Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

「フレデリック・バックの映画」公開初日に見てきました

2011年07月03日 | アニメ
神田の神保町シアターで「フレデリック・バックの映画」4本立上映の初日に行ってきました。





ジブリ美術館がらみの上映会といえば、これまでは渋谷のシネマ・アンジェリカが定番だったので
神保町シアターに行くのは初めてでしたが、新しい設備や小劇場のわりにゆったりした座席など、
鑑賞時の快適さはアンジェリカよりも格段に上質。
今後はここを拠点にジブリ配給作品を上映していくというスタイルが定着するといいですね。
・・・オーナーが吉本興業なので、ロビーの半分を吉本芸人グッズが占めているのはちょっとアレですが(^^;。

○『木を植えた男』
最初に上映されたのは、バック氏の代表作で2度目のアカデミー賞を受賞した「木を植えた男」。
戦争や開発、あるいは政治への風刺という側面でもよく知られた作品ですが、そのメッセージが
強い説得力を持つのも、何よりも映像表現が抜群に優れているからでしょう。
インターネットによって誰でも発言者になれる今こそ「何を語るか」以上に「いかに語るか」が
大切になってきていると思います。
いま求められているのは、わかりやすい「正しさ」を振りかざすことではなく、それを納得させる
優れた表現力なのではないか・・・バック氏の作品を見て、そんな思いを強く持ちました。

○『大いなる河の流れ』
「木を植えた男」と並ぶ長さの作品「大いなる河の流れ」は、セント・ローレンス川を巡る歴史から
カナダの開拓とそれに伴う自然破壊を振り返る作品。
テーマ的にやや教科書的な硬さも感じますが、土地の歴史を人の営みと絡めて丹念に語るスタイルの
頂点に達したともいえる、現時点でのバック氏の集大成です。

線と色の流れで紡がれる物語は、バック氏の作風そのものが「水」のイメージに近いことを感じさせます。
そんな中で、人間の暴挙による殺戮と自然破壊は、まさに「汚れ」や「澱み」そのものに見えました。
水をめぐる物語として「崖の上のポニョ」に通じる点もあるので、両者を比べてもおもしろいかもしれません。

○『トゥ・リアン』と『クラック!』
識字率の低かった時代、民衆に情報を伝えるために最も重要なメディアが「絵画」であったことは
多数の宗教画や歴史画からも明らかですが、バック氏の作品にもそれらに通じるわかりやすさとか、
人間の根っこにある原初的な感覚を揺さぶるものがあるように思います。
その点で「木を植えた男」以上に重要な作品かもしれないのが、映像詩のような「トゥ・リアン」や
「クラック!」といった小品。
なお、フランス語でTout-Rienとは「全か無か」の意味、CRACは「バキッ」という感じの擬音だそうです。

前者は旧約聖書をモチーフにした世界創造の物語、後者はスケッチ風に綴られたある家族の歴史ですが、
言葉抜きで色彩と動きが奔放に溢れ出すこの2作こそ、バックの本質を最もよく伝える作品にも思えます。

特にバック初のアカデミー賞受賞作である「クラック!」は、ちょっと比べるものがないほどすばらしい。
人の手で作られ、人に寄り添い、成長を見つめながら歳を重ねていく家具の魅力が見事に描かれていて、
「ものづくりの本質」と「よりよく暮らすことの意味」が、この短編の中に凝縮されていると感じました。

また、「クラック!」に登場するシェーカー風の素朴なロッキング・チェアが、小さな子どもたちの遊具として
様々な乗り物に見立てられる様子は、イスの源流のひとつであるシェーカーチェアが徐々に発展していき、
やがてイームズのプライウッド・エレファントやアアルニオの動物シリーズといった子供用チェアに至るまでの
「イスの進化」のはじまりを見ているような感じでした。
イスを巡る発想の広がりを考える上でも刺激的な作品なので、イス好きや家具好きも必見です。

さらに神保町シアターには、バック氏自らの設計図を元に再現されたこのロッキング・チェアの実物も
展示されていました。
しかも劇場の人にお願いすれば、実際に座ることも可能!なんという太っ腹!

ちゃんと背もたれにも顔がついてます。

こちらはきれいなスカーフ・・・と思ったら、なんと「ふろしき」でした(笑)。

お値段は5,000円。

そういえば「木を植えた男」の語り手が最後にエルゼアールと会った時、彼は87歳でした。
そして1924年生まれのフレデリック・バック氏は、今年で満87歳を迎えたところです。

そんな記念すべき年に、日本でフレデリック・バック氏の作品に触れることができるありがたさを
しみじみと感じつつ、この企画を立てた関係者の方々に深く感謝しています。

東京都現代美術館で開催中の「フレデリック・バック展」も、近いうちに見に行く予定。
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