際化しないことには、産業事態がやがて成り立たなくなる。しかし、インドを有効な人材資源の国と考える日本人はきわめて少ない。インドにはまだ多くの人材がその能力を活かされないまま眠らされている。